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配役の理お断り  作者: ヤマト〆
代役
23/26

代役⑨

何やら父が怪しげな事をしている。


そう聞かされたのは、昇格試験が始まる一週間程前の事だ。


芹香が突然臆人の部屋を尋ね、開口一番そんな話をし出したのだ。


「怪しげな事って一体何なんだよ?」


臆人は麦茶を入れて机に二つ置いた。氷がカランと音を立てて水に溶けていく。


「そこまでは分からないんだけど、恐らくあれは復讐心から来てるのかな」


「復讐心? 一体何に対して?」


「そりゃ決まってるよ。リーダーに対してだよ?」


「お、俺にか!? 何で!?」


芹香の父__小林 昭人はヒーロー学の理論を担当している講師だ。


小林先生が臆人の事を嫌っているのは知っているし、臆人自身もあの先生の事に対して苦手意識がある。


だが、嫌われる事はあっても恨まれるような覚えは無い。皆無と言っていい。


というより、最近小林先生は特に臆人達に対して敵意を向けた目を向けても来なければ、話し掛けてくる様子もない。


あの職員室の騒動があって以来一度も絡んでいないのだ。


なのに復讐だ何だと言われても困るところだ。


「多分、私を盗られたと思ってるのかな?」


「は、はぁ!? 何だよそのお門違いも甚だしい勘違いは!」


「パパはね、私をとても溺愛してるの。もう変態的なくらい」


「父親を変態呼ばわりかよ……でも、何で盗られたからって復讐なんだよ。思考回路が飛んでやしないか?」


娘を盗られた父親の心境など臆人には全くもって分からないが、とてもショックな出来事だったのだろう。


だがしかし、それで臆人に復讐をするいうのは全くもってぶっ飛んでいる。


「私もそう思うけどね、パパの机の上にコルクボードがあるんだけど、そこにリーダーの写真が貼ってあって、五寸釘で滅多打ちにされてたから」


「いや怖えな! ていうかマジでやる人いるんだなそれ!」


「本当私も見た時おったまげちゃった」


「おったまげたって死語だぞそれ。つうか何であの先生は娘を盗られたなんて勘違いしてんだよ?」


「そりゃ勿論私が自由ヒーロー党に入ったのを世間に豪語しちゃったからだよリーダー」


臆人が冬香理事長と対峙したあの日、学校にあるポスターが貼り出された。


それは自由ヒーロー党のメンバーの写真を集めたポスターである。


それを貼り出した時は学校中が大騒ぎになったのだが、まあそれは臆人にとっては予想通りだったので動じなかったが、まさかそんな勘違いをされるとは思ってもみなかった。


「あのポスターを貼り出した夜、私パパに聞かれたの。脅されてるんじゃないかとか、弱味を握られてるんじゃないかとかね」


「なるほど。娘を溺愛する父親が考えそうなこった」


要は芹香が自由ヒーロー党に入った事を小林先生は認めることが出来なかったのかもしれない。


だからこそ照準が臆人へ__自由ヒーロー党のリーダに移った訳だ。


「パパはその日から何か様子がおかしくなったの。書斎にずっと引き篭もるようになって、何かをひたすらに研究し始めた。元から研究熱心だったけど、あれは常軌を逸してる。怖いくらいにね」


「だから気を付けろって事か?」


「そう。多分近いうちにパパは何か大きな事をしでかすかもしれない。だからリーダー、用心しておいてね」


この話は、確かに怖いかと思ったが、臆人にはそれ以外にも沢山考えるべき事があった為、頭の片隅に追いやられていた。


けれどこの昇格試験が始まり、あの少年少女に出会い病院に向かう途中、臆人はふとその事を思い出したのだ。


もしかするとこれは、それと関係が有るのかもしれない。


「おいチキン! どうした?」


するとふと横にいた右凶に声を掛けられてふと我に返った。


「いや、何でもない。それより、今何が起こってるんだ?」


すると右凶は一瞬何かを躊躇った後、真面目な表情を見せた。こういう時の右凶の報せに良い事は無い。


「どうやら三つの最果てで大型の魔物が出現したらしい」


「ま、魔物!? それってあの……!?」


「あぁ。戦乱期に滅ぼされたと言われてる謎の生命体。それが今、この世界に現れた」


臆人は言葉を失った。


魔物とは、全くもって謎が解明されていない未知の生命体だ。姿形は様々で、確認されてるだけで万を超える程の種類が存在している。


そしてこの魔物は、人を喰らう。けれど、人以外も喰う。要は雑食だ。


しかもこの魔物には満腹中枢というものが存在していないらしく、あるならあるだけ喰うらしい。


中には食べ過ぎて腹を破裂させて死んだ魔物もいるという事だった。


「何でそんなのがこの世界に……魔物は全部滅ぼされたんじゃねえのか?」


「少し違う。確かにこの世界から魔物は姿を消した。だがな、見なくなっただけで存在はしてるんだ。要は封印された魔物も存在してるって事だ」


「な、なら今現れた三体の魔物って……」


「恐らく最果てに封印されてた魔物を解き放ったんだろうな。ったく、狂ってるよそいつ」


狂ってる。臆人はその時芹香があの時最後に言った言葉を思い出した。


「パパね、狂ってるの。だから出来れば助けてあげて欲しい。お願いね、リーダー」


その言葉を思い出した途端、臆人の胸がドクンドクンと早く脈打った。


いつの間にか握り締めていた手には汗がべったりと張り付いていた。


「病院に着きましたよ臆人さん! さぁ早くちーちゃんを!」


「……分かった」


臆人は一度深呼吸をした。悩んでいても仕方ない。行動あるのみだ。


拭いきれないモヤモヤを抱えたまま、臆人達は病院に入り、ちーちゃんを無事魔力隔離施設に入院させる事に成功した。


病室は立ち入り禁止。あーくん、そしてぼーちゃんは寂しそうに病室の待合室の席に座った。


「大丈夫かなちーちゃん……」


あーくんは未だ心配なのか、拝むように手を合わせてちーちゃんの事を気にかけていた。


「なら、目が覚めた時に直ぐに会えるように、お前達はここで待っとけ。つうか、絶対に病院から出るなよ? 分かったか?」


「……うん」


二人は項垂れながらもコクリと頷いた。


「取り敢えず俺達はもうここを出る。後は任せたぞ」


臆人はあーくんの頭をくしゃくしゃに撫でた。


「ねぇヒーロー? 僕に出来ることはない?」


「ぼ、僕も……!」


二人は泣きそうな顔で臆人を見た。


「あるさ。お前等にしか出来ないこと」


「え?」


臆人は二人の手を手に取った。まだ小さく綺麗な手をしている。


「ちーちゃんが起きた時、手を握ってやれ。それがお前達二人に出来る事だ」


そう言うと、二人は自身の手を不思議そうに見つめた。そしてそれを強く握り締める。


「うん。分かった!」


二人は強く頷いた。臆人もその光景にニコリと微笑む。


その瞬間だった。


ウゥーという独特の腹に来るサイレン音が病院内に響き渡ったのは。


「え、何!?」


けたたましいサイレンは二人の声を掻き消すかのように鳴り響く。


「……いいか。お前達は絶対にここから出るなよ。分かったか?」


「行っちゃうの?」


「あぁ。何せ俺はヒーローだからな」


もう一度彼等の頭をくしゃくしゃに撫で回すと、臆人の視線はチームメイトへと向けられた。


「行こう」


その声と共に走り出した四人を見送る小さな少年の目には、彼等はどう映ったのか。


格好良く映ってればそれでいい。臆人はそう思った。


病院から四人が出た時、外も夏の蝉のようにあちこちで警報がうるさく鳴いていた。


そして一般人は逃げ惑うようにひっちゃかめっちゃかになっている。


「大騒ぎになってますね……どうするんですか臆人さん? あんな格好良い事言ってましたけど?」


「本当、格好付けるのにも程があるわ」


「チキンの癖にな?」


「うるせぇ! しょうがねぇだろうが!」


確かに格好付けすぎたような気もするが、ヒーローなんてあんなもんである。


その時、ピピッという電子音が鳴り響いた。


「何だ今の?」


その音は携帯の着信音ではない。だが、臆人の体のどこかからその音は鳴り響いている。


「おいチキン。そのバッジじゃねぇか?」


「は? バッジ?」


臆人は襟に付けていたバッジを取り外してみると、そのバッジの中が赤く光っているのが見えた。


臆人は取り敢えずバッジの表面を弄ってみると、カチッとスイッチを入れる時の電子音が鳴り響いた。


「此方勇泉高校のオペレーターです。応答したのは金条 臆人さんで大丈夫ですか?」


「え……あ、はい」


突然の出来事に呆気に取られて上手く返事が出来なかったが、そのオペレーターは全く気にも止めなかった。


「今、このサウスの最果てより三体の魔物がこの中心部に向けて動いてるのが確認されてます。昇格試験は一時中断、生徒は安全確保の為に至急学校の方へお戻り下さい」


「……学校へ戻ったらどうするんですか?」


「? そうですね。恐らくこの事態が収まるまでは学校を閉鎖し、生徒は安全確認が取れるまで外へ出る事を__」


「分かりました。では冬香理事長にお伝え下さい。俺は戻る気は有りません。ヒーローとして、やるべき事をやります」


「え? ちょっと待って下さい! 貴方一人に何が出来ると言うんですか? 貴方はまだ学生です。それを考えて__」


そこでその音声はぷつりと切れた。そして、パキンという破砕音が高らかに鳴り響いた。


「……てな訳で、行こうか?」


「……これで退学になったら臆人さんに養って貰いますね」


「どこまでもついていくなんて言わなければ良かったわ」


「俺はもうこうなりゃどうにでもなれだな」


「あはははは……」


もう臆人でさえも笑い飛ばすしかない。それでも三人の目に迷いは無かった。


それだけで臆人は前を向ける。


「おい臆人!」


その時、いきなり名前を呼ばれて臆人はビクッと肩を震わせる。


臆人は何事かと声の先を見ると、そこには龍王がチームを引き連れて此方に向かって来ていた。


「おぉ龍王か。偶然だな」


「そんな事言ってる場合か? 聞いただろあの連絡。学校に戻るのか?」


「あ、いや……」


臆人はこの時ある危惧があった。


それは龍王がこの昇格試験で臆人が卒業出来なければ退学だという事を知ってるからだ。


勿論昇格試験で卒業出来なければ退学なのは龍王も同じなのだが、もしここで龍王は学校に戻ると判断し、臆人はここに残るという判断をすれば揉めてしまうのではないかという事だった。


仮にこれで口論に発展して三人にバレてしまったら大変な事になる。


だがそんな危惧は余計だった。


「俺は断ってきた。というか、途中でバッジを斬り捨てた。あんな生温い言葉なんて聞きたくない」


その瞬間、臆人は自分で自分を殴りつけたくなった。


どうして今龍王を信じてやれなかったのか。そんな自分が酷く情けない。


「何だ? 驚いたか?」


「いや……別に」


「あ、リーダー!」


すると今度は今にも飛び跳ねそうな天真爛漫な声が聞こえてきた。


「うお、芹香!?」


「どしたのリーダー? 幽霊でも見るかのような顔して?」


芹香も同じくチームを引き連れていた。だが、そのチームメイトの顔色は悪い。


「お、おい芹香……あの話聞いてたか?」


「あ、各ヒーローに伝えられた伝言のこと? 聞いてたけど、途中で私が投げ捨てちゃった!」


「そんな事していいのかよ!? 退学になるかもしれないんだぞ!?」


「退学は嫌だけど……ほら、この騒ぎもしかしたら……」


芹香は寂しそうにそう言った。そこで芹香も臆人同様この騒ぎにあの小林先生が一枚噛んでると思っているのだと気付いた。


確かにその可能性は充分ある。


「でも、その為にチームメイト引き連れて良いのかよ?」


「いいのよ。だって」


視線を芹香のチームメイトに向けると、彼等は何かを話し合っていた。


「良いか。芹香様は絶対にお守りするぞ!」


「「おお!」」


「……なるほどな」


臆人は薄ら笑いを浮かべながら、集まった生徒達を見渡した。


「あはは……何か殆どの自由ヒーロー党のメンバーが集まっちまったな」


何の因果でこうなったのか。運命とは不思議なものだ。


「最後の自由ヒーロー党の大勝負って訳だ」




***




一つの村が燃えている。その村はとても小さく、貧しい暮らしをしていたらしい。


そんな村は、まるで怒りを露わにするかのように燃え盛っていた。彼はそんな村をもう何時間も見ていた。


美しいと思った。もう胸がはち切れそうで思わず体を悶絶させた。


ある文献で読んだ事がある。


人は心を昇華させることがあると。


ヒーローを演じていた唯の人間が、本当に動いてる列車を止める事があるらしい。


ヒールを演じていた心優しい人間が、ある時突如人殺しの殺人犯になるらしい。


人の心は移り変わる。それはこの出来事で証明されている。


そして彼もまた、昇華した一人なのかもしれない。


唯の教師が、燃え盛る可憐な炎に恋い焦がれる程に悶えてしまうなんて。


「あぁ美しい」


それは命が燃えているようにも見えた。それを考えただけで顔の緩みは止まらない。


この小さな村が燃えただけでここまで快楽が得られるならば、中心部の街を燃えさせたら、自分はいったいどうなってしまうだろう。


あぁ狂ってるなと、彼はふと思う。


もしかしたら娘も燃え盛る火炎の燃料になってしまうかもしれない。


けれど、それはそれで美しい最後だと彼は思った。


この可憐で美しい炎に包まれて死ぬのなら、娘は本望だろう。


だが、あの男だけは燃えるだけでは許されない。


燃えるよりも重い罰を下さなければならない。


彼の頭はその事に支配された。


まだ村は燃えていた。






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