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第十九話 下剋上

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 この時の私は少し感情的だった。こんなにはらわたが煮えくりかえるとは夢にも思わなかった。

 しかも、その勢いで、ザックに下剋上バトルを申し込んでしまう始末。


 けれども、エミリア、エリザ、シグルドは、皆同じ思いでそれを了承してくれた。

 そのおかげで私は少し安心することができた。

 だが、戦うからには絶対に勝利しなければならない。


 ギルドへ帰還した私たちは採取したクリスタルドラゴンの角を納品し、クエストを無事終了。

 ザックのおこぼれに預かった時の精神的屈辱は負け犬になったようで気分がいい……いや、大変屈辱だったが、クエスト遂行のためには仕方がなかったことだ。

 だが、そのおかげで下剋上バトルでの順位差分の負担がかなり軽くなった。


 下剋上バトルは、ギルドに登録されたパーティー同士が優劣を競う戦いの場だ。

 それにより、一気にパーティーのランク付けが入れ替わることがある。


 そのおかげで私以外の三人はAランクに格付けされた。喜ばしい限りだ。

 もちろん、パーティーのランク付けも上がり、私たちは8位の功績をマークすることができた。


 今回の下剋上バトルは、私たち8位と、1位のザックパーティーとの戦いだ。

 当然トップが負ければ失うものも大きい。

 なので、私たちが負けた場合、それに見合う順位差分の対価を支払うことになる。


 対価に選んだのは、私が持っている聖騎士の称号だ。これを選んだ理由は、ザックが一番欲しがっていたからだ。

 もちろん、職業としての騎士ではない。能力を認められた者のみが得ることのできる称号だ。


 私は、努力して聖騎士の称号をえた。貴族特権で無理やり得たものではない。(そもそも、その特権で得ることは、よほどのことがない限り無理なのだが……)だが、国民にそれを示したところで、その意味を知るものは少ない。なので、意味のないものとなってしまった。


 というわけで、その称号を失っても貴族としての身分は残るので、事実上、賭けたことにはならないのだが、聖騎士の称号を得るために努力した分を賭けたと思えば、その価値に納得できる。


 そして、ザックは野心家だ。ザックには好条件、断る理由がない。なので貴族になれるチャンスをみすみす逃すはずがない。

 ザックの仲間には直接恩恵はなさそうだが、おそらく、いろいろと交渉して説得することだろう。

 聖騎士の称号によって、税の免除、報酬増加といろいろあるが、それよりも、奴にとっては貴族として扱われるようになるのが何よりの特権になるはずだ。


 今回、このチャンスをものにするため、奴は全力でくる。

 だが、私たちは負けない。それを必ず粉砕してみせる。

 私の仲間を侮辱したことを、後悔させてやらなければならない。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 私たちは、クエスト報酬を手にし、ギルドのロビーにある円卓テーブルに着いて一休みしていた。

 報酬の額はかなりのものだ。3か月は遊んで暮らせる。

 本当はその金で打ち上げをやるつもりだったのだが、下剋上バトルのせいで、そういう雰囲気ではなくなってしまった。


「それにしても、ムカつきますわね。あのような輩がギルドのトップランカーだなんて……私の召喚魔法で潰してあげたいですわ」

「これは、絶対に勝たなきゃいけないです! 教官が自分の地位を賭けてるんですから」


 エミリアとエリザのやる気がひしひしと伝わってくる。

 エミリアは、強いとは言えないが、パーティーとして、十分に役に立つレベルだ。エリザは十分な力を秘めている。その素早い身のこなしだけで相手を翻弄するかもしれない。


「あの方たちには、無様な敗北を与えてやりましょう」

 シグルドは、目を赤く光らせながらそうつぶやくと、魔剣グラムを頬にこすりつけ、まるで恋人のように抱きつく。

 未知数な部分はあるが、おそらく、常人には測れない力を持っていることだろう。


「皆、ありがとう。迷惑をかける」

「迷惑だなんて、思っていませんわ。むしろ……楽しみです。彼らも、もしかすると死ななそうですし」

「教官の教え通りに、いつも魔力量を鍛えるため、システマの呼吸を会得したんですから」

「主の命令があればこそ、私の能力が発揮されます。どうぞ、思う存分にお使いください」

「ああ、皆……恩に着る!」


 皆、頼もしい仲間たちだ。私のわがままにここまで付き合ってくれるとは…………この出会いを与えてくれた運命に感謝したい。



──それから数日後──


 私たちは決戦の日を迎えた。



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