父と母
確か魔力を放出することで徐々に魔力量の絶対量が増えていく、だったよな。よし、早速この魔力を体の外に流してみよう。
俺はもう一度瞑想を始めた。
今度はさっき感じた魔力を動かし、掌から外に流れ出すように意識をする。
始めは無意識で体を巡っていた魔力が、意識し続けるうちにゆっくり、ゆっくりと掌を介して外へと流れ出ていく。
おお、すごくゆっくりだが魔力を放出できているのがわかる。
「……はぁ、はぁ」
頭がクラクラする。これが魔力欠乏か。
数秒間魔力を放出し続けてみたがもう魔力が切れてきたみたいだ。こんなにゆっくり放出しているのに一瞬で無くなってしまうとは、かなり魔力量は少ないのだろう。まあ、これから少しずつ増やしていくんだ、問題ない。
「よし!」
この世界に来て初めての進歩。これでもう暇なんて無くなった、修行だ!
◇◆◇
魔力を自覚してから数日が経った。
あれから俺は隙をみては魔力を放出し続けていた。魔力を使っていることがバレてしまえば危険だと止められるかもしれない。見つからないように、慎重に修行をしていった。
よし、少しではあるが魔力を放出する速度が上がってきたな。まだ数秒間しかもたないが速度が上がっている分、きちんと魔力量は上がっているのだろう。
「ただいま」
ラウラが街へ出発してから一週間と少し経ったがやっと帰ってきた。
「おかえりなさいませ、ラウラ様」
「なにか問題はありましたか?」
「いえ、何一つ問題なく」
クロードが少しこちらを見たような気がしたが、気のせいかな。
「ヴォル~、寂しくなかったかしら」
ラウラが俺を抱き上げる。
「うん!」
「おう!ラウラ!大丈夫だったか?」
「当たり前でしょ、順調だったわ」
「そうか。……すまないな、俺の目が見えていれば」
「ふふ、気にしないで」
目が見えていれば?そういえばラウラはなぜ街へ行ったんだ?出発した時と荷物は変わらないから、何かを買いに行ったようには見えない。それにローベルトはなんで謝っているんだろうか。
「しかし、街のギルドも未だにお二人に頼るとは、情けない限りでございますな」
「まあ仕方がないさ。あの街には俺ら以外の一級冒険者はいなかったからな」
え、街のギルドが二人に頼るって、ローベルトはともかくラウラも強いのか?それに一級冒険者?
そういえば一年間俺を育ててくれているが、この二人のことは全然知らないな。いい機会だ、聞いてみるか。
「いっきゅうぼうけんしゃ?」
「お、何だヴォル、興味あるのか?」
「うん!」
「はは!さすがは俺の子だ、いいぞ話してやろう」
「ラウラ様はご帰宅なされたばかりですし、少し休まれては?もうすぐ夕食です。その時にお話されてはいかがでしょうか?」
「ああ、そうだな。お疲れ様、ラウラ」
「ええ、ありがとう」
二人の過去か、ちょっと楽しみだな。
夕食を食べ、クロードが片付けをしてくれている中、ローベルトが話を始めた。
「ヴォル、俺とラウラは冒険者をやっているんだ。冒険者と言ってもわからないと思うが、簡単に言うと敵を倒してお金を稼ぐ仕事だな。俺はもう目が見えていないからほとんど冒険者としての活動はしていないが、ラウラは未だに現役だ」
「ふふ、今はもうほとんど隠居して頼まれたときにしか活動しませんよ」
ギルドから頼まれるってのはこの二人がかなり強いってことなんだろうな。
「たのまれるの?」
「そうでございますよ。お二人は一級冒険者。一つの街に一人いるかいないか、才能の突出したもののみがたどり着けると言われる階級です」
開いた口が塞がらないとはまさにこのことだ。その歳で隠居しても暮らしていけるほど一級冒険者として稼いできたのだろう。
まじか神様、すごい両親のもとに転生させてくれたみたいだな。
「まあ、所詮は一級だ。特級冒険者とは天と地ほどの差があるさ」
「特級は世界にも数人しかいない、種を超越したとされる階級。あなたも目が見えていればいつかは到達できたはずよ」
「お前こそ、俺について来なければ……」
「目の見えないあなたを置いていけるわけがないでしょう。いいのよ、私が選んだのだから」
「ああ、そうだな。ありがとう」
なんだかラブラブな雰囲気を醸し出しているが、なんとなく掴めたぞ。
二人は超優秀な冒険者だったが、ローベルトが目に傷を負ったことをきっかけに隠居。今は冒険者時代に稼いできたお金で田舎での隠居生活を送っているってことか。というか、目が見えていれば特級冒険者になれたって、俺の両親強すぎだろ……。
「す、すごい!」
「そうだろう、ヴォル~。父さんたちはすごいんだぞ~」
「ヴォルター様は賢い方ですから、きっとお二人のようになれますよ」
「そうね、私達の子ですもの」
この二人に魔法と剣術を習えば俺もきっと強くなれるだろう。今はまだ幼すぎて教えてはくれないだろうけど、できる限りのことをしておこう。
今はまだろくに魔力を扱えていないが独学でできるところまでやってみよう。目標はこの二人だ。