第2話 出会った腕は喋る
城内を歩いていると大きな両開きの扉と、床に転がる不自然な物体――指先から手首と肘程しかない腕――を見つけた。
その腕は身体に付いていないのに腐敗も白骨化もしていなかった。
それどころか程よく筋肉がついた健康的な腕だった。
そっと鼻を近づけて嗅いでみる。少し爪を出して突いてもみた。するとその指はぴくりと反応したかと思うと、何処からか紙とペンを取り出して言葉を綴り始めた。
〝どなたでしょうか?この城にはもう、高価な宝石や価値のあるものはありませんよ?〟
〝そもそも全てが色を失っているから盗む意味もありません……〟
〝それでもここに滞在するのなら私の何処かへ行った身体を探してほしいのです!
どうかお願いです 〟
〝……どうか…… 〟
そこまで書くとペンの動きは止まり、こちらの反応を覗うように感じた。
『僕は僕の好きにする。僕はただの毛むくじゃらだから、気持ちの悪い腕の話は聞かなかったことにするよ?早く身体を探してこの城中のことをあんたの口で説明しなよ 』
『文字を読むと疲れるんだ……』
瞳が月の光にゆらりと反射した。その場を立ち去ろうと足踏みをした。腕は慌てて書き足した。
〝待ちなさい、君は何の怪物なんだ。まさか!私を食べに来たんじゃ……!〟
『……は?何その質問、流行ってるの? 』
慌てて動く腕を無視して。
『呆れた』
長い尻尾を揺らしながら。
『猫だよ、認識する色が少し多いだけの…… 』
元来た道を静かに去って行くのだった。