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ハニカムウォーカー、また夜を往く  作者: 高橋 白蔵主
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「敵、敵の敵、敵の味方」(7)

「ちょっと整理しよう」


近づこうとするソフィアを手で制止して、グラスホーンは大きく息をついた。


「レディ、ウェスンテンラ。あなたは、無実の罪で投獄されたと聞いたけれど」

「そうよ」

「同じ立場の僕が言うのもなんだけれど、人の法であってもそうそう捨てたものではないよ。本当に無実なのであれば、必ず助けてくれる人がいる。何なら、僕がここを出た時にはその役をしてもいい。僕で力が足りなければ、知人の弁護人も紹介する」

「それはとても素敵なお申し出ね」

「ありがとう。だから、陳腐な言い方になってしまうが、罪を重ねることはないと思うんだ。ええと、元々のが無実の罪ではあるんだろうけど、脱獄というのは明らかな罪だ。ゼロが、1になる。ゼロと1は大きな違いだよ」

「ええ、通常であればそうでしょうね」


ソフィアの声は拒絶に満ちている訳ではないが、本質的なところで全く届いていないという実感があった。彼女は、何がきっかけでそう思うようになったのか判らないが、すでに脱獄を"検討している"という段階を過ぎてしまっている。


「この、壁について」


確かにここまで壁を破壊してしまった後である。後に引けないのは理解できるが、しかし、まだ引き返せる場所にいるのではないか。引き返すべきではないのか。


「なんとかして言い訳をしよう。僕はそのくらいの片棒なら担ぐよ。たとえば、僕が持病の発作で苦しんでいて、助けを求めていて、それをどうにかするために壊したとか」

「マクヘネシーさん、ご病気なの?」

「いいや、その……違う。すまない。健康体だ。だけど」

「大いなるものにかけて。嘘を吐くのはよくないわ」


半分、膝が崩れそうになる。決定的に、何かが違うのだ。グラスホーンの言葉は彼女に届かない。眉をしかめて、彼はせめて威厳のある表情を保とうとした。


「大体、この房を繋げてどうするつもりだったんだ。扉は破れないって今、自分でも言っていたじゃないか」

「そう、そうなの。"扉は破れない"のよ」


まるでその質問を待っていたようにグラスホーンを遮って、ソフィアはポケットからカフスを取り出した。グラスホーンを拘束していたものと同じ、金属製の魔道具である。


「これで、身体を拘束すれば、開くのだけどね」


にっこりと笑うソフィアを見て、グラスホーンは彼女の言っている意味を理解した。

確かに、これは設計上の欠陥だ。

ただ、誰が壁を破壊する入牢者を想像するだろうか。そして、複数の入牢者が共謀して、脱獄を図るということを想像するだろうか。そして、おそらくは彼が理解したということを、彼女も理解した。


「理解して頂けたかしら」


つまり、この後はおそらく、グラスホーンが拘束具をもう一度身につけることになる。

彼の拘束完了をトリガーとして開く、彼の房の扉からソフィアは出てゆくつもりなのだ。そして、非常にまずいことに、彼はここに"置いて行かれる"のではない。"連れて行かれる"のだ。


「さっき裂いていたシーツは、僕が抵抗した時のためかな」

「まさか!」


ソフィアは心外だという風に首を振った。


「ここから出た後のためよ。地下を通るし、けっこう、ハードな工程になりそうだから」


グラスホーンは最後に見た、メアリ・ハニカムウォーカーのジェスチャーを思いだした。

彼がこの牢に連れていかれる通路の途中。声の届かない距離。彼にしか見えない位置から顔をのぞかせた彼女は片目をつぶり、片手で手刀を作って口をパクパク動かした。


『 む・か・え・に・い・く 』


彼女はそう口を動かした。

しかし、彼が彼女を待つことはできそうになかった。

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