15.ルル・アーヴェイン2
「へ〜。それじゃ、ユウはトーラムに来たばかりなんだね!今度、街を案内してあげるよ!」
「どうも…」
「〜♪」
あの時、アイリスとは違うタイプの美少女に気になると言われて思春期の優は慌てた。
ルルはいきなり慌てだした優に首を傾げて「ただ、その年でその強さが気になってるだけだよ」と言われ少なからず優はショックを受けた。その姿にまたルルは首を傾げた。
パーティーの件は一応、仮で組む事にした。
組む前にルルの戦闘を一度見せてもらったが、凄まじいの一言だった。ルルの戦闘スタイルはスピードを主体としたものでスピードで相手を撹乱して短剣で斬り刻むといったもので優でも雷を纏わなければルルのスピードに追いつけないと感じた。しかも時間が経つ事にどんどん早くなっている様な気がした。その事を指摘するとルルは、
「おー、少ししか見せてないのに気づくのは流石だね。
そうだよ。私は時間が経つ事にどんどん早くなっていくんだよ。私も『理』持ちだよ。そういう君もあの雷は『理』だろう?」
「まあ、そうだね。詳しくは俺もわからないけど」
「『理』なんてどれもわからないものだらけだよ」
「他にも『理』持ちと会った事かあるのか?」
「片手で数えるくらいしか会った事ないけどね
あ、それと私って魔法も得意だから期待してくれていいよ!その辺の魔法使いよりも使えるからね!」
「え、獣人族って魔法が苦手なんじゃ…」
トルネラから獣人族は身体能力が高いけど魔法を使える者がほとんどいない、もしくは使えても最低限と聞いていたから、得意と言っている事に驚いた。
「私の祖先が炎狼っていう狼なんだけどね、その狼はすんごく火属性の魔法が得意だったみたいでね、先祖帰りでその血に限りなく私は引き継いでるらしいの。
ちなみにその狼も私と同じ『理』みたい」
(あ、犬の獣人じゃなくて狼なんだな。怒られそうだから言わないけど)
獣人族なのに魔法を得意げに使ってたから、生まれた村ではみんなに馬鹿にされてたけどね、と寂しそうに笑ってる姿を見て優はレント村で嫌われてた事を思い出し、ルルと自分を重ねた。
「あはは、少し暗くなっちゃったね!よし!今度は息を合わせて魔物を倒そう!」
暗くなった雰囲気を変える為、ルルは優にそう提案した。
「そうだね、パーティーは連携が大事だからな」
その日は軽くお互いの動きを合わせて、魔物を狩ったが、動きが合わずダメダメに終わってしまった。
(れ、連携ってこんなに難しいのか…)
「うー、これは練習しないとダメだね…」
「ああ、そうだな…」
「………」
「どうしたの?」
「いや、ルルはパーティーを俺と組んで良いのか?
俺みたいな低ランクと組むより、同じランクと組んだ方が良いだろ。それにルルなら上のランクのパーティーに入れるんじゃないか」
少なからず、今日一日バルバラ大森林で一緒に狩りをしてルルの実力はハームドと同レベル以上はあると感じていた。
「う〜ん、ユウと組む前から探してたんだけど、中々ピンとくる人がいなかったんだよね。
しかも、言い寄ってくる男はみんないやらしい視線向けてくるし。その点ユウは私にその視線を向けてこないし、実力も申し分ないし良いね!」
(まあ、その男達の気持ちはわかる)
「女性パーティーはトーラムにはいないのか?」
「1つだけあるけど、そのリーダーと喧嘩しちゃってね…メンバーがいる前でボコボコにしてね……」
「……」
「あはは…と、とりあえず、これからはユウと組むんだから、明日も連携頑張ろ!!」
「…はぁ。組むって言ったって仮だからな。本格的に組むわけじゃないぞ」
「えー!良いじゃん、私と組もうよう!!」
こうして優はルルと一時的にパーティーを組む事になった。そして、パーティーを組んで数日が過ぎた。
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―――冒険者ギルドside
とある一室で7人の男女が話し合っていた。
この部屋で一番豪華な椅子に壮年の男性が座っており、その傍らにエルフの女性が立っていた。その向かいには5人の様々な種族の男女が座って話し合っていた。
5人の男女は鎧などを装備していることから戦う事を生業としている事が分かる。なにより、纏っている雰囲気は常人では決して出せない強者の風格を漂わせていた。
そして、5人の中央に座っている男性がこの5人のリーダーなのか、壮年の男性と話をしていた。
「バルバラ大森林の生態調査?」
「そうだ」
「何でまた俺達に?
冒険者達の間でバルバラ大森林の浅くてもランク3とか4の魔物が出たって騒いでたけど、所詮ゴブリンの上位種だろ。俺達に頼むほどの依頼か?」
「ああ。儂も最初はこの異変を軽く見ておったが、事態が変わった」
「事態が変わった?」
「Cランクのパーティに生態調査の依頼したが、全滅した」
「なっ」
「Cランクが…」
「Cランクが全滅って…相手はゴブリン共だろ…」
「しかもそこまで奥に行ったわけでもなく、少し奥に行った所でそのパーティの遺体を他の冒険者達から報告があった。
そこは精々ランク2から3の程度が出てくる魔物でCランクのパーティが全滅する事は実力的におかしい」
「ってことはCランクのパーティを全滅させれる魔物が現れたか、大量のゴブリンに囲まれて全滅したかになるな」
「そうだ。そして状況を見る限り前者の可能性が非常に高い」
「理由を聞いてもいいか」
「ああ、ちゃんと説明する。
幾つかあるが、まず今回の異変はゴブリンだけが大量に出ていることだ。他の魔物は一切、増えてない。上位種もゴブリンしか確認されていない。
他の情報だとゴブリン共が連携しながら襲ってきたという報告も上がっていてな。
ゴブリンの大量発生だけならそこまで問題視しなが、連携して襲って来たという事はゴブリン共を指揮出来る知能を持った魔物がいるという事だ。ゴブリンの上位種であるゴブリンリーダーやライダー、メイジ以上のさらに上位種。つまり、ジェネラルもしくはー」
「王種が出現したって事か…」
王種の強さを知っているのか、今まで黙っていた者達が慌てだした。
「王種って国が対処する問題だぞ!!俺達がどうこうってレベルじゃ無いぞ!!」
「お前ら、一旦落ち着け。
あくまでも可能性の話だ。まだ調査もしてないのに慌ててどうする。
で、ことの重要さは理解した。王種が出現を確かめる為にも生半可なパーティじゃ、かえって危険だから俺達にバルバラ大森林の生態調査を頼むわけか」
「ああ。この異変はつい最近判明したものだ。
もし、王種が出現していてもソイツはまだ産まれたばかりの生まれたての可能性がある。Aランクパーティのお主達ならもしゴブリンの王種でも生まれたてなら逃げに徹すれば情報を持って来れると思ってる。それに今回依頼するのはお主達だけでは無い」
「俺達以外にも依頼するのか?生まれたてでも王種の可能性がある以上俺達と同じAランクじゃないと正直言って足手纏いになるぞ」
「それは儂も同感だ。アルバスから別件でコッチに来ていた銀雹に依頼した。もうすでに銀雹はバルバラ大森林に向かってる」
「へー、あの子が。こっちに来るなんて珍しいわね」
ここで今まで黙っていた冒険者側の2人いる内の1人の女性が初めて口を開いた。
”銀雹”と言う言葉を聞いてから勝気な雰囲気を出している女性が目を吊り上げて挑戦的な笑みを浮かべた。
「ミリア…。時と場合を考えろよ。今回は王種が相手かもしれないんだ、私情を持ち込むなよ」
「わかってるわ。それぐらいの分別はあるわよ」
「なら良いが…。
みんな、今までも危険のある依頼は何度か受けた事はあるが今回は逃げに徹するとは言え、死の危険があるが、これは俺はこの依頼を受けようと思う。異論はあるか?」
今まで壮年の男性と話していた男性が他のパーティメンバーに確認を取る様に一人一人に目線を向けた。パーティメンバーは王種が出現しているかもしれない危険な生態調査に誰一人として反対する者はいなかった。むしろ、王種と聞いてやる気を出していた。
そのパーティメンバーの表情を見てリーダーは満足気に頷いた。
「この通り、俺達は生態調査のクエストを引き受けるぜ」
「君達が勇敢な冒険者で非常に助かるよ。街の平和の為にも今回の生態調査の件くれぐれも頼んだぞ」
「ああ。俺達、『挑む者』に任せてくれ。ギルドマスター」
そう言って彼らは部屋から出て行った。
彼らが出て行ったのをこれまで黙っていたギルドマスターの近くにいたエルフの女性が口を開いた。
「もし、今回のゴブリンが王種でしたら、大変ですね。討伐は貴方が?」
「冗談は良してくれ…儂はもう引退した身だ。君の方が適任だ。討伐は任せたよ」
エルフの女性は肩をすくめるだけで答えなかった。