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ハニカムウォーカー、また夜を往く  作者: 高橋 白蔵主
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「敵、敵の敵、敵の味方」(13)

アンデレック家。通称赤襟一族、というのは国外でも名の知れた傭兵一族だ。近親婚を繰り返して異能を育て、本来は流砂地方を根城に武勇と異能で名を馳せる一族である。その実力主義は龍の国との相性がよく、身分を問わず支持者が多い。


赤襟の傭兵は、荒れた戦場でも略奪や蛮行に走ることがないという。彼らは傭兵稼業にありながら粗暴なところが少なく、比較的他人の話もきちんと聞く。市街にあっては、皆の嫌がる仕事も進んで引き受けるし法律も割と守る。龍の国においてはかなり貴重な、秩序だった性質を有した一族であった。


その規律の源は、その厳格な階位制度にある。一族全てが傭兵という特殊なクランである。その階位制度は、家族の中にも徹底されていた。家長を頂点として、血縁のない一般兵や召使達の中にさえも戦闘力で厳密に序列をつけ、あらゆる場面で上下関係を徹底している。序列は職域ではなく、個人の戦闘能力でつけられていた。序列の高い召使は新兵の代わりに洗濯をし、飯を炊くが、新兵たちは決して彼ら彼女らに横柄な口を利くことはない。

その実力主義は徹底しており、赤襟一族では、武勇、武勲をあげなければ直系の子であっても上の階位には昇れなかった。序列の上で当主が頂点となっているのは、単純に当主が一族の中で「最強」だからだ。


プラムプラムの表現したとおり赤襟一族が「ゴリゴリの武闘派」と呼ばれる所以がそこにはある。彼らの評価基準は唯一、武力だ。彼らは武勇を何よりも重んじる。仮にクランの一員が決闘に負けたとしても、それは個人が負けただけであり、あるいは相手が「強かった」ということであればよいという。

もっともそれは、建前だ。

メンバーの敗北がそのまま「赤襟は弱い」という評判に繋がりさえしなければ傭兵稼業に影響はないはずだが大抵の場合、そう上手くはいかない。戦闘職にあるものは実力主義、質実剛健であるとみられる事も多いが、自身や界隈の評判に敏感である。

身内を倒したその相手が「当主程ではないが、そこそこ強かった」ということを内外に示さなければならず、戦闘力は数字で測ることが出来ないとくれば、相手がそこそこ強かったということを再認識しようとするとするのは実質的な報復戦争である。


「メアリ」


トラブルの予感に頬を上気させたまま、プラムプラムは暗殺者を呼んだ。


「とりあえず、これ、袋のまま持って歩くのやめようね。もう遅いかもしれないけど、あの人たち、名誉おばけだから赤襟一族の死体を辱めたって解釈されたら物凄く厄介なことになる。まあ、もうすでに手遅れっぽいし、あたし厄介なのは大好きだけど、どっちにしたって死んだ人の首振り回しながら歩くのは違うと思う。人の首を粗末に扱って、それを発端にどっちかが全員死ぬまで殺し合いが始まるのは流石にワクワクしない」

「赤襟のゲッコ……聞いたことはあったけど、思ったよりいい男だったんだね」

「生首見てそんな感想持たないでほしい」


プラムプラムは厨房の奥から金属でできた箱を持って戻って来た。保冷できる箱の試作品だという。

兜と首を丁寧に納めて蓋を閉めると、薄い冷気をまとった箱はまるで何か宝の入っているようにも見えた。汚れたテーブルを拭き、プラムプラムは中空に視線を彷徨わせながら何かを考えているようだった。暗殺者もしばらく同じようにしていたが、やがて、自分の使った食器を片付けに厨房に動いた。

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