雨が降ったのだった -終-
「あめあめふれふれ、かあさんがー」
ランドセルを背負った子供達が、合唱をしながら、僕の横を通り過ぎていく。
のたのたと、濡れたアスファルトを踏みしめる僕は、黒のレインブーツを履いてる。
この足で向かうは、待ち合わせの図書館だ。今日は、そこでゆったりと休日を謳歌せんと考えてる。
雨音が傘を打つ。ぽつぽつ、ぽつぽつと心地よい。
どうやら、小学生の下校時間らしい。黄色い傘が縦に続いていて、それはまるでマリーゴールドの花びらのようだ。
通りの家の玄関前で、季節外れの風鈴が揺れている。それはリンリンとなりきれず、もどかしい。
遠く山は白く靄がかり、重たそうな雲と一体となって、その境界を分からなくしてる。
電信柱の下で小さなカエルが、鎮座している。どうやら、雨を楽しんでいる訳でもなさそうで、その顔は些か不満げに見える。
外壁工事の音が、繊細な雨音をかき消しはじめて、僕は少しばかり不機嫌になる。
「雨が続いて、洗濯物が堪っちゃって、困るわ」
レジ袋を沢山片手に、3人の女性が不満を言い合って歩いてる。
その横を、ヘッドフォンをつけた学生の自転車が通り過ぎて、跳ねた泥がかかったと、新たな会話の種を生んだ。
街角の和菓子屋の店主は、老婦に自然な仕草で傘を差しだした。
空が光って、すぐにゴロゴロと音が響いた。
雨が強くなって、傘を持つ手にも力が入る。歩幅がグッと狭くなる。
アスファルトを勢いよく跳ねる雨が、沢山のクラゲを連想させる。
図書館の前で彼女が、トートバッグを両手に持って立っていた。
「待たせたね」と僕が言うと、
「けっこう待ったよ」と彼女が言った。
雨が降ったのだった -終-