第二十二話 勝者
今の私の体はズタボロだ。だが、私は気力を振り絞り、這いつくばってザックの側へと詰め寄る。
「なんだ! その……モザイクだらけの姿は! そ……そんなので俺に勝てるはずが……」
ザックは、私の変わり果てた姿に驚いている。おそらく、奴の目にはグロ注意の警告テロップが見えているはずだ。
ゆっくりとザックに近づいた私は、恐怖におびえる奴の肩をヌルっとつかんだ。
「さあ、お前もこちら側にこい! 私の境地をお前に感じさせてやる」
「しまった……こんな近くまで……いったい、何ができるというんだ!」
ザックは、私の手を引き離そうとする。だが、もう遅い。
「行くぞ! スキル発動!『ダメージ・オブ・ザ・リンク』!」
『ダメージ・オブ・ザ・リンク』……このスキルは、カウンタースキルに似たようなものだ。
だが、ただのカウンタースキルではない。
通常のカウンタースキルは相手の攻撃ダメージを直接相手に返すものだ。だが、これは違う。
受けたダメージ全てを、攻撃してきた相手を選んで返すことができる。
だから、あえてエリザの攻撃を受けた。そのダメージは、ザックの攻撃に上乗せして返すことができるのだ。しかも、その時の苦痛、精神状態まで、そっくりそのまま与えることができる優れものだ。
最初は『トールハンマー』の攻撃。頭を打ちぬくほどの強烈な衝撃だ。そして、わけのわからぬ連続攻撃。最後にエリザの召喚魔法。
忘れてはならないのは、私が何の役にも立たない防具をつけてその攻撃を受けたということだ。
防具があれば、痛みとダメージは半減する。だが、私のダメージにはそれがない!
その痛みは、直接ザックが感じることとなるのだ。
「ぐああああああああああ!」
ザックが断末魔の悲鳴を上げ始めた。
痛みのフルコースが始まる。
「はひぃ……ふへぇ……ほぉおおおおお」
ザックの体は、私がダメージを受けた場所と同じ場所に凹みが生じる。
「ぷはぁ!」
ザックの体にモザイクがかかる。
「ギ……ギモヂイ……」
ザックは、幸せそうな笑みを浮かべてつぶやくと、重力に引かれるまま人形のように倒れた。
戦いは終わった。奴は正気を失い、戦闘不能状態に陥った。
私はダメージを快楽と受け取っている。そして、このスキルは、その精神状態をザックにも適用する。なので、ザックが受けた苦痛はすべて快楽へと変換されたはずだ。
そして、もう……奴は元には戻れない……私と同じ快楽を知ってしまったのだから……。
だが、ザックの耐久力もなかなかのものだった。この私の限界ダメージを受けても気を失っていない。それだけは、称賛してやろう。
「勝者! クッコ・ローゼパーティー!」
審判が我々の勝利を告げた。
観客が一斉に騒ぐ。
「「「クッコロ! クッコロ! クッコロ! クッコロ! クッ……」」」
闘技場内にクッコロコールが鳴り響く。大歓声だ。私は、クッコ・ローゼなのだが……この際、細かいことは気にしないことにしよう。
「私たちの、勝ちですわ!」
「やりました! 勝ちました!」
「奥義を発動するまでもなかったです」
私のメンバーも、大喜びだ。今回の戦いで、自分たちの能力に自信がついたことだろう。
私はエミリアの回復を受け、モザイクを処理した後、闘技場の正面にある勝者の椅子に座った。
この瞬間、私たちは、ギルドのトップランカーパーティーとなった。
──ドーン!──
派手な祝砲だ。
──ドーン! ドーン!──
激しい祝砲だ!
──ドドドン! ドーン! ドーン! ドカーン! ガラガラガラ!──
祝砲……!? いや、違う……この音は……。
「クッコさん、あれを……」
エリザが、突然闘技場の外を指さす。
「どうした、エリザ」
私はエリザの指差す方を向いた。
すると、城の塔から煙が上がっているのが見えた。
塔は崩れ落ち、火の手が上がっている。
「あれは、祝砲などではなく、大砲の音だ。浮かれている場合じゃない!」
──嫌な予感がする──
「どうして城が! ……お父様!」
私は騒ぐ観客を押しのけ、城へと急いだ。




