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3歳の誕生日

◇◆◇


「ヴォル!お誕生日おめでとう!」

「おめでとう!」

「おめでとうございます」

「ありがとう!」


 テーブルには豪華な食事が並んでいる。今日は俺の三歳の誕生日だ。もう完璧にひとりで歩けるようになり、言葉も話せるようになった。まだ剣を振れるほどの体にはなっていないのは残念だが、三歳児はこんなものだろう。

 魔力の方は自覚してから今まで毎日修行を続けてきた。もちろん怒られないように誰にもバレずにだ。最初は数秒で尽きてしまった魔力も今では数分は持つようになった。それに魔力を放出する速度もあの頃よりは速くなった。掌だけではなく他のところからも放出できるようになったし、多少は魔力の扱いにも慣れてきたとは思う。

 そして今日、更に次の段階に進もうと思っている。


「誕生日プレゼントは何がいい?何でも買ってやるぞ~」

「もう、あなたは甘やかしすぎよ」


 そう、母さんに魔法を習うのだ。


「母さんに魔法を習いたい!」


 父さんは少し驚いたような表情をしている。母さんとクロードは驚いてはいないが微笑んでいるな。


「お、魔法か?」

「うん!」

「誕生日プレゼントに魔法を習いたいって、変わったやつだなお前は」


 まあ、三歳児としては確かに変かもしれない。けれど、誕生日こそこのお願いするのには一番いいチャンスだ。


「まあ、俺は魔法に関しては専門外だからな。そこら辺は母さんに任せるよ」

「ふふ、そうね。ちょっと早いかもしれないけれど、ヴォルの賢さを考えたらいいかもしれないわね。ね、クロード」

「ほほ、そうでございますな」


 母さんとクロードは二人で笑い合っている。何がおかしいのだろうか。


「ん、どうしたんだ二人とも」

「いえ、何でもないわ。わかったわ、ヴォルの魔法の修行を見てあげましょう」

「ほんと!やった!」


 俺はガッツポーズをして喜んだ。

 よし!これで魔法の修行を始められる!剣の方も早くやりたいが、今のところは魔法だ。魔法も魔法で面白いからな。


「早速明日から始めましょうか。ヴォルの今までの修行の成果も見てみたいですし」


 ガッツポーズをした体勢のまま固まった。

 え、今なんて言った?修行の成果?

 嫌な予感が頭を過り、冷や汗が頬を伝う。


「ん、修行?なんのことだ?」

「ふふ、あなたは知らなかったものね。ヴォルは一人で魔力を鍛える修行をしていたのよ。ねえ、クロード」

「はい、そうでございますね」


 あ、あれー、おっかしいなー。なんで二人とも知っているんだろーなー。


「家の中であんなに魔力を垂れ流していて気が付かない魔導士なんていませんよ」

「あ、あはは」


 俺はごまかすように頭を掻いて笑うが、乾いた笑いしか出てこない。

 魔力を使っていて魔法の暴発なんか起きたら死にかねない。自分の子供、しかも一歳や二歳の赤子がそんな危険なものを使っていたら、さすがに……


「……ヴォル、魔力がどれほど危険なものか知っているのか」


 父さんの表情がいつになく真剣なものになった。これが一級冒険者の威圧感ともいうべきか、怖い。


「う、うん」

「お前……」

「ローベルト」


 父さんの言葉を母さんが遮った。


「大丈夫よ。私とクロードがいつも見ていましたもの」

「え?」


 いつも見ていた?


「ええ、そうでございます。ヴォルター様が一歳の頃、夜な夜な魔力の修行をしていたときから常に見守らせて頂きました」


 まじか、最初っからバレてたのかよ……。


「私も最初は止めようかと悩みましたわ。けれど、一歳の子供が師匠も持たずに自らの力だけで魔力を自覚し、放出するまでに至ったその才能にブレーキをかけるべきではないと思ったの。もちろん、もし魔法の暴発が起きそうになったらすぐにでも止めに入るつもりでした。しかし、この二年間そのようなことは一切ない。私など遥かに凌駕する才能をヴォルは持っているのですよ」


 ああ、そうか。さすがは母さん、見守ってくれていたのか。


「……そうか。ラウラがそう言うなら問題ないんだろう。だが、魔力は危険なのは変わりない。ヴォル、そういうことはしっかり言いなさい」


 知らないうちに母さんとクロードに守られていたんだな。魔法が暴発しなかったのは偶然だろう。そんな危険なことをして父さんが怒るのも当然だ。


「うん、ごめんなさい」

「わかった。魔力の鍛錬を黙っていた件はこれで終わりにしよう。せっかくの誕生日だしな」


 さっきまで真剣な雰囲気だった父さんが二カッと笑った。


「それにしても、ヴォル!お前すごいじゃないか!さすがは俺の子、いやラウラの子だな!」


 急に嬉しそうに褒めてきた父さんの変わりように少し驚いた。


「う、うん」

「ヴォルター様が一歳のとき、私に話を聞いただけで魔力の修行を始めたのは驚きましたよ。集中しすぎて私が部屋に入るのに気が付かなかったようですが」


 クロードは悪戯をするような笑顔で笑う。


「私も、街から帰って来てクロードから聞いた時は驚きましたわ」

「俺にも教えてくれればよかったのになー」

「言っても魔法のことなんてさっぱりわからないでしょう?」

「まあ、たしかにな」


 三人とも笑い合っている。

 まあ、一段落ついたって感じでいいのかな……?なにはともあれ、これで魔法を習えるんだから一件落着か。

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