17.黒いゴブリン
「一応聞いとくけど、コイツがゴブリンジェネラルで合ってるよな」
「うん、そうだよ」
ルルはどこか安心した様な雰囲気になっており、優は疑問を感じかたが、今は目の前にいるゴブリンジェネラルに集中する為にすぐに意識を切り替えた。
改めてゴブリンジェネラルを観察すると他のゴブリン達と同じ肌の色で体長はゆうに3メートルを越していた。そして、なりより他のゴブリンと違うのはその身から放たれるプレッシャーが段違いだった。
(これがランク5の魔物…)
優とルル、ゴブリンジェネラルはお互い向き合ったまま攻撃を仕掛けなかった。
5分ほど経ち、先にしびれを切らしてゴブリンジェネラルが雄叫びを上げながらコッチに突っ込んできた。
「グオオオォォッ!!」
その手に持った棍棒で優とルルをまとめて薙ぎ倒そうと横薙ぎに棍棒を振るってきた。
ルルは俊敏な動きで棍棒を躱してゴブリンジェネラルの間合いから離れたが、優は地面スレスレまで身を低くしながら棍棒を躱して次の攻撃が来る前に首を斬ろうとしたが、空いた片方の手で殴りかかってきて、剣の腹で拳を受け止めた。
しっかりと防御したのにも関わらず、優の足は地面から浮いた。ゴブリンジェネラルは優の横っ腹に蹴りを叩き込まれたが、当たる瞬間、優は自分から跳びのいて威力を殺したが、完全には殺しきれずに吹っ飛ばされた。
「ぐぅっ」
(コイツとんでもねぇ馬鹿力だッ!)
「ユウッ!」
ルルに声をかけられて顔を上げるとゴブリンジェネラルは地面を駆けてコチラに棍棒を構えて向かってきていた。
雷魔法で迎え撃とうとしたが、その前にルルが優とゴブリンジェネラルの間に割って入った。
「火纏い・剣」
振り下ろされる棍棒に合わせて短剣を下からすくい上げ、腕を焼き斬るつもりが余りの硬さに途中までしか剣が食い込まなかった。
「グガアァッ!!」
腕を斬られた痛みに呻いて棍棒は逸れて地面に叩きつけられた。
優は閃光を使って一時的にゴブリンジェネラルの視界を奪った。
「ギャッ!」
その隙に優とルルはゴブリンジェネラルから一旦離れた。
「悪いな、ルル。助けられた」
「アイツすごい硬いから腕を斬り落とさなかった。多分私の剣の腕じゃアイツの首を斬り落とさないかも」
「わかった。とりあえずはあの馬鹿力に気をつけないとな。モロに食らえばタダじゃ済まない」
「そうだね。
まずはいつも通り私が撹乱するから優が隙をついて攻撃して」
そう言ってルルはゴブリンジェネラルに斬りかかりに行った。
ゴブリンジェネラルはすでに視力を戻して得物を構えていてルルについていったが、徐々にスピードが上がっていくルルについてこれなくなり次第に体中に細かい斬り傷が無数につけられた。
一つ一つ大した事がないダメージだか、自分の攻撃が当たらなくなり細かい傷をつけられて段々とゴブリンジェネラルはイラついて攻撃が大雑把になっていった。ルルが攻撃をしてる最中に何度か棍棒が当たりそうになると優が雷撃で邪魔をするのもイラつく原因の一つとなっていた。
「ガアアアァァアッ!!」
段々と大雑把な攻撃になっていたが、ことさら大振りの一撃が繰り出された。ルルは優と交代する様に場所を交換して場を離れた。
優は棍棒を受け流しながして剣に雷を纏わせ斬れ味を上げながら、ゴブリンジェネラルの首を狙った。
ゴブリンジェネラルは首を捻りなんとか躱して致命傷を避けたが完全に躱しきれずに首に傷を負った。
トドメを刺そうと優が迫ったがゴブリンジェネラルはがむしゃらに棍棒を振って優を振り払おうとしたが、優はゴブリンジェネラルの指を狙って剣を振るい棍棒を持つ指を斬り落とした。指を斬られた事によって棍棒を握れなくなり、地面に落とした。
ルルも後ろに回り込んで脚の腱を斬り裂き地面に膝をつかせた。
最後にトドメを刺そうと首を斬ろうとした時にゴブリンジェネラルは空に向かって叫んだ。
「グオオオォォッ!!!」
「くっ」
「な、何っ?」
優は叫び声に顔を顰めながらもゴブリンジェネラルの首を斬り落とした。その時ゴブリンジェネラルはコチラをあざ笑うかの様に歪んでいた。その顔は優の身体で隠れていてルルには見えていなかった。
「ふー、何とか倒せたね」
「ああ、だいぶ手こずらされた」
「それにしても最後の叫び声は何だったろうね。最後っ屁ってやつかな」
「……」
(あの顔…あれは諦めた顔じゃない。あれは、)
優が考えてるとそこに普通のゴブリンが出てきた。それも優とルルを囲む様にして。
(あ、ゴブリンジェネラルで忘れてたけど、コイツらも来てたんだ)
大量のゴブリンでも1匹のゴブリンジェネラルの方が圧倒的に強い為、優とルルはそこまで慌てなかった。
「トーラムに戻る前にコイツらも片付けないとね」
「ああ、そうだな」
先ほどの考えはトーラムに戻ってから、と優は意識を切り替えた。
「?」
(なんだコイツら)
ゴブリン達は優とルルを囲っても襲ってこなかった。
本来ならゴブリンは獲物を見つけたら、無鉄砲に襲う魔物である。それをまとめ上げていたゴブリン達のリーダーであるゴブリンジェネラルを倒された今、命令通りに連携などしてこないで、ただ襲ってくると思っていたが、いつまで経ってもゴブリン達は優とルルを包囲したままでコチラを襲ってくる気配がない。
(襲ってこないなら、コッチが先にやるか)
優が動こうとした瞬間、それまで動かなかったゴブリン達に動きがあった。
優とルルの真正面のゴブリン達は道を開ける様に左右に別れたそして、奥から悠々とコチラにソレは歩いてきた。
ソレの肌の色は他のゴブリン達と違い、黒色だった。体長はゴブリンジェネラルと同じで3メートルほどだか、ゴブリンジェネラルと違って体系はスリムで人に似ていた。
そして何よりも違うのがゴブリンジェネラルとは比べ物にならないくらいの存在感があった。
「う、嘘…何でコイツが……」
ルルが絞り出した様な声を出していた。チラッとルルの方を見ると微かに身体が震えていた。
そんなルルを見て優は魔力を練って雷轟で辺り一面を焼き払おうとしたが、ルルに止められた。
「ダメ…。手を出したらダメ…何とか隙を作って逃げるんだよ」
「アイツが何なのかわかるのか?」
「うん、多分だけどコイツはゴブリンの王種だと思う…」
「王種…?なん「いいから今は逃げる事だけに集中して」
ルルに言葉を被せられ、優は素直に逃げる事だけを考えた。優の左眼はいつのまにか紅く輝いていた。優自身もその事に気付いていなかった。
その黒いゴブリンが優目掛けて走ってきて、一瞬にして距離を詰めた。
(早い!?)
咄嗟に雷を身体に纏わせて何とか黒いゴブリンの攻撃の直撃を避け、閃光で視界を奪って逃げた。
ルルもそれに合わせて炎を黒いゴブリン目掛けて放ちトーラムの方に一目散に駆け出した。
しかし、黒いゴブリンは目を瞑ったまま炎を剣で払い優に追いついて追撃を加えんと剣を打ち込もうとしたが、優と黒いゴブリンをわける様に氷の壁が出現し、別の魔法で黒いゴブリンを何重もの氷の球体の中に閉じ込めた。
「す、すごい。これほどの魔法を一瞬で…」
「コッチよ。早く」
声をかけられた方を見ると銀髪のエルフが立っていた。優とルルはすぐさまそのエルフのところまで行った。
「足止めだけど、あの氷は長く持たないから、急いでトーラムに向かうわよ」
3人は黒いゴブリンに追い付かれないうちにバルバラ大森林から抜けてトーラムに向かった。
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黒いゴブリンは数十秒で氷を叩き壊して出て、逃げ去った優達を見たが、追うことはしなかった。
愉快でたまらなかった。今まで人から逃げ惑う事しか出来なかった自分が今度は自分を見ただけで逃げられる側になったのが堪らなく愉快で仕方なかった。
黒いゴブリンは来た道を戻り森の奥へ姿を消した。