16.異変
優とルルはバルバラ大森林を進みながら、話していた。
数日間、連携の練習をした事により、ある程度はお互いの動きを理解して連携が取れるようになっていた。
「なあ、この森って今は異常事態なのか?」
「う〜ん、私達くらいの実力だとあまり関係が無いけど、ゴブリンの上位種は新人の冒険者にとって強敵と言っていいからね。それが普段出ない場所で襲ってくるなんて、新人さんには悪魔だろうね。しかも、連携もしてくるし尚更ね
だから今はCランク以上じゃないとバルバラ大森林に入らないしね。ユウは模擬戦で評価されてる事と私とパーティーを組んでるから特例で入れてるくらいだし。」
(確かにDランクのムートさんとタタリさんもあのゴブリン達に殺されそうになってたもんな…ん?)
「上位種っていってもランク2の魔物だろ?たかが1違うだけで連携する知能なんて持つのか?」
「1違うだけでも強さは信じられなほど変わるし、知能もそれなりにあるけど、ゴブリン単体だけで連携する知能は普通は持たないよ。
だから冒険者ギルドは問題視してるんだよ」
「普通だったら知能を持たない奴が持ってるからか?」
「違うよ。
上位種のゴブリンリーダーやライダー、メイジが知能を持たない。これは魔物を研究してるどの学者も言ってる事だよ。けどね、さらに上のゴブリンジェネラルは高い知能を持って、ランクも5に一気に跳ね上がる」
ルルはゴブリンジェネラルの厄介なところはここからだよ、と話を続ける。
「奴は自分の部下が多い程自分の力が増すから、ゴブリン達に命令して軽い連携が出来る知能を与えて他の生き物のメスを捕まえてどんどん数を増やして力をつけるから、早めに片をつけないと手がつけられなくなるんだ」
「それじゃあ、今の状況を見る限り、ゴブリンジェネラルが生まれた可能性が高いって見た方がいいかもな」
「まず間違いないだろうね。冒険者ギルドもそう思ってるよ。だから、低ランクを入れてないんだし。
あと、ちょっと前にCランクパーティーに生態調査の依頼を頼んでたしね」
「そうなんだ………ッ!ルルこの先にゴブリンがいる」
「おっ!流石の探知力だね。私は全く気付かなかったよ」
「……」
「どうしたの?」
「多分、人の死体に群がってる」
「それは穏やかじゃないね」
「今は低ランクがこの森に入らないようになってるんだよな」
「……。急ごう」
2人は気配を消しながらゴブリンがいるところまで急いだ。そして、2人が見たものは、
4人の死体に群がってるゴブリン達だった。
その4人は性別も判断できないくらいに損傷が激しかった。そのうちの1人は鎧を装備しており、その鎧を破壊して装備していた冒険者をぐちゃぐちゃにしている事からこの惨状にした魔物はとんでもない力を持った魔物だとわかる。
「とりあえず、群がってるゴブリン達を先に片付けるか」
「そうだね、まずはそこからだね」
2人は死体に群がってるゴブリン達を片付けて改めて死体を確認した。
「うっ」
優は殺す事に躊躇いが無くなったとはいえ、それはあくまでもどうしようもないクズや自分を害する者だけでまだ死体に慣れていなく、死体が放つ死臭に顔をしかめたが、ルルは顔色1つ変えずに躊躇う事なく死体を身元がわかる物、冒険者カードを探していた。
それを見た優は我慢しながらルルの真似をして冒険者カードを探した。
4人の死体から出てきた冒険者カードの色は青色だった。
「………。さっき言ってた冒険者ギルドが頼んだパーティーのランクってCランクだったよな…」
「うん…」
「この前、Dランクのパーティーがゴブリンリーダー達に襲われて全滅しかかってた。Cランクのパーティーもたかがあの程度のゴブリン達に全滅させられるものなのか?」
「ううん。そんな事はないよ、Cランクはゴブリンリーダー達なんか遅れはとらないよ…」
「てことは…」
「うん、ユウの思ってる事はありだと思う。そうとしか考えれない」
「トーラムに戻ろう」
いつもは日が暮れて暗くなるまでこの森にいる事が普通で、今日はまだ日が出ているが、この事を一刻も早く冒険者ギルドに伝える為に戻る事にした。
「ユウ、この辺り一帯の気配を探知出来る?魔闘技とかに回してる魔力も探知に使って。その間は私がユウを守るから」
「わかった」
ルルに言われた通り魔闘技や流魔に使ってる余計な魔力を魔力糸に回して探知に全力を注いだ。そして辺り一帯を探知した瞬間、
「ルル!今すぐ全力でここから離れるぞッ!!」
言うや否や、ルルの返事も聞かずに優は走り出した。
ルルも一瞬、呆気にとられたが、すぐに気を取り直して優に追いついた。
「どうしたの!?」
「俺達のところにゴブリンの大群が来てる!しかも、1匹とんでもないのが一直線にコッチに向かってきてる!!明らかに俺達を狙ってる!!」
「!?このままトーラムまで戻るわけにもいかないから、どこか隠れるところを探そう!」
「わかった!!」
優が探知で見つけたものは大量のゴブリンがいる事と明らかに他のゴブリンとは一線を画す魔物を3匹探知してそのうちの1匹がコッチに向かってきてる事がわかった。
隠れる場所を探してる最中にコチラを妨害するかの様にゴブリン達が襲ってきた。
(クソッ!邪魔だ!!早くしないといけないのに…!)
優は襲ってくるゴブリンにイラつきながらも隠れる場所を必死に探した。
ルルも自分が気配を感じられる程近くまで優が警告した魔物が来てる事がハッキリとわかった。
そして、遂に優達は追いつかれた。
「どうやら、追いかけっこは向こうの方が一枚上手だったみたちね」
「ああ、そうだな、俺達は追いかけっこが本業じゃないしな」
「私達が逃げてコイツをトーラムまで来させたら、一大事だから、このまま放置って訳にもいけないわよね」
「だったら、今度はこっからが俺達の本業って訳だな」
「ええ、そうね。アイツ、コッチも自信満々な面してるけど、私達の方が一枚上手って事をわからしてあげようね」
優とルルはお互いに茶化し合いながら、ソレに向かってそれぞれの得物を構えた。
「グオオオォォッ!!」
優は目の前に現れたソレを初めて見るのにも関わらず、一目見ただけでわかった。
コイツがゴブリンジェネラルだと。