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結論から言うと、失敗している。

なにが失敗しているかと言うと、アランに懐かれないようにすることだ。


火事で死んだ私は、そのときに見ていたアニメ(元はゲーム)『the Last whisper〜俺以外は選ばせない〜』、通称ラス俺という攻略対象がヤンデレしかいないという悲惨な世界に転生して、しかも主人公のソフィアになっていた。


そこで私が考えた作戦というのが、貴族なのに気さくで明るく優しいソフィアとは正反対の、冷たくて無愛想で高飛車なエリートお嬢様になることだった。

私の振る舞いはいたって完璧なはずなのに、なぜか、攻略対象の従兄弟アランが私に懐いてしまっている。


実際にラス俺の物語が始まるのは魔術学校の入学式からだ。それぞれのキャラの幼少期について詳しい説明があるわけではないのだけど、アランとの出会いはちゃんと回想があって、突然おじにあたるソフィアの父に連れてこられて怖がっているアランに、主人公が明るい笑顔で手を差し伸べる。


生まれた時から、その目の色のせいで親から温かい愛情を受け取れなかったアランにとって、主人公は光を差し伸べてくれる存在だった。ってアランが死ぬ前に言ってた。


そうして出会った2人だけれど、引きこもりがちなアランとソフィアが顔を合わせる頻度はそこまで高くないはずで、幼少期の出会い以外のエピソードで明らかになっているのはソフィア10歳の誕生日。そしてその後は、アランが1年遅れて学園に入学してくるときだから、誕生日と入学までは実に5年近く間があく予定のはずだ。会えない間にソフィアへの気持ちを拗らせたアランが、学園で友達と楽しく過ごす姿を見て、嫉妬し、行動がだんだんエスカレートしていく…と言う関係性。今思い出したけど、アランのバッドエンドだと主人公の死体が誰かに触られるのが嫌だからという理由で2人でつららに八つ裂きにされるんだった。ハッピーエンドだと2人で氷漬けになって海のそこに沈むんですよ。どっちにしろ最悪なのでは?


アランとの心中を避けるには、まずは初対面でアランに興味を持たれないこと、それから10歳の誕生日に、アランがソフィアに恋心を抱くきっかけを作らないこと。そうすれば、アランがソフィアに執着しなくなるはず。


しかしながら、現状、私の「アランに興味をもたれない」と言う作戦はアランに初めて会った日から失敗しているし、失敗し続けていた。


ぽと、と音がする。

私は朝からずっと噴水から水を浮かせて、氷にしている。

何もないところに氷を作るのは魔力の消費が強すぎて数が練習できないから、噴水の水を使ってとりあえず形を丸くする精度をあげているのだ。アランに勝つために。


私は私の2、3メートル先に、丸い目をぱちぱちさせながらこちらを見ているアランに目をやった。睫が長くてむかついてきた。


私は自分の周りに小さな水を浮かせて、1つ1つに集中して魔力を込める。パキ、と音がして水が氷、丸い氷になって地面に落ちる。小さいものならまん丸に出来るようになってきた。

長い影が目の前に伸びてきた。顔をあげると、アランと目が合う。

アランは控えめに微笑むと、小さくいっぽを踏み出して私のほうに歩いてくる。


違います。勘違いしないでください。近づいてきてほしいわけじゃないです。


「何か用?」

「一緒に練習する」


いいよ、とも何とも言ってないのに、アランは勝手に私の横に立ち、噴水の水を使わずに、その場で透明でまん丸で美しい氷の玉をいっぺんに2、3個作り始めた。


これである。

さすがハッピーエンドでもバッドエンドでも氷を使って主人公を殺しにくる男。小さい頃から才能があふれ出している。


私が噴水の水を浮遊させ、何とか丸くしている氷の玉は、不純物が混じっているのか完全な透明にはならず、そしてまん丸ではなくて若干楕円になったり、へこんだり、ざらっとしたりする。

反対にアランはいとも簡単に透明で美しい球体を作る。これが天才というやつか?


3●年の私の人生経験は魔術に関しては一切アドバンテージがなく、私は将来私と心中しようとする可能性のある危険人物よりも自分が劣っていることを日々日々感じて恐怖でぶるぶる震えているところだ。

氷魔術で真っ向勝負するのは絶対にやめよう。かといって苦手から逃げるわけにはいかないけれど。敵を知らずに勝負に勝つことはできないから、氷の魔術のコツをつかむまで、私はあきらめる訳にはいかない。


私はアランの存在に集中力が乱されないように、呼吸を落ち着かせて、少しだけ浮かせる水を大きめにした。

コツン、コツン、コツン、コツン、コン、コン、コン、と音を立てながら氷が生まれて落ちて、転がる。アランがその氷たちをなにか言いたげに見ている。私より綺麗な透明な氷を作りながら。


「…アランはどうやって透明な氷を作ってるの?」


アランの手で生成されつつあった氷が砕け散った。

おい。あぶない。その欠片で私を八つ裂きにするつもりか?


「…」


アランは少し考えるように、首を下に向けたり上に向けたりする。そして私の手から生み出されている氷、地面に落ちている氷を見て、口を開いた。


「…小さくする」

「小さく?」

「たくさんの水がすごく小さくなって、いらないものは全部なくなって、すごく小さくなる。もっともっと小さく。ソフィアは大雑把」

「……喧嘩うってる?」


アランが勢い良く首を横にふった。

私の目の前で倒れてからアランはずっとよく喋るようになって、だんだん言葉も流暢になってきたけれど、そうなったらそうなったで言うことに遠慮がなさ過ぎるところが出てきた。

いつか泣かす。

しかし一応教えてくれたことにはお礼を言った。


つまり、私の今作っている氷は密度が足りないってこと?込める魔力の量なのか、水自体の圧縮なのかは試して見ないとわからない。

ひとまず、魔力の量をグッと増やして、作ってみよう。

手を前にかざして、魔力が集まってくることをイメージする。冷たくて、固く、密集している。小さく、小さく。もっともっと小さく。


「もっと、もっと小さく…」


手のひらがじんわりと熱くなってきた。先ほどと同じくらいの水の量なのに、ずっと小さくなっていく。これ以上は無理だな、というところで術を止めると、私の手のひらには、アランが作ったものには及ばないものの、透明で綺麗な氷の玉ができていた。太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。


「見て!!すごく透明にできた!」


これまでで一番の傑作!指でつまんでアランの目の前にずい、と見せる。アランは私の勢いに押されるように足を一歩後ろに引いた。口は半開きで、動揺しているように見える。そして次の瞬間、ウサギみたいに身を翻して、逃げた。


「な、何?」


逃げられたけど、追いかける義理もない。

私はアランの作った氷を一粒つまんで、それにぐっと魔力をこめた。割れない。次に、勉強し始めたばかりの炎の魔術を試してみる。表面がうっすら溶けるだけ。割れない。


「前途多難だ…」


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