第六話 エミリアの憂鬱 (エミリア視点)
私、エミリアは、盗賊団と赤髪の魔法使いのやり取りを見て思いました。
何かがおかしい。
明らかに攻撃を受けているのは、赤髪の魔法使い。
けれども、疲弊しているのは盗賊団の方でした。
しかも、クッコ教官はこの状況を理解している様子。
私は、もう一度教官に教えを乞います。
「教官……これは一体、何ですか?」
「見てわからないか……赤髪の魔法使い。奴のあの嬉しそうな笑顔……ダメージを負っているのに喜んでいるだろう」
「それがわからないんです!」
「よく状況を観察しろ。おまえにも見えてくるものがあるはずだ」
そんなことを言われても……私は教官のように歴戦のパーティーにいたわけでもないし、こんな状況、今まで経験したこともない。
普通に見れば、赤髪の魔法使いは盗賊団の魔法を使わせて、マジックポイントを減らそうとしていると考えるのが妥当です。
でもそれならば、攻撃を受けなくてもいいはずです。
しかも、物理攻撃に対しては俊敏な動きを見せ、なんなくかわします。その俊敏性を、魔法攻撃を受け止めることだけに使っているんです。もう……狂気の沙汰としか言いようがありません……。
「よし、私も動くぞ。エミリア、バフをくれ」
「あ……はい。じゃあいきますよ……「イマジナリーアクシズ」!」
私は、教官に「イマジナリーアクシズ」の補助魔法を使いました。
一瞬だけ教官が虹色に光ると、すぐさまこの場から消えてしまいました。
これは、教官が私にくれた「魔法の書」で覚えました。強襲フェイズで使える魔法です。
魔法自体は速度を上げるものなのですが、ただ自分の速度が速くなるというものではありません。時間軸を同じくして、自分だけ別の時間を動くことのできる魔法です。
ただし、魔力消費も激しく、効果時間も短いし、クールタイムは約一日です。
なので、ここぞというとき以外は使えません。
効果時間は2秒。ですが、教官が感じる時間は20秒です。
これだけあれば、教官の腕なら盗賊団の殲滅は可能です。
勝負は一瞬でした。教官が繰り出す首の後ろへの強打でバタバタと盗賊団は倒れていきます。
さすが教官です。十人ほどの盗賊団をあっという間に殲滅してしまいました。
しかも、全員気を失わせただけです。素晴らしいです。
「よし、これで片付いた。そこの赤髪の魔法使い、お楽しみのところ申し訳ない。この盗賊団は私の討伐対象だったのでね」
教官は、軽く赤髪の魔法使いに話しかけます。
「あら、あなたは……金髪の騎士様ですか……。 突然出てきて私の獲物を横取りするなんて……それじゃあ困りましたね……あなた、盗賊団の代わりに私に魔法を撃ってくださる?」
「私はクッコ・ローゼ。騎士だ。残念だが、魔法は使えない。スキルなら持っているのだが……」
「礼儀正しいのですわね。わたしはエリザ。エリザ・イレイザと申しますわ。それにしても……本当困りましたね……そちらに隠れている銀髪のエルフはどうなのです?」
赤髪の魔法使いは私に話しを振ってきました。さらに、怪しく微笑みかけてきます。
なぜだかわかりませんが、その微笑みに恐怖を覚えました。
ゆっくりと前に進み、エリザの質問に答えます。
「ええ……私……エミリア・アヴェンタといいます。基本回復術師です……攻撃魔法のようなものはまだ習得していません」
「あら……残念ですわね……あなたたち、死にますよ……」
「ええええええええ!」
にこやかな表情で、さらっと死の宣告をされてしまいました。
どうしてこんな展開になってしまったのでしょう……(私のせいじゃ……ないですよね)……。