被監禁日誌(2)
この装置についても残しておこう。
正直、見たことのないものだ。龍の国で広まっているものではなさそうだし、僕が使っていたものとも違うが、根底は同じだろう。この予感に間違いはなさそうだ。
選んで、記録して、保存する。
要は魔術的な回路を使うか、紙とインクを使うか、石板と鑿を使うかの違いで、言葉を扱うものたちはいつの時代も記録から逃れられない。
考えたこと、忘れてしまいそうなこと、後から取り消させないこと、そういったものを僕たちは書き留めてきた。エルダー、ヒューム、もしかしたら魔物たちだって同じことをしているかもしれない。
ともあれ今は手元に眼鏡もない。
しばらく厄介になることは間違いない。紙とペンではなく、こうした魔道具を与えられたのは幸運と呼ぶべきだろうとは思う。
僕は昔から記録魔だった。自分の辿ってきた道筋に、書き残さねばならないほどの価値があるとは思わないが、ひとは価値があるから記録するのではない。
そこには色々な動機があり、そして当人たちの思惑とは全く別の次元で記録されたものにはそれぞれ独自の意味が生まれる。その意味では、エルダーに記録魔が多いのは面白いと思う。これはなんとなくの感覚だが、滅多に子を為さない種族ほど記録をたくさん残しているような気がする。そう思うと記録や情報は、ひとと関わってゆく生き物にとっては子孫と同じような意味を持つのかもしれない。
この装置とこの日記について、彼女は顔を少し赤らめて絶対見ないというようなことを言ったが、気にしてはいない。もともと読まれて困るほどのことを書くつもりはない。
彼女は、この手記を最後の手段として使うと言った。
最悪の展開になった場合、彼女に全ての罪を着せて僕だけは助かるためのツールだという。つまり、元々が誰かに読まれることを前提にとった手記というわけだ。
そういう位置付けのものに、赤裸々な秘密を書こうとは思わない。
ただ、読むつもりがないという彼女の意思と潔癖さについては尊重しておこうと思う。
つまりこれは、おそらくは宮廷会議の面々が読むだろうということを想定して書く日記だ。
だからこそここに、最初に明確に記しておくが、僕はこの記録を通して自身の潔白だけを主張しようとは考えていない。
僕を地下牢に閉じ込めた宮廷会議の処置は間違ったものだと今でも思っているし、議論が許されるなら公平な場所で争うべきではないかと思っている。
入獄に関してはともかく、破獄に関して僕は完全な無実ではない。本気で抵抗しようとすればもっと抵抗することもできたはずだが、僕はそうしなかった。彼女と言葉を交わさなければ、彼女は破獄という選択肢を取らなかったのではないかという思いもある。
彼女について、僕はそれほど多くのことを知らない。
名前、生まれた土地の気候、敵対している相手、僕が知っている情報は限られたものだ。なぜ彼女が投獄されていたのか、僕は知らない。
だが、彼女が破獄に至った経緯のきっかけに関しては、責任の一端が僕にもある。
今僕に言えるのは、彼女にも最大限の酌量の余地を与えてほしいということだけだ。