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ハニカムウォーカー、また夜を往く  作者: 高橋 白蔵主
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「敵、敵の敵、敵の味方」(9)

プラムプラムは肩をすくめて、歯車をひとつ摘み上げた。


「いいの、気にしないで。どうせこれ、どの組み合わせがしっくりくるのか、3000回くらい試さなきゃいけないやつだから。ちょうど休憩しようと思ってたとこだし」

「さんぜん」

「ごめん、ちょっと話盛っちゃった。本当は2704。52種類がふたつの組み合わせ」

「ああ、でも、悪いよ」


珍しく言葉を濁して、暗殺者は座りを直した。さっきの店主の合図で冷えたエールが運ばれてきて、彼女は硬貨をテーブルに置く。給仕と短く会話して、彼女は蛇のから揚げを追加で注文した。


「……飲みながら待つよ。まだ他にお客さんもいるし」


ぴん、と歯車を山に戻してプラムプラムは下唇を噛んだ。


「なんか、とびっきりややこしいこと持ってきたって顔してる。あたし、そういうの大好き」

「いや、今回のは本当に厄介なやつだからさ。見せる前にちょっと前置きとかそういうのをさせてほしいんだよ」

「ちょっと、メアリ?」


プラムプラムは眉間に皺を寄せた。基本的には可愛らしい顔だが、そうやって上目遣いで頬を膨らませると、そのまま噛みつきそうな顔になる。


「あたし、気になることが出来ると他の事、なあんにも出来なくなっちゃうのよ。自分の頭で考えたいの。予備知識はたいてい理解の敵になるんだし、どんなことだって一秒でも早く知りたいじゃない。その、持ってきた包みのことでしょ?あたしへのお土産じゃないでしょ?合ってるよね?」

「合ってるよ。これは、お土産じゃない。ただ、これは本題じゃないんだ。これの話をする前に、ちょっと調べて欲しい小瓶があるんだよ」

「うんうん、呪いのアーティファクト?違うな。そういう表情じゃない。なんか食べ物?違うな。あんまり美味しそうな匂いじゃない。音からすると、何か硬いものっぽかったけど、何が入ってるのかな」


話を聞く様子もなく店主は鼻をすんすん動かした。


「プラムプラム、こっちは、後にしようって。マジでさ」


暗殺者が控えめに首を振ると、店主は断然目をキラキラさせる。


「久々に知的好奇心をばっちり満たされる予感がしてるんだな!その包み」

「しつこいようだけど、わたし個人としては、この包みの話は後に回したいんだよ」

「メアリ、思ったよりも人生は短いの。思い立ったらすぐ。やれると思ったらすぐ。思い付いた日が納品日。あたしはいつでも"本題"からしか話をしないことにしてんの、ねえ、知ってるでしょ」

「別に、勿体を付ける訳じゃないんだ。ただ、その、ちょっと困った品でね。君にもまだ見せるべきか迷ってるくらいなんだ」


プラムプラムは両目をつぶって体を震わせた。体内で発生した好奇心が行き場を失くして、文字通り爆発しそうな仕草である。


「ん、んん!誘う、誘うなあ、メアリ!そこまで言われたらあたし、死んでも今すぐ調べたい!」

「誘ったわけではないよ。ただ、一応断りは入れたからね。わたし、蛇のから揚げってこの国に来て初めて食べたんだ。いっつも伝えてると思うけど、本当に美味しいって思ってる。この店、出禁にされたりしたらすごく困る。約束して欲しい。引くのは構わないけど、出禁にはしないで」

「うんうん、いいよいいよ、ほらほら、貸して貸して」


両手を擦りながら、プラムプラムはまるで涎を垂らしそうな顔で暗殺者から包みを受け取った。

テーブルの上で外側の油紙を開くと、べっとりしたものが彼女の右手についた。その臭いを嗅いで、嫌そうな顔になった彼女は暗殺者の顔を見つめ、包みの端を捲って中身を少しだけ覗いた。

中身をそっと指でつつき、彼女は小さく、げっ、と声をあげた。

中身の見当が付いたにしてはそこまで驚いた顔にはならなかったが、ごしごしと急いで台拭きで手を拭く。


「ゴメン、皆!注目、ちゅうもーく!」


叫びながら立ち上がり、プラムプラムが大きく首を振った。


「いいニュース!今日はお代は結構さ!そんで、悪いニュース!呑んでる所悪いけど、今夜は、ここで、閉店だあ!」


横で玄妙な表情をしているハニカムウォーカー。

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