5.レント村
「それじゃ、行ってくるね」
「はいよ、気をつけて行くんだよ」
優は今日も日課の鍛錬を終えて、魔物の狩りに出かけた。
トルネラからは優に風魔法や他の属性の適正がなかった為、魔力を使った身体強化を教えてもらっていた。
それは、魔力を身体に纏う魔闘技の事と身体の内側に魔力を流して身体能力を向上させる流魔という技だ。
魔闘技を最初に教えてもらった時はただ魔力が駄々洩れになって魔力を体から垂れ流している状態だったが、今では綺麗に魔力を纏えるようになり、流魔も全身の血管に魔力を流すイメージをして効率よく強化出来た。
魔闘技が綺麗に纏えれる様になった時には上手く魔力をコントロール出来るようになっており、スムーズに魔闘技と流魔を出来るようになった。
優は魔闘技と流魔を使いながらいつも通り小屋から離れたところでゴブリンやウッドウルフなどを狩っていた。
周囲を警戒しながら森の中を進んでいたら少し離れたところにゴブリンが4匹纏まって行動していた。優は草むらに身を潜め、ゴブリンの後ろ側に回り込み、一気に駆け出した。
駆け出しながら一番手前にいたゴブリンに掌を向けた。
「雷撃」
「ギイイィッ!?」
優の掌から一条の雷が出てゴブリンに向かって1匹目を焼き殺した。
「「「ギャッ!?」」」
ゴブリン達は急に襲われたことでパニックになり、混乱した。
その隙に2匹目を一息で斬り伏せ、近くの3匹目は心臓の辺りに肘内を打ち込み、吹っ飛ばした。最後の4匹目はようやく我に返り、自分以外の仲間がやられたことに怒り、叫びながらコチラに持っていた棍棒を振り下ろしてきた。
「ギギィッ!!」
振り下ろす前にゴブリンに肩から突っ込み態勢を崩させ、たたらを踏んだところに剣を横薙ぎに振るってゴブリンの首を落とした。
そのゴブリンを全て倒しきって油断したタイミングを狙ってからか、後ろから1匹のウッドウルフが飛び掛かってきた。
優は周囲に魔力を糸状にして雷を少し纏わせて張り巡らしており、目に見えてなくても地形を把握したり、生物を感知できるから、近くに3匹のウッドウルフがいることを予め知っていた為、慌てることなく、振り向き様に剣を下からき斬り上げ、ウッドウルフを斬り捨てた。
「ギャウッ」
不意打ちが失敗したからか、後の2匹は襲ってこないでコチラを警戒した後に逃げて行った。
「ふぅ。部位証明も結構溜まったし、そろそろあそこに行くか…」
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優はトルネラが住んでいる小屋から15分ぐらい歩くと着く小さな村に来ていた。
この村はレント村といい非常に閉鎖的な村である。だから、よそ者である優は蛇蝎の如くこの村の住人に嫌われている。
トルネラがバルバラ大森林のあの小屋でこの村から離れて住んでいるのも閉鎖的な村にうまく馴染めなかったからと言っていた。
さらに優は黒髪黒目で真っ黒な事が不気味だからという事で輪にかけて嫌われていた。
「また来たよ…あの黒髪黒目…」
「真っ黒で本当に気持ち悪い…」
「早く出て行って欲しいわ…」
「…」
(…。相変わらず嫌な村だな…)
侮蔑や見下す様な嫌な視線から優は逃げる様に早足で目的の建物まで歩いて行った。
目的の建物はボロボロの酒場の様な建物だ。この建物は冒険者ギルドと言って国や各地の村や街の住人から依頼が寄せられてそれを冒険者ギルドに登録した冒険者が依頼をこなしていく依頼者と冒険者の仲介役である。
冒険者にはランクがありFからSランクの7段階に分けられている。
Sランク : 英雄と呼ばれる人外の領域
Aランク : 天才の中でもさらに限られた才能の持ち主しか到達出来ないランク
Bランク : 才能がある者が辿り着ける限界値のランク
Cランク : 中堅冒険者で殆どの冒険者はこのランクを目指している。このランク帯から指名依頼をされる事がある
Dランク : 一般的なランク
E、Fランク : 駆け出しの冒険者
優はここでバルバラ大森林で狩った魔物達の部位証明を渡してお金を貯めているのだが…
冒険者ギルドの中に入ると人は全然いない。そもそもこの閉鎖的で小さな村は他所から冒険者を招く事がない為、必然的にこの村出身の冒険者しかいない。
この村で冒険者になる者は殆どおらず、今いるのはたった3人だけ。優を合わせても4人しかしない。
後はギルドマスターしかいない。受付はギルドマスターが兼任している。受付を雇う余裕がないからである。
この冒険者とギルドマスターも例によってよそ者である優を嫌っているから、依頼を達成しても渡される金額が少ない。
少ないと気づいたのは同じ依頼を受けた他の冒険者が自分より多く報酬を貰っていたからである。
「ゴブリンとウッドウルフの依頼達成しました」
そう言って部位証明を渡すとギルドマスターは
「ちっ、ほらよ」
乱暴にお金を渡してきた。当然の様に渡される金額が少ない。
(このクソ野郎…)
「何だその目は…!よそ者であるお前を冒険者に登録してやったんだ、ありがたく思え!」
それに対して優は無視して出口に向かった。一刻も早くこんな村から出てトルネラに会いたかった。
「おいおい、またカラスの野郎が来てるぜ!一丁前に依頼なんて達成してやがる!カラスはゴミ漁りの方がお似合いだぜ!!」
「ゴブリンとかウッドウルフの討伐とかあんな雑魚の依頼受ける何でこっちが恥ずかしくなるぜ!!」
「アニキ達の言う通りだな!!」
「「「ギャハハッ!!」」」
奥の方から優を挑発や侮辱する言葉を投げてきたのはこの村の冒険者達だ。この3人は初めて優が冒険者ギルドに来た時に絡んできて、リーダー格のボーグ(取り巻きがガズとグラミー)が難癖を付けて殴りかかったきた時に優が反射的にやり返し倒して以来、あんな風に優を挑発や侮辱する事が多くなった。
優はそんな奴らをチラッと目線だけ向けてすぐに冒険者ギルドを出て小屋に向かった。
優が冒険者ギルドから出て行った後…
「チッ」
「おいおい、挑発するのは良いがこんな所で暴れてくれるなよ」
「良いじゃねぇか、どうせ言われっぱなしで手を出す勇気もねぇんだら」
「トルネラの奴も気色悪いガキを拾ってきたもんだ」
「違いねぇ!あんな真っ黒な奴なんて見た事ねぇぜ!」
「…。お前達に1つ頼みがあるんだが」
そう言ったギルドマスターの顔は醜悪に歪んでいた。
ギルドマスターの頼みを聞いたボーグ達もまた醜悪に歪んでいた。
優はまだ知らない。この世界は悪意に際限が無いことを。




