表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平凡男子の無茶ブリ無双伝  作者: おもちさん
34/51

第29話  急所

教会を立ち去ってから今に至るまで、トントン拍子に話は進んだ。

ギルドはほとんど顔パス状態で登録ができ、商隊の護衛の仕事にもありつけた。

その仕事も実入りがよく、大陸をグルリと一緒に回るだけで5000ディナも貰えてしまう。

しかも食費や宿泊費も相手持ちなんだから、なんという高待遇なんだろう。

継続の仕事じゃなく単発の依頼だけど、それでも僕たちには十分なものだった。


今回の護衛の報酬を貰えたなら、手持ち金は5800ディナにも達する。

次にナダウの街に帰って来る日が楽しみだ。



「この旅の最中、オレは攻撃に参加しない。荷馬車を守る事に専念するから、迎撃は3人で対応してくれ」



仕事を請け負った時にグスタフが言った。

実際旅が始まると、本当にグスタフは攻撃に出なくなった。

かと言って荷馬車が標的になっているわけでもないので、今回の仕事を僕たちの実戦訓練と捉えているようだ。



「リーダー。先陣を任せているのに思い切りがよくない。守るか、先手を取るのか、瞬時に判断しないとダメだ」

「うーん。頭じゃわかってるんだけどねぇ」

「オリヴィエ。取り分け特殊な状態にならない限り、歌っていたほうが有益だ。補助魔法は状況を見て使ったほうがいいぞ」

「わかりました。まずは歌で参加するようにします」

「ミリィ。位置取りがまだ甘い。攻撃の瞬間だけでなく、常に射線を意識して動くべきだ」

「前衛職にはわからないと思うけど、すんごく難しいのよ? 敵も止まってはくれないしさ」

「まぁ……、後衛の難しい部分だろうな。だがそこをクリアできればグッと強くなれるぞ?」

「はぁ。わかったわ。天才美少女をなめんじゃないわよ」



グスタフは相変わらず的確なコメントをしてくれる。

シンプルで理にかなっているので、僕たちもスンナリと受け入れられる。

その結果動きが目に見えて良くなるのだから、その辺りは流石だと思う。


移動中に出現する敵の中には新顔があった。

オオゾラバチなんかが一番手こずった相手だ。

鋭い針で攻撃しつつ、こちらが反撃に出る頃には空高く飛んで行ってしまう。

ミリィが居なければ苦戦必須だったろう。

ライトニングという雷の魔法で多くを葬ることができた。



「魔法で倒すのはセオリーだが、敢えてリーダーに倒させてみてくれ」

「僕が? だって敵は空に逃げちゃうんだよ?」

「それでも攻撃は仕掛けてくる。その瞬間はこちらの手が届くんだ」



つまりは攻撃をかわしつつ当てろ、という事だ。

ずいぶんな高等技術に聞こえるけど、僕にできるんだろうか?

まぁ……とりあえず試してみるか。

怪我したらオリヴィエに治して貰えばいいんだし。



……なんて考えは甘かった。

何度試しても針を体に受けるばかりで一向に対処できなかった。

おかげであちこち穴だらけになってしまう。

ヒールで塞いでいるから、正確には穴の跡と言うべきか。



「リーダー。ポイントは間合いだ。敵よりもリーチが圧倒的に有利なのだから、こちらの方が先に当てられるハズだ」

「でもさぁ、あんなに早く動かれちゃったら難しいよ」

「動きを目で追う癖が出ているな。フェイントに惑わされず、攻撃の瞬間を見切る必要があるぞ」

「攻撃の瞬間……ねえ」

「お話のところ悪いけど、また出たわよ?」

「だとさ。じゃあ頑張ってこい!」

「うう……もう穴開けたくないよ」



オオゾラバチは前衛の僕を標的にしたようだ。

僕の目線の高さで滑空している。

何度も尻を浮かせているのはフェイントだ。

ここで攻撃をしてしまうと見事にかわされて、針を受けてしまう。

だからチャンスが訪れるまで手を出してはいけない。



「ここまでは分かるんだけどなぁ」



問題は敵の攻撃に合わせることだ。

視認できない動きに対応するには……。



「そうだ。次の動きを、読む!」



下腹部にツキンと痛みのようなものが走る。

フェイントの時と全く違う、闘気のようなものを僕は見逃さなかった。

大振りではなく、まっすぐ槍を突き出す。

それが見事に腹に刺さり、オオゾラバチはポトリと地面に落ちた。

初めての成功だった。



「やった! とうとう倒せたぞ!」

「おめでとうございます、レインさん」

「その調子だ。そのまま続けてみるんだ。何か技を覚えるかもしれんぞ?」

「技? そんなものがあるんだ」

「まぁ物は試しだ。しばらくハチを倒してみろ」



言われた通り、接近戦だけでハチを倒し続けた。

一度コツをつかむと難しい作業ではなくなる。

2回に一度くらいだった成功率も、今ではほぼ完璧なタイミングで迎撃できている。



「そろそろじゃないか? ステータス画面を見てみろ」

「どれどれ……。ほんとだ! 技らしいものが出てる!」



魔法の項目の下に「急所突き」の文字が見えた。

これが僕の初めての技になる。

初めて人に胸を張って言える技能なだけに、喜びもぐっと大きかった。



「レインさん、ちょっと試したい事があるんですが」

「うん。どうかしたの?」

「その急所突きを、私に向けてください」

「ええ!? 突然どうしたの?」



ここでオリヴィエがとんでもない事を口走った。

度々言動が怪しくなる事はあるけど、今回のは初めてのケースだった。



「もちろん武器は使わずに。手刀あたりが良いと思います」

「それは構わないけど……。危なくないかなぁ?」

「大丈夫です。何かあればヒールを使いますから」

「何を考えてるのか知らないけど、わかったよ」



僕は極力手の力を抜いて、オリヴィエの鳩尾みぞおちに手刀を突いた。

頼まれたこととは言え、女の子に攻撃をするというのは後味が最高に悪い。

怪我なんかしなきゃいいけどさ。


オリヴィエはというと、技を受けてからすっかり無言になってしまった。



「オリヴィエさん。やっぱり痛かった?」

「……ン」

「やっぱり無茶だったんだ。急いで回復を」

「ンフーー」

「……何その表情?」



オリヴィエは鼻で大きく息を吐いた。

顔を綻ばせ、片手を頬に当てている。

見間違いじゃなければ、恍惚とした表情というやつだろう。

……なんでだ?



「ちょっとオリヴィエ! その反応は、気持ちよかったんでしょ?!」

「ンフーー」

「レインくん! 私にもお願い、急所をいっぱい突いて! それはもう無遠慮に!」

「えええ?! 言い方! 言い方がなんか嫌だッ!」

「ンフーー」



せっかく体得した僕の技が。

ようやく戦闘職っぽい技を覚えたのに、また変態っぽさが付け加えられてしまった。

こうなったら次に覚える技に期待しよう……うん。



それから僕たちはそこそこにレベルを上げ、護衛の任務を終えた。

そして約束通り5000ディナが支払われた。

このお金で武器が買えると思うと、足取りも軽くなる。



「リーダー、ちょっと話があるんだが」



グスタフの顔が少しだけ緊張している。

手には手紙らしきものが握られていた。



「さっき手紙屋から返事を受け取ったんだ。エルザからの返事を」

「エルザさんって、婚約者だよね? 故郷に居るっていう」

「そうだ。そのエルザだが、故郷に居づらくなったらしい。王家の連中のせいでな」

「そうなんだ。ひょっとして調べ上げられたのかな?」


見た目が奇抜な僕らだ。

全員の顔と名前がバレてしまっている可能性は低くない。

グスタフの身元を割り出し、ゴップ村にたどり着くのも難しくなかったのかもしれない。



「だからこっちに呼び寄せたんだが、もうこの街に着いているらしい。それで、頼みたいんだが……」

「もしかして、僕たちの一行に加えて欲しいって話? それだったら構わないよ」

「……すまん。オレもエルザもこの大陸にはろくな伝手がないんだ」



グスタフは深々と頭を下げた。

普段の猛々しさからかけ離れた姿に、僕は戸惑ってしまった。

ここまで真剣になれるなんて、よっぽど好きなんだなぁと思う。



僕たちは街の入り口に移動した。

ここで待っていれば合流できるとの事だ。



「本当は最上級の役職に就くまでは、エルザに会わないつもりだったんだがなぁ」



グスタフがぼやいた。

ひょっとして、成功者になってからプロポーズでもするつもりだったんだろうか。

思いの外ロマンチストなんだなぁ。



「グスタフさん。あちらから1人の女性がやってきますけど」

「……間違いない。エルザだ」



オリヴィエの言う通り、皮袋を背負った女性がこちらに近づいてきた。

スラッとした長身の、質素な装いの人だ。

顔立ちはとても整っているけど、少し目付きが鋭いかな?



「これまで話にはよく聞きましたが、実際にお会いするのは初めてですね」

「そうだね。急な話だったけど、こうして会えて良かったと思うよ」



エルザも僕たちに気づいたのか、まっすぐこちらへと近づいてきた。

これから感動の再会になるんだろうか。

……などと、この時はボンヤリと考えていた。


それが大きな誤りであったことを、この直後に思い知ることとなる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ