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平凡男子の無茶ブリ無双伝  作者: おもちさん
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最終報告書  ログアウト

「倒した……?!」



画面にははっきりとその光景が映っていた。

レインくんが邪神を両断する姿を。

そしてその姿が塵となると、こちらのシステムも突如回復した。

すべてのモニターがあるべき画面を映し出し、諸々の機能を取り戻していた。



「おいおい、マジかよ! あの凶悪なバグキャラを倒しちまうなんて!」

「ねえノザキさん。これで、終わったの?」

「完全に解決したかは中身見てみねえと。たぶん大丈夫だと思う」

「そっかぁ。レインくん凄いじゃない……」



まさかあの頼りなかった青年が、凶悪な邪神を倒しちゃうだなんて。

私が言えた義理じゃないけど、君を蘇らせて正解だったよ。

何せ全ハコニワの英雄だもんね。



「ともかく当座は安心と言う所か。あのキャラクターは警察よりもずっと優秀だったな」

「そっすね。税金返せって言いたくなりますね」


ーーその警察官も税金払ってるんですよ。


……とは流石に言わなかった。

そこまで世渡り下手ではない。



「何はともあれ、一安心じゃないですか! じゃあ皆で飲みにでも……」

「待て、ショーコ」

「何です?」

「この荒れてしまった大量のハコニワ、誰が改修すると思う?」

「それは、もしかして……」

「さぁ席につけ。残業祭りだ」

「オッフゥ……」



オフィスの喜びは5分と保たなかった。

これからは数え切れないほどのタスクに追われ、終電すら乗れない日々が始まるのだった。



ーーーーーーーー

ーーーー


改修作業に通常業務、さらには飛び込む新規の依頼。

それらを謎のやりくりで片付けていく日々。

あの事件から既に1ヶ月が経過していた。

もはや懐かしさを覚えるくらいに風化していた。



「ああ、今日も電車で帰れないか……。タクシー、いやどっかで飲みあかそうかな」



私はモニター画面にブツブツと漏らし続けた。

明日は休みとあって張り切っていたのだが、正直やりすぎた。

『キリの良い所まで』なんて思っていたけど、延々と進めてしまったのだ。

アホか私は。

気がつくとフロアには数人しか残っていない。

ちなみにマネージャーは定時で上がっていた。


あの野郎、今日は結婚記念日らしく上機嫌だった。

どっかのレストランを予約してたらしく、いつもよりおめかしもしてた。

妬ましい、マジで失敗しろ!

パスタ食いながらむせて、鼻から麺出しちまえ!



例によって不満をコンパクトに射出していると、誰かが私の机に缶コーヒーを置いた。

触れると痛いくらいに熱いコーヒー。

ノザキだった。



「精が出るな、ショーコ。こんな時間まで頑張るなんて」

「ありがと。それは『金曜夜くらいデートでもしろ』なんてセクハラじゃないわよね?」

「同じく残業で残ってたオレがか?」

「そうよね、ごめん」

「ところで、聞いたか? 事件の後日談」

「えーっと。良く知らないね」

「とうとう犯人の居所がわかったらしくて部屋に踏み込んだそうだ」

「あー。なんか聞いた気がする。あんま覚えてないけど」

「するとだな、部屋はもぬけの空だったらしい」

「そりゃそうでしょ。警察来たら逃げるんじゃないの?」



当たり前だよね。

私が犯人でも、捜査の手が伸びたら逃げ回るわ。



「それがな、踏み込んだ時は警察が包囲してたらしいんだ。それなのに、部屋の中には誰も居なかった」

「じゃあそもそもどっかに雲隠れしてたんでしょ。今頃遠くに逃げてんじゃない?」

「話はそこで終わらないんだ。冷蔵庫の中身なんだがな」

「それが何だっていうの?」

「結構ぎっしり詰まってた事から、普段から頻繁に買い物をしていた事が伺えるんだが」

「別にいいじゃん。犯罪者だってお腹空くでしょ」

「大抵の食材が古かったらしい。1ヶ月前で切れてるものが大半だったそうだ」

「んん? それってどういうこと?」

「あの事件が解決した日、犯人もこの世から消えた……かもしれないな」



何それおっかない。

犯人は電子の世界に飲み込まれでもしたと言いたいの?



「なんてな。単純に逃亡しただけだろうな」

「気味の悪い事言わないでよ。私もハコニワ漬けの毎日何だから」

「おっとスマン。ショーコからすると、ちょっと寒気のする話だったろうな」



カラカラと笑うノザキ。

脳天チョップをかましてやりたい衝動に囚われた。



「ところで、例の英雄さんとは仲良くやってんのかい?」

「レインくんの事? もう連絡取ってないよ。肩入れしすぎると辛くなるし」



実際、あの事件のときは本当に辛かった。

胸を痛めるのに十分な程に、彼らとは仲良くなりすぎた。

私たち人間とハコニワの住民は、所詮は違う世界の存在。

特に彼らが死んでしまった時など辛いだろう。

だから私は彼らと連絡を絶って、深く関わらないよう気をつけていた。



「そうか。オペレーターも辛いな。今そのハコニワはどうなってる?」

「現地時間で言うと、もう50年は経ってるかな。新しい契約者が近未来をご希望でね」

「あー……。確かにショーコの態度は正しいな。時代をシフトさせようとするたびに住民とお別れとあってはな」

「いちいち仲良くしてたら身が保たないでしょ?」

「まったくだ」



そんなやりとりをしつつ、本日の業務を終えようとした。

画面を閉じようとするとノザキからまた声がかかる。



「なあショーコ。串焼きは好きか?」

「そこそこ。なんで?」

「どうせ今日は帰れないだろ? それだったら少し飲みにでも……」

「奢り?!」

「ああ、まあ、いいぞ。高いのはナシな?」

「大丈夫、私はグレープサワーとトマト串があれば延々と楽しめるから!」

「おう、そうか。もう少し高いもん食っても平気だぞ?」

「えーー。じゃあネギマも」

「うん、まあいいか」

「えーっとね。飲みに行く前に締め作業しないと」

「わかった。じゃあロビーで待ってるからな」

「5分で片付けるから、逃げないでよね?」

「なんだそりゃ。早くしろよ」



画面のアイコンにはレインくんのものが見える。

彼はどうやら、今も元気にやってるらしい。

そのアイコンが消えたとき自分がどう感じるのか。

それについては、今は考えたくなかった。



「それじゃあね、また来週ね」



私は独り言を呟きながらログアウトした。

それからしばらくして、画面は消えたのだった。

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