第三話 エルフの少女
鬼カマキリは死んだ。
私は、悲しみをこらえ、周囲を見渡す。
すると、ここから少し離れた場所に、狩人の姿をしたエルフを発見した。
弓を構えている。
その時、私は直感した。このエルフが私の快楽を邪魔したのだと。
私は、エルフに向かって走り込んだ。
エルフは、優しそうな笑顔で私に話しかけてくる。
「あ、あの……大丈夫……でしたか」
「この、バカチンがあああ!」
「ヘブッ!」
気が付くと私は、そのエルフの腹にパンチを繰り出していた。
もちろん、そんなつもりはなかった。
「え……私……なんで殴られ……」
「すまん……殴る……つもりはなかったんだ……もしかして、君があの鬼カマキリを倒したのか?」
「はい、そうです。襲われていたと思ったので……ダメ……でしたか?」
「ダメもなにも……よくやってくれた。それでこそ冒険者だ」
私は、心の底から嘘をついてしまった。本当は悔しくてたまらない。
「ありがとうございます!」
「まあ、あれだ。私はほら……装備はつけていないが……実はついこないだまで、ギルドのトップランカーパーティーにいたんだ。だから、助けはいらないんだ」
「そ……そうだったんですか……! も、申し訳ございません」
「ああ、わかればいいんだ。じゃあ私はこれで」
初心者の相手ほど面倒なものはないので、私はここを立ち去ろうとした。
すると、エルフは慌てて声を上げる。
「まってください!」
「まだ、何か?」
「あ、あの……私、エミリアといいます。もしよければパーティー組んでもらえませんか?」
「パーティー?」
「私、ずっと一人ぼっちで……」
パーティーなどもってのほかだ。
私は、自分の欲求を満たすために一人で荒野をさまよっている。
パーティーを組めば、人の目にさらされることになる。
そんなことになれば、私は恥ずかしさのあまり、気が動転してしまう。
なので、私はその申し出を断ろうとした。だが…………
「パーティーを組むのは遠慮……(いや、まてよ……)」
人の目にさらされる。それは恥ずかしいことだ。
だが、あえてその恥ずかしさを受け入れれば……。
私は、また一歩、上級者への道を歩めるかもしれない。
考えは決まった。
「わかった、いいだろう」
「いいんですか! よかった……本当にありがとうございます! これで、一人ぼっちにならずに済みます!」
(このエルフ……ぼっちだったのか。なるほど、こいつは使えそうだ)
「その代わりと言ってはなんだが、お前はヒーラーになってもらう」
「ヒーラー……ですか?」
「そうだ、できるか?」
「やります。何でもやります! ギルドに転職届け出してきます! 私、頑張ってヒーラーになりますから!」
「よろしく頼むぞ」
「任せてください!」
こうして私は、初心冒険者のエミリアというエルフのヒーラーを手に入れることとなった。