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平凡男子の無茶ブリ無双伝  作者: おもちさん
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第18話  以心伝心

再開するぞー(小声)

僕たちは牧師に奥へと案内された。

そこは応接間のようで、大きめのテーブルと何脚かの椅子が置かれている。

それらは古びてはいるが、品位や誇りが感じられ、『清貧』という言葉を思い起こさせる。


席に着くなり、目の前にコップが置かれた。


「大したもてなしは出来ませんが、こちらをどうぞ」


牧師は白湯を振る舞ってくれた。

僕たちは頭を下げつつ、フチが少しだけ欠けたコップに口をつける。

微かな気まずさを誤魔化すように、僕は小さく息を吹き掛けた。



「まずは、お礼を述べさせていただきます。リリィを気にかけてくださって、ありがとうございます」

「いえいえ、僕たちは通りすがりでして。……ええと」

「あぁ、申し遅れました。私はマークスという者です。ここで牧師をしております」



彼は静かに答えた。

微笑んではいるが、どこか曇りがある。

疲れているだけかもしれないけど、何か込み入った事情がありそうだ。



「失礼じゃなければ聞きたいんですけど……」

「お気遣いなく。私の知る限りでしたらお答えいたします」

「あの女の子、リリィが泣いている間、通行人は見て見ぬふりをしていました。あんなに幼い子が一人で泣いていたのに」

「そうでしたか。旅の方にお見せしてしまい、恥ずかしい限りです」

「僕はその様子が、とても異常に思えてしまったのです」

「なるほど……。結論から申し上げますと、余裕がないから。という答えとなります」



視線を落としてマークスは答えた。

記憶を辿っているのか、答えにくいだけなのか、そこまで読むことはできない。



「かつてこの街には、ずる賢い少年がいました。器用で頭の良い子だったのですが、性根までは宜しくなかった。悪目立ちをし続けた少年は方々で拒絶され、そして街を去ることになりました」



喉を湿らせたいのか、マークスは白湯をすすった。

その両目は何か深い色を帯びている。



「街を出た少年にその後何があったのか。経緯を知るものは居りません。ですが……より大きな人物となって戻ってきました。多数の荒くれ者を引き連れて」



両目に宿る色が、少しずつ深みを帯びていく。

それはもしかすると『後悔』なのかもしれない。


「彼らは自分達を『黒狼団』と呼び、街を事実上支配しました。初めは抵抗した私たちも、圧倒的な武力を前に降伏を余儀なくされました。その結果、我々は蓄えと尊厳を奪われていき、活力を失いました。あなたが抱いたという『異常』も、その一端と言えましょう」

「そうだったんですか。街はそんな状況下に……」



どうりで街に活気がないはずだ。

どことなく荒んだような空気なのも納得がいった。



「あなた方が心を痛める必要はありません。旅をされているのであれば、何かしらの使命をお持ちのはず。それを全うされるべきです」

「マークスさん、僕たちに何かお手伝いはできませんか?!」



僕はつい反射的に問いかけてしまった。

リリィという名の少女がそうさせたのかもしれない。

マークスは口よりも先に首の動きで答えた。



「その申し出は大変嬉しいのですが。あなた方に万が一の事があったとしたら、私は神になんと申し開きをすれば良いのでしょうか?」

「それは、その……」

「初対面にも関わらず、あなたはリリィの窮地を救ってくださいました。それだけで十分かと思いますよ。街の事は街のものがなんとかするでしょう」



それからも話は平行線となり、マークスはついに首を縦には振らなかった。

それから僕たちは、後ろ髪を引かれる思いで教会から立ち去った。

マークスとリリィに見送られながら。


しばらく歩いてから足が止まった。

心の警鐘がとうとう身体にまで及んだからだ。

このまま去るわけにはいかない。

こんな蛮行を許して良い訳がない。

僕の心はこれまでにないくらい、猛り狂っていた。



「オリヴィエさん、グスタフさんちょっといいかな?」



グスタフは力強く頷いた。

まるで『わかっている、何も言うな』とでも伝えるように。



「レインさん。以心伝心という言葉があります。今のあなたの心境は手に取るようにわかりますとも」

「ありがとう、オリヴィエさん……」



さすがに付き合いが長いだけに、彼女は全てを察してくれたらしい。

僕の心は途端に光が差したようになる。

以心伝心って、良い言葉だね。



「あなたは私にこう伝えたいはずです。僕たち正式にはお付き合いをしてないけど、ちょっとくらい味見しても良いだろう……」

「うん、ごめんね。考えを言葉にするのって大切な事だよね」



すぐに話し合いの場が持たれた。

街を救う提案に対して、2人は即答で応じてくれた。

なんとも頼もしい限りだ。


そして意思確認が終わった頃に、オリヴィエが少し遠慮げに話しかけてきた。



「あの、レインさん?」

「なんだい。何か気がかりでもあるのかな?」

「その……私はいつでも大丈夫ですから」

「それは人助けに関して、でいいんだよね?!」



オリヴィエは答えない。

優しげな微笑みを返しただけだ。

なんというか、掴み所のない子だ。

君は僕の良き理解者だけど、僕は君の事をちゃんと理解できてないよ?

少しくらいは難易度を下げて欲しいよ、まったくもう。

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