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第二十九話 飛行

 しばらく、雲のはるか上にある空中要塞を眺める。

 あの高さは絶望的な高さだ。雲の少し上あたりまでならマナが十分あるので、飛行魔法で飛ぶこともできる。だが、それ以上の高さとなると、ゼロマナ空域となり、通常なら失速してしまう。

 なのに、空中要塞はマナの存在しない高さを飛んでいる。おそらくマナをため込んでいるか、魔鉱石の力を使用しているに違いない。

 だが、それだけでは無理だ。あの巨大なモノを浮かせる出力が必要だ。それに関しては、前にザックが言っていた言葉が頭に浮かんだ。


「クリスタルドラゴンの心臓か……」


 クリスタルドラゴンの心臓は、マナの力を増幅し、効率の良いエネルギーを生み出すのに使われる。それは、飛行の推進力にはもちろん、主砲のエネルギーにも変換可能。クリスタルドラゴンの心臓を大量に使用しているのなら、あの出力も納得だ。

 おそらく、これを作るたにユダ・ブルータスがクエストを依頼したのだろう。


 頭を抱えて悩んでいると、シグルドが自信満々な様子で私に声をかけてきた。

「主、私でよければ、あの要塞までお連れします」

「なにっ! できるのか?」

「はい。私には、体の中にガスというものが存在します。それを燃焼させることによって、短時間だけゼロマナ空域を飛ぶことができますが」

「よし、ならばお前に任せる!」

「かしこまりました! では、さっそく……」


 シグルドは、後ろから私の腰に手をまわし、叫んだ。


「変体モード!」

──ガシャッ……シャカシャカジャキーン──


 シグルドの体は、激しく変形して翼のような形を展開。私の鎧にがっちりと装着された。

「これで飛べます。体が軽くなるイメージをしてください。バランスは私が補正します」

「わ、わかった……」


 体が軽くなるイメージを思い浮かべる。すると、本当に体が軽く感じられるようになった。

 重力を感じなくなった瞬間、地面を蹴る。すると私の体は勢いよく空へと舞いあがった。


「お見事です。あとは、加速するイメージを」

「こ……こうか?」


 私のイメージは、加速というよりも、前へ前へと進むイメージに近かった。だが、それでもその意思を感じ取ったかのように、上昇速度が上がっていく。

 あっという間に空中要塞の上へとたどり着いた。


 上空から要塞を見渡す。すると、視覚的に卑わいな部分に艦橋を見つけた。

 艦橋中央の席に、ユダ・ブルータスが座っている。


「いた……まずは、奴を!」

 私は艦橋へを加速した。

 艦橋は高価なガラス張りでできており、破壊するのは簡単だった。おそらく、上からの攻撃はないと踏んでこのような造りにしたのだろう。


「な! 何事ですかぁ!」

 艦橋中央の席にいたユダ・ブルータスは、突然の襲撃に驚き、悲痛な声を上げた。

 この時すでにユダ・ブルータスは、エムジー国側の将校服を身に纏っていた。これで奴がエムジー国側の工作員だということがはっきりした。


 私は、ユダ・ブルータスの目の前に着地する。

 すると、中にいる黒装束を着た数十名の魔導兵士たちが、私に魔法の杖を向けた。

 この上空ではマナが使えないはずなのだが、杖をよく見ると、独特のクリスタルの輝きとカートリッジ式の魔鉱石がつけられていた。おそらく、そのクリスタルは、クリスタルドラゴンの心臓……それも、小さな子供のクリスタルドラゴンのものだ。


 要するに奴らは子供のクリスタルドラゴンを量産し、殺し、それで魔法の杖を作っているということだ。

 それなら魔法が使えない者でも、たやすく魔法を使うことができる。

 それにしても、野蛮な技術だ……。


 私は、ユダ・ブルータスの襟元をつかんで上昇した。


「き……貴様! なぜ飛べる!? 一体何者だ!」

「貴様の知った事ではない」

「その声は……まさか、クッコ・ローゼか!」

「お前の悪行、しかと見届けた。この騒ぎの罪は貴様に償ってもらう!」

「私に構わず、魔法を放て!」


 すると、周囲にいた魔導兵士は、ユダ・ブルータスに構わず炎の魔法攻撃を開始した。

「ふん……私は今炎耐性を付与している。したがって、お前だけがダメージを受けるのだぁ!」


「…………」

 魔導兵士の攻撃が私を焼き尽くす。だが、それは私にとっては弱い攻撃だった。


「つまらない……」

「なぜ……あれほどの攻撃を受けて無事なんだぁ!」

「うるさい……」


 私は、ユダ・ブルータスの腹を殴りつけた。


「ゴフゥッ」

 ユダ・ブルータスは気絶した。

 私は、彼の襟首をつかんだまま要塞の外へと飛び、5万の自国兵の中へと彼を投げつけた。


「このエムジー国の将校服を着たユダ・ブルータスを見れば、誰か気づくだろう。こいつが裏切り者だということを……無駄な血が流れなければいいのだが……」

「主、要塞の魔力が臨界です。おそらく2撃目が」

「何っ!」


 シグルドの進言を聞いた私は、すぐに艦橋下の悪趣味な砲身の中へと侵入した。

 砲身の中には大型のクリスタルドラゴンの心臓が円状に敷き詰められ、中央に砲撃用の巨大なクリスタル、その先に魔力拡散用のリングが数個並んでいた。

 周囲のクリスタルドラゴンの心臓が魔力を放出し、中央のクリスタルに力を注いでいる。


「あの砲撃用クリスタルを破壊すれば、この要塞を無力化できます」

「そうか……破壊すれば……か……」


 これは、クリスタルからの砲撃を、魔力拡散用リングで広げるタイプの構造だ。

 魔力拡散リングさへ通らなければ、この砲撃の被害は出ないはず。

 ちょっとだけ……ちょっとだけなら……。 



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