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ハニカムウォーカー、また夜を往く  作者: 高橋 白蔵主
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「ルールとマナー」(4)

ンフフ。

少し驚いた顔になってくれたね。佳き、佳き。わたしはそういう顔を見たくてこの仕事をしているんだ。片付いた部屋、模様替えをされた部屋を見て、みんな目を丸くする。わたしは底知れない喜びを憶える。こういうのをWIN-WINっていうんだろ。

まあ、大抵の人は拘束されると今の君と似たような顔になる。そこに驚きはないんだけどね、それを言い出すと部屋の片付けだって同じことだよ。片付ければ、片付けただけ綺麗になる。ゴミを一つ拾えば、ひとつぶんだけは部屋が片付く。

結果が分かりきったことだって、実際にその結末が訪れると人は驚き、感動するんだ。


驚きを届けたり味わうためにはさ、マナーというものが一番大切だとわたしは考えている。マナーだ。レストランで急に裸になったら、みんな驚いた顔はするだろうけどマナーが悪い。わたしはそういうのは望んでいないんだ。

ドレスコードと一緒でさ、場面場面に見合った適切なマナーがある。どんな場面にだってそれは存在する。


それは、縛り上げられた君と、わたしの間にでもさ。


いいかい?

今からわたしは君の猿轡を外そうと思うけど、マナーについては理解してくれただろうか。言うのも野暮だけど、大きな声を出すというのはマナー違反だ。物語がすぐに終わってしまう。わたしは、君が大きな声を出すために息を吸い込む動作を見たら、声を上げる前に喉を切らなければならなくなる。

お願いだから呼吸はゆっくり、浅めに、というのを心がけてほしい。喉に穴の空いたひとと話すのは結構疲れるんだ。耳を近づけてもよく聞こえないことが多いし、部屋も汚れる。わたしはそのどちらも望んでいない。


呼吸は、ゆっくり、浅く、決して肺いっぱいに吸い込むようなことはやめてほしい。分かるね?これはルールじゃない。マナーだ。


わたしは頼まれたから仕事をしているし、頼まれたのは君を「殺すこと」ではない。

ほら、驚いた顔。

今、わたしはとっても愉しいよ。


でも考えてみたら分かるだろ。殺すだけなら君が寝てる間に済ませるよ。わざわざこうして縛り上げて、猿轡も噛ませてさ、ゆっくり、丁寧にやってるんだ。

最初に言っておくと、わたしは今から君に幾つか質問をするから、なるべく正直に答えてほしい。わたしは、君が嘘を言っているかどうか見破るのは得意じゃないし、そもそもわたしはそれが本当かどうかに興味がない。依頼主は気にするかも知れないけど、わたしは「嘘を見破る」ところまでは頼まれていないしね。


ただ、職業人としてそれが「本当らしい」という証拠は持って帰りたい。分かるよね。その証拠については、がんばって君に提出してもらいたいと思っているよ。


最後にひとつ言っておくと、わたしは君を殺すように頼まれてはいないが、殺さないでとも頼まれていない。わたしは、ンフフ、そうだね。自由度の高い仕事が好きなんだ。


お陰で故郷ではギルドを追い出されてしまったけど、でも、掃除を仕事にするなら美学を持たないといけないとわたしは思うんだよなあ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公がこの先どう動いていくかなど今後の展開が楽しみです。ブックマークに登録させていただきました。今後とも執筆頑張って下さいませ。
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