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平凡男子の無茶ブリ無双伝  作者: おもちさん
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第30話  一撃の価値

「グスタフ!」

「エルザッ」 


お互いに顔を見据えながら駆け寄っていく。

うーん、愛し合う2人の再会かぁ。

こういうのって本当に絵になるよね。

年単位で会ってないらしいから、ムードも最高潮だろう。


特に普段お兄ちゃん役の大男がはしゃいでるとさ、胸に込み上げるものがあるよ。

『放たれた矢のように』何て言葉があるけど、こんな時の為の言葉なのかもしれない。


ーードォオン!


グスタフは本当に嬉しくて仕方ないんだろう。

何せ飛び跳ねる余りに、逆方向へ吹き飛んで行くほどだからだ。

僕の体の脇を掠めて、勢いをそのままに岩へとめり込むだなんて。

うーん、このお茶目さん!

感情表現がちょっと激しすぎるぞ?


エルザという女性も喜びを全身で表している。

仁王立ちになり右こぶしを前に突き出している。

一風変わったガッツポーズでお出迎えだ!



「オリヴィエ、今の動き見えた?」

「いえ、恥ずかしながら全く」

「私もなのよね。無駄を極限まで削るとあんな風に見えるのかしら」

「並みの使い手ではなさそうですね。見事な正拳突きです」



……そうだね、これ庇いきれないよね!

わかってるよ、あの2人が出会い頭に殴りあいを始めたって事くらい!

でも婚約者同士が拳を交わす姿なんて、頭が受け入れを拒否するに決まってるじゃないか。



「フゥーーッ」



騒がしい僕たちを牽制するような、大きな息づかいが聞こえた。

エルザはしばらく残身を保っていたが、長い吐息の後にゆっくりと構えを解いた。



「グスタフ! その野蛮な姿はなんだ! まるで山賊か何かではないか!」



物凄く芯の通った声にこっちまで緊張してしまう。

見た目は羊飼い風の女性だけど、歴戦の勇者のような振る舞いだった。



「相変わらず形に拘る女だよ、お前はな」



ユラリとグスタフが起き上がる。

口許を嬉しそうに歪めているけど、僕には全く心境を理解してやれない。



「我らとならず者の違いとは、礼を知っているかどうかだ。今のお前は、どうだろうな?」



2人の距離がジリジリと縮まっていく。

果たし合いにしか見えないけど、一応婚約者同士なんだよね。



「まだレベル38だが、チャレンジさせてもらうぜ!」

「何度来ても同じことだ。地に平伏させてやる」

「行くぜオラぁぁああーッ!」

「死ねぇぇええーーッ!」



今死ねって言った!?

絶対口にしちゃいけない言葉が出てきたよ!

お互い残り一歩の距離で、同時に踏み込み、拳がすれ違い……。



「ガフッ……」

「未熟者め。しばらく眠っていろ」

「オレは諦めねぇ……ぞ」



グスタフは意識を手放したのか、そのまま地面に倒れこむ。

それを見るエルザの顔は、少しだけ寂しそうに見えた。

それから彼女は着衣を正してから、ようやく僕らのもとへやってきた。



「騒がしくてすまない。ゴップ村のエルザというものだ」

「う、うん。僕はレイン」

「オリヴィエです。エルザさんはお強いのですね」

「ミリィよ。その強さ、役職は拳聖とかかしら?」



漂っているこの緊張感は、初対面だからじゃない。

下手なことをしたら、2人目の気絶者を生み出しかねない恐怖心からだろう。



「いや、私は戦闘職じゃない。酪農家だ」

「酪農……ってそんなに強いの?」

「そんな訳無いじゃない。この人が特殊なのよ」

「私の知り合いにも酪農家さんはいらっしゃいますけど、ごく普通のおじさんですよ」



でもそれだと、グスタフを子供扱いできた事に説明がつかない。

彼は戦闘職の上に、場数を踏んだベテランでもある。

僕がエルザと同じようなことをしたら、100回挑戦してもグスタフに勝つことは出来ないだろう。



「ひょっとして、レベルが高いとか?」

「なるほどね。50超えてたり、いやもっとかな?」

「うむ。レベルかいくつなのか、私にはわからないんだ」

「わからんって……ステータス画面に表示されるよね?」



それは意外な返答だった。

本人が把握していないだなんて、ちょっと考えられない。

序盤の項目にデカデカと出るのに、わからんってのはどういう事だろう?



「論より証拠だ。見てみると良い」



そう言って、僕たちにステータスを見せてくれた。

その数秒後にはすっかり話を理解できてしまう。



「こんなのって、見たことある?」

「ある訳無いよ。これ何て読むの?!」



レベル-=-@>:■!

そう表示されていた。

もはや数値ですらない。

見たことも無い表示に、誰もが唖然としてしまった。



「これ、何て読むんでしょうね?」

「私にもわからん。気がついたらこうなっていた」

「昔からそうだったの?」

「そうだな。物心ついた頃から……だったろうか。よく覚えてはいないのだが」

「まぁ……ともかくよろしくね。エルザさん」

「こちらこそ。家畜の扱いなら任せてくれ」



エルザは胸を張って言った。

家畜の扱いよりも、もっぱら戦闘でお世話になりそうだ。

そしてこのタイミングでグスタフも目を覚ました。



「クソッ また失敗か! せめて剣聖になるまで待つべきだった!」

「修練が足りん。仮に剣聖だったとて結果は同じだ」

「ねぇ、2人とも。ちょっと聞いて良い?」



僕は間に割って質問した。

強烈な好奇心に堪えが利かなくなっている。

きっと皆も同じ疑問を抱いているはずだ。



「その殴り合いはなんのためにしてるの? 婚約者同士じゃないの?」

「そういや説明してなかったな。エルザを娶る条件が『一発はクリーンヒットさせる』だからだ」

「えぇ……?」

「弱い男など私はいらん。倒せないまでも、一撃を与えられるくらいでないとな」

「そう……」



愛の形はそれぞれだから、僕に口を出す権利なんかない。

でも、もう少しやり様はあると思う。



「レインさん」

「どうしたのオリヴィエ。急に改まって」

「ふつつか者ですが、よろしくお願いします」

「えっ! それは何の話?!」

「以前レインさんに一撃を見舞われました。それはもう見事なほどの」



あの時の急所突きの事を言っているんだろう。

そこまで思い出して彼女の意図に気づく。



「私は『急所に一撃を喰らわせたもの』を生涯の伴侶にしようと決めてました」

「初耳だよ! ていうか今の話を聞いて思い付いたでしょ?!」

「そんなことはありません。常日頃考えていました」

「そうなのか。2人はそんな間柄か。私の名に懸けて祝福をしよう」

「エルザさんも真に受けないで!」



こうして新たな仲間が1人増えた。

どんどん顔ぶれが混沌としていってるような気がするのは、たぶん正しい認識だろう。

果たしてこのメンバーでうまくやっていけるのか、その自信は今のところ無い。


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