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平凡男子の無茶ブリ無双伝  作者: おもちさん
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第39話  ともかく上へ

中は円形の部屋となっていた。

とても大きな部屋がひとつだけあり、壁に沿うようにして螺旋状の階段が続いている。

他に進めそうな道が無いので、上へ昇ることにした。

今のところ、目立って危険な出来事は起きていない。

そのせいか、みんなは胸の内を口にし始めた。



「それにしても驚いた。リーダーが一撃で倒しちまうんだからな」

「そうだな。レインがそこまで強くなっていたとは想定外だ」

「僕は違うと思うな。グスタフさんやエルザさんで傷ひとつ付けられなかったのに、僕がアッサリ倒しちゃうなんて。なにか理由があるんだよ」

「理由とはなんでしょうか?」

「……なんだろうね」



不可解としか言いようがない出来事だ。

なぜグスタフたちの攻撃が効かなかったのか。

どうして僕は難なく倒せたのか。

僕には全く見当がつかない。



「ともかく、今は敵地真っ只中だ。ひとまずアタッカーをリーダーに任せてしまおう」

「それが良いだろうな。私とグスタフは防御に回る。私たちが攻撃を防ぎつつ隙を作るから、レインはそれらを討ち果たしてくれ」

「わかった、やってみるよ!」



確かに今はそうするしかないようだ。

隊列はそのままに役割だけ変えて、先へと進んだ。

もちろん、これからは敵に見つからないようにスニークをかけながら。



「相当昇ったと思うが、この階段はどこまで続くんだろうな?」

「そうだね。延々と歩かされているような気がするよ」



見た目の変わらない光景がいつまでも続いていた。

仕切りとなる次のフロアどころか、壁も階段も変化が見られないのだ。



「見て、次の階じゃない?」



見上げると、ぼんやりと床のようなものが見えた。

階段はそこまで続いている。

どうやらやっと次の場所へとたどり着いたようだ。

そこに敵や守護者が居ないとも限らない。

慎重に歩を進めた。



「ここで待っていろ、私が様子を見てくる」



エルザがそう言って、階段の先に消えた。

つい槍を握る手に力が込もる。


そして、しばらくして彼女が戻って来た。

その表情に緊張感は感じられない。



「大丈夫だ、敵は居ないぞ。動けるものはな」

「動けるもの?」

「見ればわかる」



僕たちは彼女の後を付いていった。

そして新たなフロアに足を踏み入れた。



「なんだ、こいつら。みんなガーゴイルか?」



あたりはガラスの筒が並んでいた。

中に入っているのは全て黒いガーゴイルだ。

それらが数少ないランプの明かりに照らされ、影を揺らめかせる。



「こいつらからは闘気が一切感じられない。抜け殻のようなものだろう」

「これは入り口の魔物と同じタイプだよね。なんでここに集められてるんだろう?」

「たぶん、ここで産まれてるんじゃないのか? そもそも見たことのない魔物だ」

「どうしよう。壊した方がいいのかな?」

「やめておけ、下手に刺激すると危険だ。ひとまず先を進もう」



エルザが指をさした先には階段があった。

やはり上があるようだ。

僕たちはこれまでと同じようにヒッソリと進んだ。



「流石に同じ光景ばかり見せられると、頭が変になってくるわね」

「贅沢言うな。襲われるよりはマシだ」

「そうなんだけどねー」



ここでも状況は変わらない。

同じ柄の壁を見ながら、ひたすら段を昇っていく。

そして敵も現れなかった。

みんなの口数がめっきり少なくなった頃、また床が見えた。



「見て。次のフロアよ」

「今度も安全だといいね」

「その保証はないな。なるべく静かに行こう」



僕たちはゆっくりと進み、部屋の手前まで上がってきた。

階段と床の境目から中の様子を窺うと、グスタフが舌打ちをした。



「ここには居るな。ミノタウロスとマジシャンゴーストか」

「戦うしかないよね?」

「こいつらも黒い。リーダー以外では傷を負わせられないだろう」

「じゃあ、僕が攻撃だね」

「オレはミノタウロス、エルザはマジシャンの方をやってくれ。ミリィとオリヴィエには援護を頼みたい」

「わかりました」

「じゃあ、気づかれない内に先手を取ろう!」



僕たちは一斉に駆け出した。

手前にミノタウロス、奥にマジシャンゴーストがいる。

まずはミノタウロスに攻撃を仕掛けよう。



「食らえ! 牛野郎!」



グスタフの剣撃が首に浴びせられる。

それをものともせず、ミノタウロスは大斧を振り下ろした。

それをグスタフは横に飛ぶことでかわした。



「今だぞ!」

「うわぁぁあーッ!」



がら空きになった脇腹を槍で突いた。

やはり手応えはなく、あっさりとその体を貫いた。



「グォォ……」



野太い喘ぎ声を残して、ミノタウロスは倒れた。

そして、体が黒い霧に包まれ、その巨体はどこかへと消えてしまった。



「やった、倒した!」

「浮かれるな。もう一匹いるぞ!」



そうだ、まだマジシャンゴーストがいる。

奥の方へ顔を向けると、エルザが戦闘中だった。

円を描くように走り回り、相手を引き付けている。

時々繰り出される炎をかいくぐりながら。



「レイン、やってしまえ!」

「てやぁーッ!」



マジシャンゴーストがこちらに背を向けた。

その隙を見逃さず、一閃をお見舞いする。



「グェエーッ!」



それだけで絶命してしまった。

マジシャンゴーストは黒い煙となり、それは吸い込まれるようにして消えた。



「すごい……あっという間に倒しちゃった」

「リーダーは強くなりすぎだ! オレの剣聖が大泣きしてるぞ」

「……そう」

「レインさん、どうかしましたか?」

「いや! 何でもないよ! ちょっと考え事してただけ」

「そうですか。怪我をしてたら言ってくださいね」



ここの敵は異質だ。

あれだけの重量感のある相手でも、倒した手応えはほとんどない。

まるで素振りをしてるかのようだ。


そして一番不可解なのは声。

倒した瞬間に、微かに何者かの声が聞こえる。



ーー殺しちゃえ。

ーーみんな、殺しちゃえよ。



最初は気のせいかとも思ったけど、マジシャンゴーストを倒したときには確かに聞いた。

殺せ、と。

耳にまとわりつくような言葉が。



「レインくん、本当に平気? 休んでいく?」

「ごめん、大丈夫だから。早く最上階まで行こうよ!」

「……そうだな。あまり猶予はないかもしれないしな」



そうしてまた、階段を昇り始めた。

いつまで続くのかと思うとウンザリする。



ーー背中ががら空きだ。やっちゃえよ。

ーーちょっと押すだけで下まで落とせるぞ。それで一匹減らせるな。



声は徐々に大きくなる。

一度自覚してしまってからは延々聞こえるようになってしまった。

それは少しずつ心を蝕むように、僕の中で不快に響く。

というのも、僕以外聞こえていないみたいだ。

誰も反応を示していないのだから。



ーー前の女はやっかいだな。そいつから殺そう。

ーー槍で横に払うのが良い。それで斬るか突き落とすかが出来る。



「……うう」

「レインさん、顔色が悪いですよ。少し休みましょう」

「……触るな」

「え?」



ーーシスターか。こいつは簡単だな。

ーー槍でひと突き、いや華奢だから素手でも殺せる……。



「うわぁぁああーーッ!」

「レインさん?!」

「どうしたリーダー! 戻れッ!」

「独りじゃ危険よ、追いかけましょう!」



僕は階段を全力で駆けた。

あの謎の声のせいで、頭がどうにかなってしまいそうだ。

何かを仕出かしてしまう前に、彼らとは離れるべきだった。

息が切れるまで走り続けると、いつのまにか次のフロアへと着いていた。



「……扉?」



そこはこれまでとは違い、1枚の大きな扉で第三層を仕切っている。

もしかすると、ここにボスが居るのかもしれない。



「リーダー!」

「レインさん!」



足元から声が近づいてくる。

このままだと追い付かれてしまうだろう。



「あの声も、ここのボスを倒せば治まるはず」



僕はみんなを待たずに扉を手をかけた。

それは重々しい音をたてながら、ゆっくりと左右に開く。

中は下層と大きな違いはなく、円形の部屋だった。

灯りも薄暗く、細部まで見渡すことができない。

暗さに目を慣らしつつ、部屋の中に踏み込んだ。



「思ったより早かったね。おかげで手間が省けたよ」



暗がりから声をかけられた。

反射的に槍を構える。



「誰だ!」

「誰、と聞くのか? 面白いなぁ」



コツリ、コツリ。

靴の音が近づいてくる。

そして、少しずつその姿が灯りに照らされていった。

その人物とは……。



僕だった。



「……え?」

「君は鏡に向かって『お前は誰だ』とか聞いちゃうの?」



僕と瓜二つな男が、小さく笑った。

その笑い声までもそっくりだった。

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