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ハニカムウォーカー、また夜を往く  作者: 高橋 白蔵主
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「緊張と弛緩」(15)

「まあ、ともあれ、さ」


メアリ・ハニカムウォーカーは、ぽん、と手を叩いた。


「ちょっと整理してみようか。時間もあんまりないんだけどさ」

「これからどうするつもりなんだ」

「それ。まさにその話だよ。これからどうするのか、選択肢は多いわけではないけど、君にも考えたり選んだりする権利はあると思うんだ」


暗殺者はまた卓にぴょんと腰掛けた。


「わたし自身は、今からそいつが持ってた謎の小瓶と、こいつを持ってここから出て行こうかと思ってる」


弁当の包みのように、気軽に首を振ってみせる。月明りが静かに彼女の影を卓に落とす。


「一応さっき、わたしとしては君からの依頼を請けたつもりでいるんだけど、そういう解釈でいいのかな。宮廷会議のお掃除。つまりヴァレイを殺した犯人のついでに、関係している連中を捕まえる。なるべく殺さない、というオプション付き。金額については、本当は先に交渉しておきたいところだけど、時間がないから仕方ないね」

「時間?」

「そうだよ、まだ夜は明けないけど、わたしはもうそろそろ退散の時間だ」


それに実はもうちょっと眠い、と暗殺者は笑った。


「ただ君は、どうしたらいいんだろうね。ちょっと不確定な要素が多すぎて、流石にわたしも助言しかねている」


グラスホーンは、ロイヤルガードが乱入してくる前の話がどこまで進んでいたのかを思い出そうとしかけて、止めた。彼女の言う「不確定な要素」というのが確かに多すぎる。今考えるべきなのは、自分がどうするべきか、なのだ。


「信じてもらえないかも知れないけど、わたしは、こんな展開になるなんて思っていなかった。君に会って、話してみて、何か新しい展開があればいいなあと漠然と思っていただけなんだ。ヴァレイの事件に何か陰謀があるかもなんて想像はしていなかったし、さすがにロイヤルガードを殺すことに……いや、これに関しては完全にアクシデントだったし、そもそも多分、わたしたちは誰かにハメられてるんだけど、とにかく、こんなことになるなんて思ってもいなかった」


暗殺者は難しい顔をしている。


「……ただ、まだ、君は後戻りが出来るんじゃないかと思うんだよ」

「後戻り?」

「例えばわたしが君をもう一度縛り上げて出て行く。この、また動くかもしれない死体と過ごすのはぞっとしないだろうけど、朝になれば誰かが来るだろ。一体どうしたんだって聞かれたら今夜起きたことはすべてわたしのせいにしてしまえば、君はとりあえずのところはお咎めなしだ。そもそもわたしは自主的に忍び込んで来たんだからね。そうなると本来の道筋としては、きっと君を縛り上げたところでロイヤルガードと鉢合わせしたってとこなんだろう。慌てて応戦したわたしがロイヤルガードを殺した。頭を持っていった理由は分からないが、残された証拠を見れば人はそう受け取るだろうね。わたしに縛り上げられた君がロイヤルガードを殺すのは不可能だ。襲わせたやつからすると、君が生きてるってこと自体は誤算だろうが、まさかわたしと君がグルなんじゃないかって疑われることは、まず、ないだろう」


彼女は難しい顔のまま、足をぶらぶらさせる。


「君の、騎士道精神みたいなやつからすると不本意かも知れないが、一旦わたしに全ての罪をかぶせておくのは難しくはなさそうだ。それに、そうしておけば、君にこの宮廷の中に残って別の動きをしてもらうことも考えられるような気もする」


グラスホーンは考える。確かに、彼女のいうことも一理あるが、それよりも何かを見落としているような気がした。なんだろう、と思いを巡らせ、そして思い当たる。


「いや、それは出来ない。というより、リスクが高いな」

「リスク?」

「この後、僕の部屋にくる人物が友好的な人物だけとは限らない。もう朝まで誰も来ない、という前提がそもそも間違っていないか」


聞いて、ハニカムウォーカーは一瞬目を大きくした。ほとんど表情は変わらないのだが、作り笑いのように口角を上げる。グラスホーンはそれに気づいたようで、怪訝な顔になった。


「どうした?」

「え?いや、なんでもないよ。いや、たしかに、そうだね。君のいう通りだね」

「なんだか、今、様子がおかしかったが」


追求する姿勢を見せたグラスホーンに、暗殺者は片手を振った。心なしか恥ずかしそうに見える。


「ごめん、ちょっとカマかけたんだよ。本当にごめん。あんまり可能性は高くはないけど、このロイヤルガードが君の差し金だったいうパターンを考えてたんだ。リィンお嬢様の動きを察知していた君が、その対抗手段として予めロイヤルガードのデリバリーを手配していた可能性をさ」

「ええと」

「その場合、君は今晩、あらかじめ自分の安全を確保していたということになる。そうなると今までの、ちょっと物分かりの良すぎる言動とかにも一応理由がつくような気がしてたんだ。こいつを刺したのも、利用価値の天秤でわたしの方が有用になったからというだけと考えればまあ、そこまでおかしくはないしね。そうなると、君は今のわたしの提案に乗って、喜んで拘束されたことだろう。ここから出て、わたしみたいなのと一緒に行動するというのはまあ、色んなリスクを伴うからね。安全が確保されてるなら、ここに残る方が利口だし、さっきも言った通り、色々便利だ」

「ミス・ハニカムウォーカー」

「ああ。ああ、悪かったって!」


遮って彼女は両手を大きく振った。


「もうやらない、とは約束できないけど、なるべくやらないと約束するよ。これから、ある適度は君のことを信頼する。パートナーとして扱うよ」

「その、期待を裏切るみたいで悪いんだが、僕の提案は、やっぱり僕を拘束してくれないか、というものなんだ」


提案に、ハニカムウォーカーはあんぐりと口を開ける。


「君、今の話聞いてた?」

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