表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平凡男子の無茶ブリ無双伝  作者: おもちさん
41/51

第35話  最高位

西大陸の南部にある大神殿。

僕が耳にした噂はというと、次の通りだ。


広大な丘の上にそびえ立つ、聖職者の心の故郷。

厳かで神秘的な造りの建物は、訪れる人々に確かな信仰心を与える。

また、仕事に励むものには、大いなる力を授けるとも言われている。

丘の麓には村が作られており、そこに住む人々は清廉そのもの。

彼らは俗世間とは関わろうとせず、ただ神の示した道のみを歩み続ける。



なんとなく固い雰囲気を想像していた。

生活音すらない、ひっそりとただずんでいると。

そして僕たちは今その麓の村にいる。

グスタフにも確認したから、勘違いではない。

辺りの様子はと言うと……。



「大神殿まんじゅう、名物の大神殿まんじゅうはいかがですかー?」

「旅の準備には当店を、是非当店をご利用ください! お願いしますッ!!」

「楽してレベルアップしたくはないかい? 格安で教えるよー!」



うるさっ。

呼び込み合戦うるさっ。


村中に凄まじい数の露天がひしめいていた。

まるでお祭りのようだけど、これが日常らしい。

清廉な、村……?



「驚いたか? こいつらは旅の者目当ての連中だ。元々の住民は丘の反対側に移り住んでるぞ」

「そうなんだ。金儲けに目覚めた訳じゃないんだね」

「そんな極端な鞍替えはしないだろう。絶対にとは言わないが」

「ともかく、神殿に行こうか。ここに居ても始まらないよ」



丘へと真っ直ぐ伸びる道を進めば大神殿だ。

その道の両脇には、やはり数々の露天が立ち並んでいる。

雰囲気ぶち壊しも良いところだ。



「そこのご立派なお兄さん、うちの回復薬見てってくれよ!」

「新鮮のとれたて野菜だよー! うちの野菜を食えば元気一杯! そこのご立派さんみたいにねぇ?」



道行く人が爆笑の渦に包まれる。

そんなに笑うほど面白いんだろうか?



「良かったですね、レインさん」

「みんなに立派と言われてかい? これは別に褒め称えている訳では……」

「いいえ。初対面の方々が好意的に接しています。少なくとも排除するような気配はありません」



オリヴィエの言う通りかもしれない。

今回に限って言えば悲鳴も聞こえないし、怪訝な顔を向けられることもなかった。

その代わり、見知らぬ人からいじられるけど。

やたら『立派』だと指さされるけど。


これはどっちの方がマシなんだろうか。

僕には大差ないように思える。



興味半分で投げつけられる声を聞き流しつつ、神殿の中へ入った。

さすがに噂に名高いだけあって、総大理石の立派な建物だった。

中に一歩踏み込むと、天井の高いエントランス。

遠くに見える天井はステンドグラスらしく、降り注ぐ赤や青の光はとてもきらびやかだ。



「すごいね……。いきなり見せつけられた気分だよ」

「私は洗礼式以来ですが、あのときと変わりないですね」

「そうなんだ。こんな場所でスタートを切れたらやる気になりそうだなぁ」

「……やっぱり枯れてるな」

「枯れてるって何が?」

「水だよ。あちこちに段差があるだろ? あれは水路で、本来は水で満たされてるんだ」



不自然な段差があちこちにあると思ったら、水の枯れた水路だったらしい。

湿り気が全くなく、水が流れなくなって長いのかもしれない。



「やっぱり噂は本当だったわね。カラッカラじゃない」

「本当に、そうですね。あちらの噴水も止まっています」

「ともかく、お偉いさんに会ってみないか? ここでウンウン考えても始まらないぞ?」

「偉い人とそんな簡単に会えるの?」

「会えるさ。オレは大神官に用があるんだし」



なんだかとんでもない肩書きが飛び出した。

どれ程偉い人なのか知らないけど、たぶん凄い人だ。

それを聞いたエルザが珍しく声を高くした。



「グスタフ。お前まさか?」

「そのまさかだ。レベルが40になったから、これから剣聖にチャレンジする」

「剣聖にチャレンジってどういうこと?」

「最高位の役職は自動的になれるものじゃない。神の審査が入るんだ」

「そうだったんだ。てっきりレベル上げてればいいのかと思ってた」

「レベルが40で、大神官の祈りが神に届いたとき、その役職は与えられる。だから最高位は世間では希少なんだぞ」

「ふん。たとえ剣聖になろうとも、何度だって地べたを舐めさせてやる」



腕組みをしながら鼻を鳴らすエルザ。

でもそんな態度とは裏腹に、指先は忙しなく動いている。

たぶん、嬉しいんだろう。



「ていうことはさ、レインくんもやってもらうの?」

「僕が? どうしてさ」

「だってさ、今すんごいレベルな訳でしょ? じゃあ最高位とやらにチャレンジできるじゃない」



ミリィがとんでもない見解を露にした。

でも彼女の意見は筋が通っている。

神の審査なんか受けていない僕は、もしかしたら最高位じゃないのかもしれない。

もしそうだとしたら、これ以上の役職があるわけで、更なる変態の道が開いていることになる。


僕は祈りなんかするまいと、心に誓うのだった。

大神殿で考えるには不信心過ぎるとはかんじるけれど。



「大神官は大抵ここに居るぞ」



グスタフに連れられてやってきたのは、奥にある部屋だった。

ドアは随分とこじんまりとしていて、建物の雄大さからはかけ離れていた。


ーーコンコン。


グスタフのノックに、中から返事があった。



「入りたまえ」



とても威厳溢れる老人の声がした。

僕は緊張しつつ、部屋に足を踏み入れたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ