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平凡男子の無茶ブリ無双伝  作者: おもちさん
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報告書B  特異な性質

お説教タイムは嫌いだ。

お説教タイムは時間の浪費だ。

特にこんなクソ忙しい職場においては。


担当案件のトラブルについて、私は今マネージャーから指摘され、平謝りしている。

トラブルの内容が内容だけに、お叱りが長い。

話も後半に差し掛かると諸々どうでも良くなり、相槌もテキトーになっていった。



「それで、何も考えずにひたすらOKを押し続けたと」

「はい、左様です」

「そして状況を確認することもなく、オーバーフローした設定値を放置して、サボりに行ったわけだな」

「はい、カフェラテ飲み行ってました。旨かったです」

「その間ユーザーはハコニワをビュウモードで見ていたそうだ。住民の様子がおかしいとクレームが入ったぞ」



ハコニワ住民がレイン達を追い回していた場面を、タイミング悪くユーザーが目撃してしまったらしい。

気づかれなきゃ惚けようと思っていたのに、これじゃ揉み消せないな。

担当営業も近々、青い顔で怒鳴り込んでくるだろう。



「ショーコ、本件で何か言うことはあるか?」

「はい。今回の失態を重く受け止め、本日限りで職を辞そうかと」

「うむ、却下だ。この状況でベテランを手放すと思うか?」

「チッ」

「今後は見落とす事無く注視しろ。対処法のファイルを送っておいたから目を通しておけ。行ってよし。」



あぁー、ようやく解放されたぁーん!

八つ当たりをするようにドカッと椅子に座り込んだ。

周りが私の事をチラチラ見てくるが無視だこのやろう。

こっちにはもう気遣い出来るほどの気力残ってねーんだよ。


それにしてもマネージャーめ。

ネチネチした叱責で30分も潰しやがって。

そのくせ仕事は無神経にジャンジャン回してくる。

悪魔かよ。


あの冷血女、あんなキャラでも結婚して子供までいる。

こっそり化粧室で家族の写真を眺めてはニヤついている場面を何度か目撃している。

私なんて彼氏すら久しくいないというのに。

世の男どもは見る目が無いと思う。

やっぱ乳か? 乳でけぇ方がいいのか?

あんなもん脂肪の塊だろふざけんな。


溜めこんだ不満をコンパクトにまとめて心から射出した。

もはや日課となったこの呟きは、こうやって精神のスマートさを保つのに役立っている。

あ、今『お前の胸もコンパクト』って思ったやつは慈悲なく殺すからな。



プルルルッ

プルルルッ



電話だ。

どうやら私宛のものらしい。

面倒だし居留守しちまうか?

あ、ダメだ。

マネージャー様が見てる。

仕方ないので受話器をとった。



「あい、管理じぎょぉぶのショーコでっす」

「システム部ノザキだ。……なんかあったか?」

「べっつにぃ? 何もないっすけどぉー」

「お、おう。それならいいが」



珍しくシステムからの入電だ。

もしかすると例の件が片付いたのかも。

期待に胸が膨らんだ。



「わざわざ電話をくれたってことは解決してくれたの?」

「いや、悪いがそうじゃない。そっちの方は時間がかかるから寝かせておいてくれ」

「はぁ、じゃあなんだってのよ? ディナーのお誘い?」

「それだけはない。例の謎の役職について説明をしようと思ってな」



なんだテメーも巨乳フェチか?

軽口をバッサリ切りやがって、ちっとはスマートな返ししろよ!

『それは魅力的な提案だけど、今忙しくてね』くらい言えやオゥ?



「今からしばらく前の話だ。ある案件で特別な住民を制作することになった。あの変態という妙な役職は、その特別な住民をテスト運用するためのものだ」

「テスト? 何の事?」

「んー、お前A-PLはわかるか? プラネット用言語だが」

「知ってると思う? こちとらアルファベット眺めるだけで熟睡できんのよ」

「お、そうか。じゃあ噛み砕いて説明するぞ」



わざわざ聞くな、イヤミか?

最初から噛み砕けよ、そこまでがアンタの仕事だっての。



「んで、その特別な住民ってなんなのよ?」

「あぁ、そいつは『邪神』だ」

「え、神様? ヤバくない?」



神ってことは好き放題出来るじゃん。

あの純朴なレインきゅんが、裸の美女の国とか作っちゃうかもしれないじゃん。

……羨ましいな。

私だってイケメン桃源郷とか作りたいわ。



「いや、あの役職にそんな力はない。むしろ最弱だ。邪神の性質だけが組み込まれている」

「その性質って?」

「ズバリ! 忌み嫌われる、だ。人々から邪神が愛されたらおかしいだろ? 勝手に討伐対象になるくらいヘイト溜められなきゃ自走しないしな」

「討伐って……、でも変態は弱いんでしょ?」

「弱いな、きっと誰よりも」



うっわぁ。

やらかした自分が言うのもおかしいけど……これは酷すぎる。

私は彼になんという人生を用意してしまったのか。

もし会いに行けるなら土下寝でも性奴隷でも何でもしたい気分だ。



「住民のヘイトを下げる方法はある。手動で面倒だが、やらないとその青年の命は保障できないぞ」

「わかったわよ、次は気を付けるから」

「手順についてはマネージャー経由で受け取ってくれ。じゃあ頼んだぞ」

「はいはい、よろしくどぉぞ」



はぁ、ほんっと面倒だな。

これだけ労力を割いているのに、まだ根幹の問題には何一つ着手できていなかった。

なんという歯がゆさ。

遠くない将来に、あのハコニワの星は未曾有の危機に直面することになるというのに。

星の住民達は誰もその事を知らない。

その未来の事を、私だけが知っていた。



暗い気持ちでメールボックスを開くと、マネージャーから一通来ていた。

件名と本文の無い、パッと見スパムのような添付だけのメール。

とにかく、対策するにも理解を深めなくちゃ。

資料をダウンロードして読み進めることにした。



「えっと、邪神の性質と特殊信頼度についてっと」



私は時折ハコニワの様子を確認しながら、謎の役職について調べを進めていった。

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