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第四話 美しい花

 エミリアの転職が終わった。

 弓使いの狩人からヒーラーの回復術師への変更だ。


 もともとエルフは魔力数値が高いので、回復職に向いている。

 後方援護ならば、なんの危険もない。

 それに、この私がついている。さらに、この私の言うことをちゃんと聞いてくれるのなら、生存率は上がるはずだ。


(前のパーティーのアリスは……出しゃばるタイプだったからな……馬が合わなかった。あいつが余計なことをしなければ、私はまだ、あのパーティーにいただろう。だが、そのおかげで今、私は自分の欲望へと足を向けることができたのだ。別の意味で感謝しなければならない)


 私はエミリアと、パーティー契約をする。そして、クエストを受注した。

 エミリアとの初クエストだ。


 内容は、さまよいの森の深いところにあるレアな薬草探しだ。

 私も何度か受けたことがあるのだが、冒険初心者にとっては、結構な難所である。


 途中、怪し花が所々に存在する。その花は、人が近づくと、いきなり姿を豹変し、触手を伸ばして襲ってくるのだ。

 名を、フラフラフラワーという。そのフラフラフラワーは人間を捕食するタイプの食人植物だ。


 昔は、触手を叩いて簡単に倒してしまっていたのだが、どうやら私はもったいないことをしていたようだ。

 私はまだ、奴に捕食されたことがないのだ。


 だが、奴に捕食されるためには、触手の毒で眠らされる必要がある。

 毒が回った後でゆっくり捕食するのがフラフラフラワーの食事法だ。


 なので、眠ってしまっては捕食される感覚が味わえない。

 そこで、エミリアの出番だ。彼女には、スリープアウトの呪文を使えるようにしておいた。

 これで、捕食される瞬間、スリープアウトを発動してもらうだけで、事が済む。


 計画は完璧だ。心が躍る。早く捕食されてみたい。


 こうして期待を胸に、私とエミリアは、さまよいの森へと出発した。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「エミリアさん……なんだか、湿度が高くて暗いです……」

「こら! エミリア! 教官と呼べと言ったはずだ!」

「はい、教官!」


 ゆっくりと森を進む。フラフラフラワーは、周りに花のない場所でポツンと咲いている場合が多い。

 なぜボッチを好むのかと言うと、比べられるのが嫌だからだそうだ。

 なので、単体で生息している花は、十中八九フラフラフラワーで間違いない。


 そうこうしているうちに、私はその花を見つけた。

 白とピンクのかわいらしい花だ。だが近づくと、その花は凶悪な姿に変身する。


「エミリア。よく見ておけ。あれがフラフラフラワーだ。フラっと近づくと捕食されるぞ」

「そ……そうなんですかぁ……」

「今から、アレに食べられるとどうなるか教える。手筈通りに頼むぞ!」

「わかりました! 捕食される瞬間に、スリープアウトですね」


 私は、フラフラフラワーに近づく。そして、奴の射程距離2メートル以内に入った。

 すると、フラフラフラワーは体を裏返すように凶悪な姿を見せ、巨大化する。


「あえてくらおう! その攻撃を!」


 醜い花、鋭い牙、棘のついた蔓。

 フラフラフラワーが真の姿を現した。


 蔓が伸びる。まず、足に蔓が絡みつく。

 そしてスルスルと蔓を伸ばし、体を縛るように上へと伸びてくる。


 締め付ける感触は、涎ものだ。

 これを毎回切り落としていたと思うと、なんだか罪悪感を感じる。


 締め付けを堪能すると、今度は蔓についている棘が伸び、体に刺さり始めた。

 針でさされる、チクンといった快感がたまらない。

 体のコリがほぐれていくようだ。


 だがこれは、私の中に毒を注入するものだ。

 私はこの毒で眠らされてしまう。

 うまくエミリアが魔法を使ってくれることを祈るしかない。


 意識がもうろうとしてくる。

 目蓋が重い。

 眠い……。


 …………。


「スリープアウト」


 エミリアの魔法が発動した。

 その瞬間、私は目覚めた。


 もう、捕食される寸前だ。

 花の牙が私の体に食いついてくる。


 蔓は、花の口の中へと私を押し込む。

 口の中はヌルっとしてザラザラしていた。

 なんて犯罪的な感触だ!


 そのまま私は表現できないような、あーんな状態やこーんな状態になっていった。

 まるで、天国にいる気分だ。

 もうずっとこのままでいたい。


 だが、そんな時間は長くは続かなかった。


「教官! しっかりしてください! 教官!」


 エミリアの声が聞こえた。エミリアは、フラフラフラワーを持っていたナイフで切り裂き、中に入っていたヌルヌルでベトベトの私を引きずり出した。


「ああ……もう終わり?」

「終わりじゃないですよ……もう……心配したんですよ……」

「そっか……」


 どうやら私は、酸欠で意識を失いかけていたようだ。

 さすがに死んでしまっては元も子もない。

 今回は、フラフラフラワーを堪能できたので良しとしよう。


 こうして私とエミリアは、無事レアな薬草を採取し、街へと戻るのであった。



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