第五話 魔法使い
──彼女を見つけたのは、昨日のことだった──
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私は、エミリアに対人戦闘の極意を教えるため、盗賊退治のクエストを受けた。
最近、魔法の書を盗難される事件が起こった。
それらは、厳重に管理されているものなのだが、書庫の不手際があり、高度な魔法の書を何本か流出してしまった。
私たちは、それの回収、もしくは使用者の断罪の任務を受けている。
使用者の断罪というのは、場合によっては命を奪っても構わないというものだ。
魔法の書を使用された場合、それは消失してしまうので回収は不可能。
それと、盗賊団のような心未熟な人間が高度な魔法を習得した場合、悪用される確率が高い。
そのため、クエスト受注者にそういった権利が与えられるわけだ。
……殺さずに捕獲できるなら、それに越したことはないのだが……。
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渓谷沿いの山道を超えた先にある、怪しげなロッジ。そこが盗賊団のアジトだった。
「エミリア、ミュートとステルスを使え」
「はい、教官! ミュート! アンド、ステルス!」
エミリアは、補助魔法を唱える。
ミュートは足音を消す魔法。そして、ステルスは気配を断つ魔法。
これらは、隠密行動における基礎中の基礎だ。
相手に高度な魔力感知、及び、魔法結界さえなければ、これらは機能する。
もちろん、盗賊団ごときがそんな高度な魔法結界を使えるわけもない。
だが、油断はできない。もし、奴等がその魔法の書を手に入れていれば、それを発動していてもおかしくはないからだ。
もちろん、高度な魔法結界を破る魔法もある。だが、エミリアではまだ習得できない。
その時は、ノーバフでクエストを遂行することになる。
私たちはロッジ付近に侵入した。盗賊団の反応はない。
これは、盗賊団が私たちの侵入に気づけるスキルを所持していないことを意味する。
「よし、うまくいったぞ。突入は任せろ」
「教官! 待ってください! あそこに人が」
「なんだ?」
エミリアが指を差した。私はその先を確認する。
すると、ロッジの奥の広場付近に赤髪の魔法使いの姿を見つけた。
よく見ると、その周囲に盗賊団らしき人影がある。
そして、その盗賊団は、その赤髪の魔法使いに魔法攻撃を仕掛けていた。
魔法使いは、攻撃を必死によけるが、全て攻撃を食らっている。
「あいつら……寄ってたかって魔法使いを……くそう……私が変わりたいぐらいだ」
「教官……「助けたい」の間違いですよね」
「あ、ああ……その通りだ……この状況を見過ごすわけにはいかない」
私たちは、赤髪の魔法使いを助けるべく、裏手から盗賊団に近づいた。
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盗賊団は、魔法の書で手に入れたであろう高度な攻撃魔法で赤髪の魔女をいたぶっている。
「くそう……もういいだろ……早くここから消えてくれ……」
「あら、何か言いました? もっと私に魔法を撃ってくれないと……殺しますよ……」
「お願いだから……もうマジックポイントが……」
「もっと私を楽しませて欲しいわ。あなたたちの方から遊びたいと言ってきたんですから……」
「こうなったら……全力で倒してやる! 食らえ! バーニングサイクロン」
炎の竜巻が、赤髪の魔法使いを包み込む。だが、なぜか赤髪の魔法使いは嬉しそうだ。
「ああ、この熱が……ああ、ここちいい……私を熱くしてくれますのよ……さあ、もっとくださいまし!」
「くそう……倒れるか帰るか、どっちかにしてくれえ!」
「あら、もう終わりですの? まだ若いのに……」
「ふざけるな! 食らえ! ニードルダスト!」
今度は若い盗賊団員が広範囲に氷の弾丸をまき散らす。
「あああ……もったいないですわ! 本当にもったいない!」
赤髪の魔法使いは範囲に散らばる氷の弾丸を、俊敏な動きで全て受け止めた。
一体何を考えているのだろうか。
「あああ、満たされていきます……でも、もっとあるんでしょう……魔力が……早く出さないと……殺しますよ……」
「お、お願いだ……助けてくれ……」
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一連の戦いを眺めていたエミリアが口を開く。
「教官、これは一体……」
「ああ、おそらく、あの魔法使い……」
──私と同類の臭いがする──