第十七話 ドラゴン討伐
私たちは、クリスタルドラゴンに見つからないように山の火口付近へと近づいた。
火口には、ドーム状の岩の塊があり、いたるところに大きな空洞ができている。その空洞の中にクリスタルドラゴンは眠っているはずだ。
「皆、よく聞いてくれ。これからクリスタルドラゴンをおびき寄せる。私が先行して谷間になっているところまでおびき出す。エリザとシグルドは谷の上で待機して、動きを止めたところを攻撃してくれ。エミリアは効果時間の長いタイムヒールをかけてくれ」
「シールドはいいんですか?」
エミリアが質問する。
もちろん、シールドなどを張って攻撃を無効化するという愚行は絶対にしない。
「シールドは必要ない」
と、言葉を返した。
クリスタルドラゴンの攻撃を、この体で受け止め、肉体的に対話することができるのだ。
奴らの本気を見れると思うと、胸が張り裂けそうなほどに熱くなる。
「じゃあ、私とシグルドは、ここで待機していればいいのですわね」
エリザは素直に答え、配置に就く。
シグルドは少し不満そうな表情を見せていた。
おそらく、私の護衛から離れるのが嫌なのだろう。
ロボットなのに、人間並みの感情表現があるのが不思議でしょうがない。
だが、いざ顔を合わせると、シグルドは元気よく答える。
「必ず仕留めて見せます!」
シグルドにとっては、パーティーでの初仕事だ。気合が入っていて当然か。
一応、入りすぎても困るので……。
「いや、仕留めてはだめだ。角はまた生えてくる。できれば殺さないでおいてくれるとありがたい」
と、一言添えた。
「そうですか……わかりました。」
「じゃあ、行ってくる!」
私は今のパーティーメンバーに感謝したい。私は今、自由だ!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
岩の色と同じ布をかぶって火口中央のドームへと近づく。
空洞の中に、赤い光が見えた。かなりの数が中でくつろいでいる。
もし、これが一斉に襲ってきたら……私は昇天してしまうだろう。
想像しただけでも……ああ、体がうずく!
一呼吸おいて、もう一度冷静に動く。
まず、相手にするのは一匹づつだ。ドームの外に出たクリスタルドラゴンに、純度の高い黒曜石を見せて興味を引く。
クリスタルドラゴンは、黒曜石に反応し、赤い目を光らせる。
「よし、釣れた!」
ちょうど手ごろな隊長10メートルほどの大きさのクリスタルドラゴンが釣れた。
クリスタルドラゴンは、静かに羽をはばたかせ、ゆっくりと上昇する。
これは、黒曜石を独り占めするために仲間に気づかれないようにしている証拠だ。
危険がない場合は、騒がず、叫ばず、大人しく獲物を狙うという狡猾な修正を持っている。
私は黒曜石を光らせながら誘導する。
するとクリスタルドラゴンは、移動する私を鋭い足の爪でひっかいてくるのだ。
「はううっ!」
その足の爪が引っかかり、私の体は吹っ飛ぶ。
その瞬間、隠れるための布が引きはがされ、私は姿を晒してしまった。
だが、クリスタルドラゴンは私の姿を見ても微動だにしない。
それよりも、黒曜石が気になって仕方がないようだ。
おそらく、最初の一撃で転がったせいで、クリスタルドラゴンに弱いと判断されたに違いない。
こうなると、やられたい放題だ。
私を弱いと判断したクリスタルドラゴンは、容赦なく襲ってくる。
固い尻尾で叩きつけたり、鼻先で押しつぶそうとしたり、角でつついたり、普通の冒険者ならすでに昇天ものだ。ついでに私も昇天しかけたのだが、タイムヒールが効いているので少し休めば回復する。
「もっと……もっとだ……いいぞ……じゃなかった……早くこっちへ来い!」
もちろん、指定の場所に誘導するのも忘れない。
尖った峰の谷間へと転がるように誘い込む。
「来ましたわね……いきますわよ! 『エクス・デス・マキナ・アーム』!」
エリザは召喚魔法を放った。
広がる暗雲、轟く雷鳴、裂けた空間から黄金の腕が出現。
腕は一気に降下し、クリスタルドラゴンに直撃。
クリスタルドラゴンは、叫び声をあげる暇もなく、つぶされて失神する。
そして、その攻撃は私の体をすり潰すように押し砕く!
「あああああ! この体が潰れて引き裂かれるような痛みがたまらないいいいい!」
だが、そんな快感を味った私もすでに瀕死だ。
「あ……あとは任せた……」
「その角、私が頂戴します!」
シグルドが、動けなくなったクリスタルドラゴンにとびかかる。そして、頭の眉間に生えている角を魔剣グラムでそぎ落とす。
「まずは、一本……」
「や、やりました! シグルドさん! あ……そうだ。教官を回復しなきゃ……」
エミリアは、潰された私に近づき、回復魔法をかける。
「よ……よくやったぞ。とてもいい連携だ! 次もこの調子で頼む!」
皆の活躍に私は激を飛ばした。
「わかりましたわ。あと3回……頑張らせていただきます」
「私も、マナが最大値なら、いくらでも戦えるのですが……ご面倒おかけします」
パーティーを結成して本当に良かった。そう思えるひと時だった。
だがその時、そんな和やかな雰囲気をぶち壊す、笑い声が聞こえてきた。
「はーっはっはっはっは!」
笑い声が聞こえたのは、山頂の方からだ。目を向けると、そこには4人の人影があった。
「この声……誰ですの!?」
エリザは警戒する。
引き続き、男は大声で話す。
「変な戦い方は相変わらずだな、クッコ・ローゼ!」
「この声は……まさか……!」




