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ハニカムウォーカー、また夜を往く  作者: 高橋 白蔵主
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「敵、敵の敵、敵の味方」(11)

暗殺者がプラムプラム・フーリエッタに語った内容はシンプルで、間違ってもいないが、細かく全てを話してもいない。逆に彼女の想像をかき立ててしまったようだった。


曰く。

とある用事から忍び込んだ宮廷の一室で巨悪の噂を聞いたと思ったら、ロイヤルガードに襲われた。

身を守るためにやむなく応戦したが、相手は頸を完全にへし折ったのにまだ動いた。仕方ないので助太刀に入ってくれたエルフと二人して完全に斃し、二度と動かなくなるようついでに頸を落としてきた。

助太刀してくれたエルフは、ロイヤルガードにとどめを刺した罪か、他の罪か、詳しくは判らないが何らかの沙汰を下されて地下牢に連れて行かれてしまった。彼女は闇に隠れ、ここまで来た。おそらく警備側は、助太刀エルフの単独犯だとは思っていないけれど、一緒に居たのが彼女だと特定もできておらず、彼女には、"多分"、まだ追手はかかっていないであろうこと。


「あのさ」


プラムプラムは腰に手を当てて暗殺者を見た。


「今、メアリが意図的に隠してる情報は、あたしに知られたくないこと、ってことでいいんだよね?」

「まあ、うん、そうだね。本当にわたしが知らないこともあるけど、概ねそう思ってもらって構わないよ。正直なところ、幾らか伏せてる。単純に個人的な事情の部分だから、物事の複雑なところには絡んでこないと思うけど、どうしても言わなきゃダメかな」


暗殺者は、目を合わせないようにしてぼそぼそと答える。


「別にいいんだけど、そうやって情報を小出しに開示していくと結局、最初から話していた方が良かったってことになることが多いよ。隠していた、という事実が何よりも雄弁に答えを示す場合がある。あたしはそういう例の、具体的なやつをけっこうよく知ってるんだよなあ」


意地悪そうにプラムプラムの目が光り、ハニカムウォーカーは面倒そうに手を振った。


「いいんだ、別に知られたら困るって訳じゃなくて、単にわたしが恥ずかしいってだけだから」

「なになに、忍び込んだっていうのは、夜のデートとかそういうやつ?あたしそういう話も好きよ?」

「いいや、いや。そういうのじゃあないよ。…そういうのじゃないんだ」


ハニカムウォーカーの横顔は、緊張感がなく、ちょっとだけつまらなそうであまり表情を読ませない。興味をなくして何か別の事を考えているようにも見える。

ただ、プラムプラムが知る限り、それは本当に面倒くさいのではなく、彼女が何かを隠そうとしている時の仕草だった。ふう、とプラムプラムは息をついた。


「まあいいや。じゃあ、そういう設定で解釈するけどさ」


言いながら、少し意地悪そうな顔になる。


「メアリは宮廷に泥棒に入って見咎められて、現地の協力者と力を合わせてロイヤルガードを殺して、それで協力者を置いて逃げて来た、って聞こえるよね。追加して、逃げる時に、咄嗟にロイヤルガードの首を切り落とし、お土産に持ち帰っている」

「何それ。まるでわたし、心底ヤバいやつじゃないか」

「第一印象、今の情報だけだとそういう風に聞こえるってこと。あと、自覚あると思うけど、実際行動はヤバいと思うよ。ロイヤルガード殺して、生首持って飲食店に入って来てるんだから」


彼女はこつこつ、と兜の汚れていない部分を人差し指で叩く。


「まあそれでも、あたしをハメても得がある訳じゃないし、嘘つくメリットもないよね。何かの事情があって、メアリは襲われた。とりあえずそこまでは信じてみよっか。…となると次の疑問。『宮廷の巨悪』って簡単に言うけどさ。どういう種類の、誰が関係してるやつなの?」

「ああ、そこ、結構大事なとこだよね。……ただ、それ聞かれると弱いんだよ」


食べ終わった蛇の串を三本、細い矢印のように丁寧に並べてメアリ・ハニカムウォーカーは頬に手を当てた。

考え込んでいるようではあるが、眉間に皺は寄っていない。つるんとした顔である。


「見当らしい見当も全然ついてない。誰が関係しているのかもちょっと判らない。実のところ、本当にそんなものがあるのかってのも確かじゃない。多分、この人は関係ないだろうな、って人は何人かいるけど、それが本当に関係してないかどうかも判らないんだ」

「わお。全然わかんないんじゃん」

「そうなんだよ。困ってるんだ」


プラムプラムはメアリと同じように頬に手を当てながら、ようやく考え込むような顔になった。

彼女は、少なくとも暗殺者が備える間もなく襲われたのだということだけは信じた。そして、その理由に心当たりがつかないのだということも。

全ては、この首を持ち帰ってきたという異常な事実が指し示している。メアリ・ハニカムウォーカーは確かに奇矯な友人ではあるが、意味なく猟奇的なことをする人物ではない。


おそらく「他に手がかりがない」から持ち帰ってきたのだ。プラムプラムは“巨悪”とやらの存在に思いを馳せる。まだ見当がつかないからなんとも言えないが、大規模な闘争の臭いがしてきた。

多分まだ追手がかかっていない、と暗殺者は言ったが、それは「まだ彼女を捕捉できていないだけ」ではないのか。


「どうでもいいけど、よく生首の隣に食べ物の皿置いて食べられるよね」

「え?ああ、ごめん。衛生上、良くないよね」

「そうじゃなくて、臭いとか気にならないの?」

「ううん、そりゃ、気にならないことはないけど、ただ、食べられるときに食べておかないといけない仕事だから」


ぐるん、と目を回して、熱心なこと、とプラムプラムはどさっと椅子に座った。

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