第1話 色を知っている
色を知っている。
世界の色を知っている。
焼けつくような真っ赤な太陽と孤独を包み闇夜を照らす黄色い月。
空は青く、黒くて重い雲は涙を流す。
流れた涙は川になり海にもなる。
歩く道は茶色い大地。
この茶色のおかげで、地を蹴り走ることも好きな所へ行くことも出来る。大地に根を張り緑の葉を付ける美味しい実のなる木も生えなかった。赤い太陽が沈み黄色い月が昇る。
目覚めと眠り。朝と夜、光と闇。
沢山の色を知っている。
色を持たないものはない。
そう思っていた。
ある不思議な城に出会うまでは……。
『……白と黒の城……? 』
オキザリス-色のない城-
白と黒。
目の前には2色の城が建っていた。耳鳴りがしそうな程に静まり返った庭は綺麗に整えられており城の奇妙さを協調するように感じた。荒れてはいない。けれど、どの草花も木も本来持つべき色を無くしていた。
『生気がない……』
そう、思った。
空は黒いが、真っ黒というわけではなく。
月と星の輝きに青くも見える。
この城だけが違和感を覚える色をしていた。
幸いにして、自分の体は小さくてしなやか。
門が締まっていてもするりと通ることが出来た。
無用心にも城の扉が少し開いていた為に勝手にお邪魔することにした。
冷たい床に絨毯が敷かれている。白くて黒いだけの。
忍ばなくても、足についている肉球が足音を鳴らすことはない。
自慢の長い尻尾をゆらりとさせ、背後の月を振り返った。
瞳が月をとらえ、小さな炎のように揺らめいた。
知らないものに出会った緊張と胸の高まりに何故か、
足どり軽く進んでいった。
お待たせ致しました。
緊張と期待と不安を貴方に。