9.道のり
よろしくお願いします
優と馬車に乗る3人、護衛2人は無事にバルバラ大森林を抜けてトーラムへ続く街道に出る事が出来た。
ゴブリン達にやられた護衛はその場に埋めて形見になるものだけ持ち帰った。
そのまま放置しとくとアンデットになり魔物に変化する為、遺体は火葬するのがこの世界では一般的らしい。
馬車に乗る3人は家族でトーラムの街で商人をやってると言う。
主人がガラムで奥さんがイルミ、その娘がマリネと行った。
マリネは優の隣に座ってピッタリとくっついていた。顔を向けると嬉しそうに笑みを浮かべるから優はマリネを無理に引き剥がすか事も出来ずに困った顔で夫婦を見たがニコニコと微笑ましそうに見ているだけで優はマリネを引き剥がすことを諦めた。
因みにあの護衛達は男性がムート、女性がタタリで2人はトーラムを拠点にしてる冒険者であった。
街道に出たら、優は馬車の中に入ってムートとタタリ2人に馬車の護衛を引き継いだ。
優は何故街道に出ると魔物が襲ってこないのか、気になって尋ねた。そしたら、
「主な街道の周囲にはね、魔物が嫌がる花を咲かせているんだ。ほら、あそこに見えるだろう」
そういってガラムは白い花を指差した。
(白い花が魔物を…?)
「あれはパキラという花でね。あのパキラから出す香りが魔除けしてるわけさ。
だから、大事な場所には大体あのパキラが活けてある」
「へえ、凄いですね」
(そう言えば、地球にも花には魔除けがあるって言われてるもんな)
「とはいえ、あまりパキラも万能ではないけどね」
「何でですか?」
「魔除けって言ってもあくまで低ランクの魔物に対してだけ。ランク5以上の魔物には効かないんだ」
「あなた、パキラの話は置いといてお礼を言いましょう」
そこで今まで黙っていたイルミが話に入ってきた。
「あ、そうだったね。ユウ君、君のお陰で助かったよ。改めて礼を言うよ」
「主人の言う通りです。ありがとうございます!」
「お兄ちゃん、ありがとう!!」
「そんな、冒険者なら当然ですよ!」
「トーラムに着いたらしっかりとお礼をさせて頂きますね」
この世界に来てトルネラ以外にロクな人間がおらず、しかも嫌われていていたからか3人からお礼を言われ、優は照れ臭くなって顔を赤くした。
そして、照れ隠しの為に話題を逸らした。
「そういえば!あのゴブリン達は普通のゴブリンと違ったように見えたのですが、何かご存知ですか?」
「ああ、あれはゴブリンの上位種だよ」
「上位種?」
体格が大きいゴブリンはホブゴブリン、ウッドウルフに乗っていたのはゴブリンライダー、魔法を使うのがゴブリンメイジと言うらしい。
他にもゴブリンリーダーやナイト更にその上のゴブリンジェネラルというゴブリンもいるらしい。
「バルバラ大森林の浅いところで今まで1度も見た事がなかったから油断していたわ」
「それにしても君のような年であのゴブリン達を圧倒するとはね、びっくりだ」
「あはは、ずっとあの森に居てやる事もやがったから、ずっと修行してたんですよ…だから、常識知らずで…」
まさか、初対面でいきなり異世界からやって来ました!って言って信じてもらえるとは思えず適当に誤魔化した。
そして、夜になり野営の準備をした。
「ガラムさん達は野営に慣れてるんですか?」
優は野営の準備を夫婦だけでなく、娘のマリネまでも手際良くこなしてるガラム一家を見て尋ねた。
「はい、トーラムに店を構えてと言っても私達は仕入れ担当を雇えるほど大きくもないので私達で直接商品を仕入れているんです」
「ははは、いずれは店も大きくして他の従業員も多く雇って妻達を危険な事から遠ざけたいんだけどね…」
その日は夕食をガラム一家とムートとタタリと共にして夜を迎えた。
流石に夜の見張りまで任せっきりにするわけにもいかず、見張りをする事を申し出た。
3人で見張りをする事になり最初にタタリ、次に優、最後にムートの順番になり、優の番がやってきた。
焚き火の前に座りながら魔力糸は張り巡らせて警戒してると隣にムートがやって来た。
「どうしたんですか?まだムートさんの番じゃないですよ」
「いや、少し話そうと思ってな」
「話?」
「ああ。お前さん、森に篭って修行してたらしいな。
俺とアイツも相当鍛えたんだかよ、ホブゴブリンにやられてこのザマだ」
「…」
「一応Dランクの中でも中堅どころだったんだかな。少しはやれると思ったが、まだまだだったみたいだ。
しっかし、森って言ってもよ、バルバラ大森林に住んでたんだろ?普通あそこにはゴブリンの上位種なんて出ねぇ筈なんだか、何か変わった事は無かったか?」
「いえ、森にいた頃は1度もゴブリンの上位種には会ってないです。あそこで初めて遭遇しました」
「ゴブリンはランク1の魔物だ。だか、上位種になるとランク3から4になる。森の奥に行かなくてもランク4の魔物が出てくるとなると何か変だぞ…」
話を聞いて優はバルバラ大森林の方に目を向けた。
「そう言えば冒険者ギルドに登録してんだよな。ランクはいくつだ?」
「登録したばかりだからまだFだよ」
「F!?じ、実力に見合ってないな。ちょっとカード見せてもらってもいいか?」
「カード?」
「ん?ほら、これだよ」
そう言ってムートは懐から赤色のカードを取り出した。
「何それ、俺持ってないよ」
「は?何言ってんだ、冒険者ギルドに登録するときに貰うはずだか…まさか、貰ってないのか…?」
「あ、あのクソ野郎……!!」
「その様子だと貰ってないみたいだな…
もしかすると、お前さん報酬も踏み倒されてたんじゃないか?」
「………」
優の様子から察したムートは同情した。
変な雰囲気になってムートは慌てて話を切り替えた。
「け、けどよっ!トーラムに行けばしっかりと登録出来るはずだ!お前さんの実力ならすぐにでもランクは上がるだろうし、気にするなよ!」
「はは……また一から頑張ります……」
「しっかし、冒険者カードが無いとなると、トーラムに入るときに余計な金がかかるな」
「そうなんですか!?」
「まあ、トーラムは大きい検問とかしっかりして、怪しい奴は入れない様にしてるからな。身分証を提示できない奴からはある程度金を取ってるからな」
(お金、足りるかな…はあ、トーラムに入る前に前途多難だなぁ)
ムートとやり取りをしてる間に夜が明けてトーラムに向けてまた出発した。