第10話 成長と変化
あれから街で装備を整えた僕たちは、王都への道を進んでいる。
現れる敵は強く、硬く、狡猾だったけど、グスタフの参加で大幅強化された僕たちは、苦戦しながらも歩を進めることができている。
それにしてもイスタの武器屋さん、喜んでたなぁ。
僕が「短槍をください」と言ったときの綻んだ顔はぐっとくるものがあった。
「若いヤツの成長は早ぇな」なんて言葉も凄く嬉しかったね。
ちなみにグスタフを見た武器屋さんは目を見開いて驚いてたな。
「バーサーカーかよ! それか途方もない変態か?!」なんてね。
その台詞はグサリとくるから遠慮して欲しい。
終いにはグスタフとカウンターで腕相撲をはじめた武器屋さん。
一進一退の攻防が長い間続き、固唾を飲んで見守っていたけど、結果はカウンターが壊れて引き分けっていうオチがついた。
二人とも満足げに大笑いしてたけど、お店大丈夫なのかな?
それなりにお金が貯まっていたから、色々新調できた。
僕は銅の短槍、スモールシールドを買った。
オリヴィエには魔法威力の上がる樫の杖、スタミナ補助をしてくれるネックレスだ。
装備が良くなると気も大きくなる。
槍の扱いがまだ下手くそだけど、自分が強くなれている実感があるから、日々頑張れた。
今はグスタフっていう先生がいるから心強いしね。
でもそんな僕たちに、喜ばしくない進展というか、変化があった。
オリヴィエだ。
またかよって気がしないでもない。
彼女の謎の接近方法はバリエーションが増えて、さらに加速度を増している。
グスタフのノロケ話を輸入して僕で試そうとしているらしい。
元ネタを知ってる僕からすると、タネの明かされた手品を見ている気分になるんだけど。
昨日なんかもご飯を食べていたときに、それは起きた。
スプーンに煮豆を盛ったオリヴィエが、僕に差し出しながら言った。
「はい、レインさん。あーんしてください」
「え、急になんなの?」
「照れないで、アーン。いつもしてるじゃないですか」
「いや、唐突だよ。さっき突然始まったよ」
「むう、手強いですね」
これはグスタフが初めて手料理を作って貰ったエピソードのやつだ。
だいぶ熱心に聞いてたもんね。
ついさっきの休憩中にもそれは起こった。
森の湖のほとりで体を休めていた時のこと。
木に背中を預けて座っていた僕に、彼女が近寄って来てこう言ったのだ。
「レインさん、ハグしましょう。ハグ」
「え、何。今度はどうしたの?」
「大丈夫です、変なアレじゃないんで。私たちは幼馴染みなんですし」
「待って、僕たちはまだ出会って一ヶ月しか経ってないよ」
「そこは、ホラ。ノリで」
「勢いで生い立ちを捏造とかやめようよ」
僕がそう返すと、オリヴィエは肩を落とした。
濡れそぼった子犬のような目を向けながら。
僕が苛めてるような雰囲気を出すのはやめて欲しいんだけど。
「あのさ、シスターって神様に貞操を預けてるんじゃないの?」
「そうですそうです。洗礼を受けた日に誓いました」
「じゃあオリヴィエのその態度は、偉い人から怒られるヤツだって」
「一人なら大丈夫です。妻帯されてる司祭様だって多いんですよ?」
「それを修行中の身の人が言うのはおかしいと思うよ」
オリヴィエはほんとブレないなぁ。
なんでここまで僕に固執するのかはわからないけど。
女神様と話せることって、そんなにアドバンテージがあるのかな?
こうして僕たちは、手強い敵を撃退しつつ、噛み合わない会話を重ねながら、王都へと向かった。




