神様
何が起きたのか理解できずもう一度後ろを振り返る。しかし、そこにも同じように真っ暗な世界が広がっている。
な、なんだいきなり。夜?ってわけでもないよな
突然の暗闇に驚きはしたが、死んでいるせいかすぐに落ち着きを取り戻した。
少し経ち、どうしたものかと悩む剣人の目の前にぼんやりと光の玉が現れた。その玉は少しずつ人の輪郭を形作っていった。
「やあ!」
少年の姿となった光の玉は無邪気な口調で話しかけてきた。
「突然の事で混乱してるとは思うけど、僕は神。君は桐生剣人くんだね?」
黒髪に黒い目、中学生のように少し幼い顔つきをしたその少年はどうやら神らしい。
「神様、ですか。はい、そうです」
あの列を目指さなくても待っていれば神様が現れてくれたのかな。だったら最初っからそうしてくれればよかったのに
「まあ、わかってると思うけど君は病で亡くなってしまったよ」
「はい。神様が現れるまで時間はあったので、自分の中で整理は多少なりともできています」
「そっか、それはよかったよ」
「これから自分は天国か地獄に行くのですか?」
「え?」
「え?」
神様は何を言ってるんだというような顔で首をかしげた。
「あ!そうか、君にはまだ何も話していなかったね!」
思い出したと言わんばかりに顔の前で両手を鳴らした。
「僕は地球の神ではないよ」
「え……、は?」
地球の神様じゃないって、地球以外のどこに神様がいるってんだ。
「君の住んでいた世界とは別の世界、いわば異世界の神様さ!地球の読み物でそういう物語は聞いたことがあるだろう?」
「は、はい。そういう小説は結構好きなので……」
「ならわかるでしょ!君はこれから僕の世界に転生するのさ!」
「いや、え、嘘……」
神様がおちょくってるのか?あれはあくまで物語の話だろう。
「神である僕が嘘なんて言うわけないじゃないか。物語ではすぐにみんな納得してるのに、君はものわかりが悪いなぁ」
「いやいや、あれは空想じゃないですか。ファンタジーですよ?それが現実で起こるなんて……」
「ちっ、ちっ、ちっ」
人差し指を揺らして小馬鹿にしたような動きをしてくる。
「世の中を君の尺度で考えたらだめさ。たかだか人間一人、知らないことのほうがたくさんあるに決まってるだろ?」
先程まで少年のような口調だったのに、突然こちらを諭すように語りかけてくる。
「まあ、確かに」
その神様の話し方には妙な説得力がある。しかし、もし本当にこの人が異世界の神様だとしても、どうしてわざわざこんなことを?
「なんで自分なんですか?」
「ん?」
「いや、亡くなった方なら自分以外にたくさんいたと思うんですけど、なんで自分が選ばれたのかなって」
「ああ、それは……適当かな」
神様はあっけらかんと答えた。
「え?」
「いや、もちろん精神力が強くないとそもそも異世界まで魂を持ってこれないとか、犯罪者ではなかったとかは考慮してるよ。けれど、それさえクリアしていれば特に誰でも良かったかな」
あまりに予想外の返しに剣人は少し固まってしまった。
「……そう、ですか」
少し期待していた自分を馬鹿らしく感じる。
「ふふ、怒らないんだね」
「……神様に文句いうほどの勇気は無いです」
「ま、それもそうだよね~」
神様はふわふわと浮かびながら俺の周りをただよっている。
「じゃあ、早速転生するかい?」
「え、いやちょっと」
「あ、なにか聞いておきたいことがあるかい?」
「えっと、自分が転生する目的はなんですか」
「目的?」
「はい。魔王を討伐するため、みたいなのとか」
「あはは!」
いたずらをする少年のように笑う。
「目的なんて無いよ。君は僕の暇つぶしのために呼んだんだから!」
「暇つぶし、ですか?」
普通ならそんな適当なことあるか!とでも言って怒るのだろうが、慣れてきたのかあまりショックを受けなくなってきた。
「うん!前に呼んだ子が死んじゃって暇になってしまったからね」
「ってことは自由に生きていていいってことですか」
「そうだよ。次に君が行くのは魔法や魔物が存在する世界。君が生きたいように生きればいいさ」
「魔法……」
本当に小説で呼んでいたあの空想世界に行くってことか。なんだか無性にワクワクしてくる。
「もちろん君が今までやってきた剣術も生かせると思うよ」
「そうですか!よかった」
「前の子みたいにすぐには死なないでおくれよ~。あ、せっかくだから何か欲しい力はあるかい?」
ほしい力、か。どんなに剣術を練習しても死んでは元も子もないんだよな……。
「……丈夫な体が欲しいです」
「あー、君は病で死んだんだったね。わかった。ついでにせっかくの異世界なんだし、魔法の才能もつけといてあげるよ。他になにか聞きたいことはあるかい?」
「えっと、あまりすぐには」
「そうしたら、君が教会で祈れば僕に会えるようにしておいてあげるよ。それじゃあ転生しようか」
神様が剣人に向かって手をかざすとぼんやりと光り始めた。
「適当であっても、君は何億分の一の確率で選ばれた。後悔のない人生を歩んでおくれよ」
神様は再びこちらを諭すように語りかけてきた。
「はい」
剣人の体は輝きを増す。
「それじゃあ、いってらっしゃい!」
輝きは更に増し、剣人の意識は薄れていった。
再び暗闇が戻ると、そこには神様の姿だけがあった。
「せいぜい楽しませておくれよ、剣人くん」