第十話 大蛇
我々、遺跡探検隊は洞窟の中を進むこととなった。
探検隊の隊長は、エミリアのリュックから探検七つ道具のうちの一つ、ランプを取り出した。
ランプをエリザに持たせ、その明かりを頼りに私たちは洞窟の奥へと足を踏み入れた。
「気をつけろ! 何かいるぞ!」
しんがりにいるヒロシイ隊長が叫ぶ。
「な、何事ですの?」
エリザが警戒する。
我々は、一時、足を止めた。
すると、後方から何かが飛んできた。
飛んできたのは、コウモリの群れだ!
私は思わず……。
「コウモリ? 吸血コウモリか? 血を吸うのか、ほら、おいしい血だぞ!」
自らおとりになった。
コウモリの群れは私の体に容赦なくたかってくる。
「く……くすぐったい……」
だが、私を止まり木と勘違いしただけで、血を吸ってはくれないようだ。
「教官! 今助けます!」
エミリアは、私にたかったコウモリを魔法の杖で払い飛ばす。
「えいっ。えいーっ!」
エミリアは私にたかっていたコウモリを追い払ってしまった。
まあ、それはそれで仕方がない。一応、難を逃れたことにしておこう。
「エミリア、ありがとう。先へ進もう」
「はい、教官」
私たちは、飛んでくるコウモリをもろともせず、先へと進もうとした。
その時だ。
「まて、まだ何かがいるぞ!」
ヒロシイ隊長が叫ぶ。こんどは指を差していた。
私は、隊長が指差す方向に視線を向けた。
すると、暗がりから赤い光が二つほど光っているのが見えた。
「エリザ、隊長の指差した方をランプで照らしてくれ!」
「わかりましたわ」
そこにいたのは…………。
『ジュルルルルゥ~』
とてつもなく大きな大蛇だった。
太さ50センチ。長さは10メートルはありそうだ。
鋭い眼光で私を睨む。シュルシュルと舌を伸ばす姿は、獲物を前にして舌なめずりをしているかのようだ。
背筋が、ざわつく。私は思わず…………。
「はああっ! あえて……くらおう……そのくねくね……その体で、私を締め上げ、かぶりついて見せろお!」
恐ろしい眼光、鋭い牙、グロテスクな体の模様。
あまりのかわいらしさに、心を奪われてしまった。
『ジュルルルルゥ~』
大蛇は、私の体に飛びつき、グルグル巻きのホールドを仕掛けてきた。
どうやら、私の思いが通じたようだ。
「ううっ! この締め付け……最高だぁ!」
「だめだ! その大蛇はグレートハブだ! 奴の毒は猛毒だ。さらにその毒は魔法を受け付けない! そして、今は血清を持ち合わせていない! かまれたら死ぬぞ!」
「(隊長が慌てている。そんなに危険な毒が……なら、なおさら……)」
すると、隊長は、エミリアのリュックから、召喚獣カプセルを取り出した。
召喚獣カプセルとは使役している魔獣を封印するカプセルだ。
「いけ! 探検七つ道具の一つ! ジャイアントマングース!」
『キヤァーッ! キヤァーッ!』
カプセルから飛び出したのは、大人の人間の大きさほどある凶暴な猛獣だった。
鋭い牙を見せつけ、大蛇を威嚇する。
大蛇は私のホールドを解き、ジャイアントマングースとの戦闘態勢に入った。
『ジュルッ……ジュルルルゥ~』
「いけ! ジャイアントマングース! グレートハブを倒せ!」
『キヤァーッ!』
ジャイアントマングースは、ヒロシイ隊長の掛け声とともに、正面から一気に飛びかかる。
だが、大蛇は、それをものともせず、大口をあけてパクリと飲み込んでしまった。
『ジュルルッ』
「き……切り札が! こうも簡単に……こうなったら……」
隊長は、またリュックから何かを出そうとする。
だが、大蛇は満足そうな目つきを見せ反転した。
その後、小さな穴の中へと潜り始める。
おそらく、ジャイアントマングースを食べてお腹がいっぱいになったのだろう。
「く……くそっ……ジャイアントマングース、君の犠牲は無駄にはしない。先を急ごう。生きてこの洞窟から出るんだ」
隊長は悔しそうだった。
それもそのはずだ。自慢の猛獣をこうもあっさりと失ってしまったのだから。
「わかりました。ジャイアントマングースが身を犠牲にして我々を救った恩義に報いるには、生きてこの洞窟を突破するしかないということですね」
こうして私たちは、一つの悲しみを背負い、洞窟を突破するのだった。
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「そういえば、ジャイアントマングースはグレートハブの餌用に飼育されていた気がしましたわ……それに、グレートハブの毒は、催淫作用のある精力剤として……」
「エリザ! それ以上言うな!」




