修行
◇◆◇
その日の夜、とりあえず手始めに瞑想をしてみることにした。
よし、ローベルトとクロードは寝たかな。魔力の訓練をしているとバレたら止められてしまうかもしれないからな。昼にたっぷりお昼寝をしておいたからとりあえず朝までは起きていられるだろう。
確か自分の体を流れている魔力を感じるんだったよな。
「……むりだ」
あれから数時間、すでに空は青みががっている。休憩を挟みつつ瞑想をして、自分の中に流れている魔力を感じようとしたが、そのきっかけすら掴むことができなかった。
前世ではファンタジーな存在の魔力なんてものをいきなり理解しようとしたって無理ってものか。
「まじかぁ」
どうしたものかとぼやいていると、部屋のドアが音を立てずに開いた。
「おや、ヴォルター様。目が覚めておりましたかな」
「う、うん」
あ、焦った。まさか音を立てずに入ってくるなんて。さすが執事、起こさないように配慮してくれたのか。
……魔力の修行しているのバレたか?
「朝食になさいますか?」
「う、ううん」
「そうでございますか。かしこまりました」
そう言ってクロードは部屋から出ていった。
ふう、バレてはいなさそうだな。これからは気をつけて修行をしていかなければな。
とはいってもどうするか。自分で魔力を自覚するのは一番難し方法であると聞いたが、一日やってここまで何もきっかけがないのは厳しい。まあ、一朝一夕でできるようなものでは無いだろうからもう少し粘ってみるが、……確か才能が低いとこの方法ではできないんだよな。神様、どうか俺にそれだけの才能がありますように。
少年の神様に祈りながら眠りにつくことにした。
◇◆◇
あれから一週間が経った。毎日たっぷり昼寝して一晩中瞑想を続けているが、なんの手がかりも得られていない。
まあ、前世では毎日のように父さんにしごかれていたのだから、このくらいのことならどうってこと無いな。かといって、このまま何も進展しないのは時間がもったいない。
うーん……、魔力が何なのかをもう少し理解するべきか。未知のものを感じようとするより、理屈を理解したほうがやりやすい気がする。たぶん。
よし、母さんはまだ帰ってきてないし、クロードに聞いてみよう。
「くろーど」
「おや、ヴォルター様。どうかなさいましたか?」
部屋の掃除をしていたクロードを見つけたので早速聞いてみることにした。
「まりょくって、なに?」
クロードは掃除を中断して、壁伝いに歩いていた俺をひょいっと抱き上げた。
「魔力とはなにか、ですかな?」
「うん」
「よほど魔法の話が気に入ったのですかな?ふむ、難しい質問ですな」
クロードは悩むように片手で髭を撫でている。
「そうですね。魔力を持つ人間の体には常に、頭から足の先まで魔力が巡っております。その中でもここ」
クロードはヴォルのへその少し下の部分を指を指す。
「この部分から魔力が生み出されている、と考えられております。魔力を自覚できるようになればわかりますが、ここを中心にして体中に巡っているのを感じます。保有できる魔力の量は人によって限界はございますが、熟練者になると集中することで意図的にここから魔力を生み出すことができるとも言われております」
へその下から魔力が生み出される……。そこって丹田じゃないか?
たしか前世では精神論だが、丹田では気を溜める事ができるという話があったな。もしかしたらこの世界では前世で言う気という概念が、魔力として存在しているのだろうか。
「少し難しすぎる話でありましたかな」
「ありがとう!」
「いえいえ、また何か聞きたいことがあればなんなりと」
憶測でしかないが、魔力を前世で言う「気」に置き換えて考えるか。前世では剣道で丹田を意識することや、丹田呼吸法を行っていたから今日はそれを意識しながらやってみよう。
その日の夜、二人が眠ったのを見計らっていつものように瞑想を始める。
ふふ、この一週間なんの成果も得られなかったが、今までの俺とは違うぞ。
「ふう」
丹田を意識した腹式呼吸をすることで、そこから巡っている魔力を感じようとする。
前世ではこの呼吸方法が身につくように日常生活から意識していたな。……やっぱりいい、よく集中できる。
「……あ」
数分ほど経ち、腹の奥からなにか温かいものが流れ出ている感覚がした。
「もしかして、これか?」
まさか、魔力か?丹田のあたりから体の全身になにか温かいものが巡っているのがわかる。血液とは違い、意識を向けると明らかにその動きが認識できる。間違いない、これが魔力だ!
俺はゴロンと後ろに寝転がり、両手を上に突き上げてガッツポーズをした。
神様ありがとう!本当に魔法の才能を授けてくれたんだな。
ヴォルは少しの間、困難を克服した達成感と未知のものに触れることのできた高揚感に浸っていた。