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ハニカムウォーカー、また夜を往く  作者: 高橋 白蔵主
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「敵、敵の敵、敵の味方」(1)

龍の国の王は生まれた時から龍の言語でしか喋らない。

喋れない、と言った方が正確だろうか。この国で王は世襲ではない。王は七年で生まれ変わる。

古い王の身体が滅びる晩、空が赤く燃える。そして七晩ののち、王は人の体を持って人の母より生まれ、龍の言語でその存在を示す。騎士たちは龍の言語を使う赤子を国中から探し、転生した王は、七月をかけて以前の体を取り戻す。


そして再び王座につくのだ。


かつて龍は龍の言語で規則を作り、人間と契約した。

それを守る限り龍は人間に加護を与え、龍ではなく王として王国に留まる。

本来、龍は目に映るものをすべて滅ぼす性を持つ生物である。善悪ではなく、本質的に龍は番の相手以外に生き物の存在を許さない。この国は成り立ちからして特異だ。

ともあれ王国に居を構えようというものは皆、宣誓を済ませて住人となる。誰であっても龍との契約を破ることは許されない。違えたものは龍によって追われるのだと聞くが、実際にその例を聞いたことはない。大抵のものは、龍に誓約したことを違える時、同時に死ぬ。


この国が奇妙な、そして興味深い国として有名なのはその誓約によるものだ。


龍の国では誓約の際、二つのことが求められる。

ひとつめに、この国にいる間を相互扶助に努めるという宣誓や、細かい儀式手順の遵守を誓う。たとえば龍の居る場での振舞いについては細則があり、奇妙なものでは「穢れた言葉を発してはいけない」というものや「他人の名を呼んではいけない」などのものがある。もしもメアリ・ハニカムウォーカーが天覧試合に参加した場合には、おそらく「黒角の、夜を這う者」などと呼ばれることになるだろう。


そしてもうひとつが、試技である。

この国に居を構えるには、誓約とともに、一定の武勇や技能を示さなければならない。逆に言うと、龍の国は一定の能力さえあれば他国を追われた者であっても受け入れる。他国で罪人と呼ばれるものであっても、過去だけを理由に排除されることはない。龍の国はどこまでもその能力だけを見る。その意味では、ひとが過去を捨て、その人生をやり直すのに最も向いている国だともいえる。


人は誓約によって加護を得る。加護の内容は人によって違う。まったく新しい能力が発現することもあるし、単に風邪を引きにくくなる程度のこともあるという。加護を与える龍の側が誓約によって何を得ているのかはよく判らないが、誓約を済ませた者が何かを代償に奪われることはないという。


ただ、王である龍、龍である王は人に加護を与え、民を増やすことを好むが、そのすべてを庇護することはなかった。


誓約を済ませたものたちの名簿はあるが、それを閲覧できるのはほんの一握りの人間しかいない。加護の具体的な内容に至っては、本人以外は誰も判らない。さすがに旅人が宮廷に入る際はボディチェックが必要ではあるが、市や、市街への逗留に制限はない。ひとは、市で出会うものがすべて同じ龍の国の住人だろう、と思いながら接する。すなわち、まあまあの武力を持った、対等な同胞。加護を持ち、敬意を払われるべき対象としてお互いを見る。

メアリ・ハニカムウォーカーが見たという、流れ者のオーガの角をへし折って黙らせた町娘というのはおそらく実在するのだろう。残念ながらオーガは龍の国の住人ではないただの旅行者で、娘は住人だった。それは、そういう話なのだ。


龍の治める地であるというだけでなく、その奇妙な入植基準によって、そもそもこの国の住人の平均的な戦闘力は異常に高い。それもあってか、この国の領土を攻めようという国はこれまで存在しなかったし、おそらくはこれからもないだろう。龍の国には領土と呼べる一定のテリトリーはあるが、国境はない。その意味では、「国」と呼ばれるのはおかしいとも言える。


王である龍、龍である王は、人の行動を律する法を作らなかった。

具体的な統治をしない龍に代わって、十人前後の宮廷会議の面々が法に則り、統治をしている。

二年に一度の天覧試合の勝ち負けによって大臣を含む彼らが選出され、そして国を治める。他の国で一般に罪だとされるものは、殆どの場合、他国と同じように法によって咎められる。誓約と違い、龍の作ったものではないため、それらは人の法と呼ばれる。

統治の為、ほとんどが組織されたボランティアや名誉職からなるものではあるが、龍の国にも治安を維持するための部隊がある。大抵の場合、この国の住民たちは当事者同士で解決してしまうし、基本的に罪人は死罪か追放処分であるが、必要に応じ、拘束するための牢だって存在する。


その、あまり使われない牢は、宮廷の地下にあった。

グラスホーン・パトリックノーマンマクヘネシーが現在、うつ伏せで横たわっている牢だ。

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