表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平凡男子の無茶ブリ無双伝  作者: おもちさん
24/51

第20話  オリヴィエの祈り

僕の背後からも膝を折る音が聞こえた。

立ち位置から言ってグスタフのはずだが、まさか彼も毒牙にかかってしまったのだろうか。



「なんていう威力だ……不覚をとった!」

「アッハッハ、直視しなけりゃ平気だと思った? その答えはさー、言うまでもないよね?」

「クソッ、体が! 体が動かん!」

「戦士系は効果テキメンだねぇ。このチョロチョロ動いてた馬鹿といい、さぁッ!」



僕は杖の男に蹴り飛ばされた。

何一つ抵抗できず、地面に転がされてしまう。

意識はハッキリあると言うのに指一本動かすことも、声ひとつ上げることもできない。

まさに生き地獄という言葉がお似合いだ。



ーーなんとかしないと、このままじゃ殺されちゃう!



焦りながら頭を回転させたけど、名案は浮かんでこない。

それが一層焦りを助長する。


そんな僕の前に一歩踏み出す人物が現れた。

オリヴィエだ。

あろうことか悪漢を相手取り、真っ向から対峙している。



ーー逃げて、僕たちは自分の手でなんとか切り抜けるから!



一向に声は出てこない。

そして僕の祈りは、彼女に届くことはなかった。



「さすがに魔法職には効かないかー。でもアンタはただのヒーラーだ。何もできやしないよ。言っとくけど外傷じゃないからヒールは効かないからね」

「あなたはなぜ……人を見ようとしないのですか?」

「はぁ? 何言ってんだよ。たった今、オレはこの目で攻撃を……」

「違います。その事ではありません」



オリヴィエは戦う素振りを見せずに向き合っている。

ひょっとして説得でもする気なんだろうか。

そんな手段が通用する相手には見えないけれど……。



「あなたは街の人たちに認められたくて戻ってきた、違いますか?」

「……なんだと?」

「かつて失意の中でここを去ったあなたは、再度舞い戻ってきた。それは皆さんに受け入れて欲しいから。そうでしょう?」

「良く回る口だ。調子に乗ってると真っ先に殺しちゃうよ?」



辺りにジワリと殺意が広がる。

雲行きがかなり怪しい、このまま対話は失敗するだろう。

今からでも遅くはないから逃げてほしい。



「あなたは心を開いて相手と向き合うどころか、力で無理矢理に押さえつけています。そんな事では信頼を得ることなど……」

「うるせぇーッ!」



杖の男は逆の手に持っていたナイフを一閃させた。

それでオリヴィエの髪を切ったのか、彼女の足元にパラパラと金色の髪が落ちる。

だが、それに対して怯んだ様子は見せていない。



「勘違いするなよ。オレはコイツらを見返す為にきたんだ。凡人どもがオレの才能を認めねぇからさぁ!」

「あなたはかつて優秀だったそうですが、誰かの力になったことはありますか? 自分の為だけに才を振るえば衝突するのは当然です」

「自分の為に生きて何が悪いんだよッ!」



男はもう興奮状態だ。

迂闊に刺激すると危険だろう。

せめてオリヴィエとの間に割って入りたいが、自分の体はピクリとも動かない。

それはグスタフも同じようで、動き出す気配は今のところ無い。



「街の連中を見ろよ! 全員がテメェの事しか考えてねぇ! 行きずりのアンタらが戦っているのに、握り拳ひとつ作らねぇじゃねぇか!」

「彼らは心の在り方に迷っているだけです。ひとたび正気を取り戻せば、必ずや正しい答えに辿り着けます!」

「人間の本質は所詮動物と変わんねぇ、力の論理に支配されてんだよ! 耳に心地良い言葉で取り繕っちゃあいるが、強いヤツが奪って弱いヤツが奪われる! それがこの世の真理だろうが!」

「そんな事はありません!」



オリヴィエは叫ぶとともに、微かに光を帯び始めた。

優しげな青い光が彼女の全身を包み込んでいる。

君はいったい……何をしようとしているんだ?



「仲間外れにされた腹いせに、より強い力を振るうだなんて……子供の癇癪かんしゃくと一緒じゃないですか! そんな幼い発想しかできないあなたが世間を語らないでください!」

「なんだと?! テメェに何が……」

「あなたよりも深い絶望を味わい、窮地に立たされながらも、道を見失わずに懸命に生きている人もいるんです! 一度の挫折で悪の道に落ちるだなんて、恥ずかしくはありませんか?!」

「黙れ! それ以上騒ぐと……」

「私は信じます! 例え辛く苦しい世の中であったとしても……人は強く、清らかに、手を取り合いながら生きていけると。私は心から信じていますッ!」



高らかな声が辺りに響き渡った。

その叫びに応えるように、辺りに青い閃光がきらめく。

あまりの強い光に僕は目を閉じ、顔を手で覆う事でなんとか耐えた。



「あれ……体が動くぞ!?」



理屈はわからないけど助かった!

僕は薄目のまま短槍を拾い上げて、オリヴィエの前に立った。

隣にはグスタフも居る。


まばゆい光は程なくして止んだ。

視界が戻るのを期に、改めて迎撃体勢を整えた。

杖の男はというと、顔に驚愕の表情を張り付けている。



「お前ら、なぜ動ける!?」

「自分でもわかんないよ。でもこれでまた形勢逆転だ!」

「どうせ同じことだ! 今度は2度と目を醒ませない程に深く落としてやる!」

「リーダー、ヤツを止めるぞ!」

「うんッ!」



僕たちが駆け出そうとしたその時。


ーーガシャァン!


大きなガラス細工が空から降ってきて、杖の男の頭を直撃した。

そちらの方を見上げると、そこには窓から顔を出す老婆がいた。



「あんたたち! こんな子供たちに戦わせといて、自分らは眺めてるだけかい? 海の男が聞いて呆れるよ!」



窓からはコップや皿が次々に投下される。

さすがに2投目以降は当てる事が出来ていない。



「全く情けない話だよ、こんな年寄りの手まで煩わせてさぁ? ちゃんとタマついてんのかい!」

「バアさんやめろ! そんな事したら殺されちまうぞ!」

「こんな老いぼれの命なんざ惜しくないよッ。見てな、アタシがとっちめてやる!」

「ちくしょう、バアさんだけに良い格好させんな! オレたちもやるぞ!」



広場にいた何十人もの男たちが大いに暴れだした。

あまりの状況の変化に付いていけず、僕はボンヤリするばかり。

グスタフもオリヴィエも同じみたいで、小さな呻き声を漏らすばかりだ。

成り行きを見守っていると、街の人たちはあっという間に黒狼団の全員を縛り上げてしまった。


5人とも並んで地面に転がされた。

まだ意識のある杖の男は、不自由になった体を揺らしながら叫んだ。



「お前らはもう終わりだ! 何せ街の外にはオレの手下がワンサカ居るんだよ! 合図ひとつでここいらは火の海に……」

「だったらそいつらもブッ飛ばせばいいだろうがぁーッ!」

「行くぞ! 漁師の意地を見せてやるんだ!」



屈強な男たちが街の外へ駆け出していった。

数十人だったその数はみるみる膨れ上がり、数えきれない程になってしまう。

さっきまでの覇気の無さが嘘のようだ。



「これで良かった、のかな?」

「たぶん大丈夫だと思います……あっ」

「オリヴィエさん、大丈夫?!」



オリヴィエは地面にへたり込んでしまった。

緊張の糸でも切れてしまったんだろうか。

顔もいくらか青白くて調子が悪そうだ。



「すいません、安心したら足が……」

「オリヴィエ。オレたちは助かったが、アレは無茶だったぞ」

「そうですね。ですが、我慢できなくって」

「それはともかく、どこか休める場所に移動しようよ。立てないなら僕がおんぶするからさ」



僕はオリヴィエに手を伸ばした。

彼女は少しだけ震える手で掴み、僕に質問を投げ掛けた。



「おんぶと抱っこ、どっちがいいですか?」

「何それ。僕が選ぶの?」

「質問を変えますね。胸と太ももの感触、どちらを味わいたいですか?」

「なんて事を言うの。どっちもやり辛くなったじゃないか!」



この流れでそんな事は考えないよ。

言われるまで完全に意識の外だったもの。


僕は結局おんぶを選んだけど、違うからね?

『そうですか、胸派ですか』とか耳元で囁くのはやめてくれないかな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ