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配役の理お断り  作者: ヤマト〆
プロローグ
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プロローグ

この世界は正方形で出来ている。


この世界に名前は無い。強いて言うならば、”世界”こそが名前である。勿論、世界の中には名前の付いた国や街や村等が至る所に点在している。


そしてこの国は主に四つの国に分かれている。この四つの国はある境界線で分かれており、明確に簡潔に、平等に統一されている。


ここで一つ、この正方形の頂点から交差するように線を引く。すると丁度四つの三角形が均等に存在しているのが分かるだろうか。


これら東西南北に位置されたひし形の世界が一つの国であり、それらの名前は順に、イースト、ウェスト、サウス、ノースである。


これがこの世界の縮図だ。


そして、この世界はある三つの時代を乗り越えて成り立った世界だと言われている。


一つは創世期。


これはこの世界そのものが造られた時代だ。一応、この世界は神が創ったもの__七日間なのかは定かではない__とされている。ここで人間や魔物、植物や水、空気__そして魔法が生み出された。


二つ目は戦乱期。


これはなまじ頭脳を持った人間が、欲求に突き動かされて互いに争い合う時代だ。領地を広げたい、美味いものが食べたい、自由に生きたい。そういう欲求の為だけに人を欺き、殺し、奪い取る。


謂わば簡単に戦争が起きていた時代だった。


そして最後に停滞期。


これは戦乱期を乗り越えて生き残った人間達が再び考え、ある条約と共にある程度の欲求を満たしても良い__いわゆる譲歩という考えの下、戦争は終戦していく。


そしてこの時、魔物の討伐作戦も決行され、魔物はこの世界から排除された。


この三つの時代__創世期と戦乱期の間にも長い停滞期は存在したが、何かが起こった訳ではない(強いて言うなら人間が賢くなった)__を経て、今現在は停滞期とも戦乱期とも言えない平和な時期に突入している。


これを平成期と呼んでいる。平和に成り立っているという意味だ。


この世界は安寧を手に入れた。いや、安寧を手に入れてしまったと言った方が正しい。


人間は度を越えて悪さをしなくなり、魔物はこの世から消え、食糧不足には悩まされず、どの家庭に生まれても一定の生存権を得れる__そんな世界がここに誕生したのだ。


ではこれから、この世界は何を目標に創られていくのか。何をするためにこの世界は存在しているのか。世界はどう変遷していくのか。このまま生温い世界に入り浸るのか。はたまた煮え湯のような苛烈な世界に逆戻りするのか。


この答えは、"何もしない"だ。人間は何もしなかった。


人間は肥え、数をどんどん増やし、技術をどんどん高めて、動かない世界を創り上げた。


それはある種の理想だ。何をしなくても何か出来ていると錯覚するこの世界は、ある意味理想郷そのものだ。


だが、その為に人は狂い始めた。ネットワークという物が広がり、何処にいても人と関われるようになった。


結果として、人々は刺激を求めるようになった。曲がりくねった感情を、薄っぺらい文字に載せて世界に発信するようになった。


堂々巡り。屈折した文字はやがて、弧を描くようにして自分に戻って来るのだから。


だから世界はヒーローとヒールを生み出した。


ヒーローとヒールを生み出す事で、世界は恐怖と救いを手に入れた。


ヒーローはある時、少年を守る盾となり、そして剣となる。


ヒールはある時、物を盗む盗人になり、女を襲う強姦魔になる。


ヒーローはまたある時、飛んでった風船を取る優しい人となり、ヒールを成敗する正義の味方になる。


ヒールはまたある時、人を殺す悪人となり、ヒーローに殺された死人となる。


世界は刺激を手に入れた。人々は発狂した。


全ては世界の歯車を噛み合わせる為__つまらない世界に刺激を与える為のソースでしか無かった筈なのに。


ヒーローとヒールの育成はとても簡単な事だった。


何故なら、戦乱期があったからだ。


人は戦い方を知っていた。直に戦っていなくても、体は覚えていたのだ。


更に、ヒーローを際立てる為に、ヒロインやお供となる仲間達まで育成を始めた。


ヒールはボス、幹部、手下などとピラミッド型のような縦社会へと変貌した。


こうして着実にヒーロー対ヒールの抗争は造られていった。


偽装結婚ならぬ偽装抗争の誕生である。


世界はこれを全面的に肯定し、人々はそれを鵜呑みにした。それが正しいのだと納得した。


何せ、世界に正しい方針など無いのだから。


異議を唱える者はいなかった。ただ、受け入れた。


そして彼等は__熱狂した。


要はスポーツ観戦と同じ理屈だ。必死に戦うヒーロー、はたまたヒールを応援し始めた。


そして遂に、ヒーローやヒールは職業となった。お金が貰えるようになったのだ。


勿論、戦うヒーローやヒールに対し、国から補助金は存在したが、微々たるものだった。


だから最初はヒーローやヒールは定着しなかった。


けれど、人々の熱烈な支持を受け、それは公務員という形で職業となった。


これを世間では"配役"と呼ぶ。


そして、配役という職業は爆発的に増え始めた。


右肩上がり__滑り台も驚いて滑ってしまう程だ。


こうして世間に配役という職業は定着し、現代では、配役を育成する学校が存在している。


そして、今から始まる物語は、その学校に入学する一人の少年の物語である。





***





これは全て前置きである。


はっきり言えば、今出て来た言葉の数々は忘れてしまって一向に構わない。


忘れた所で困りはしないし、こんな凝った世界概要なんかスクロールで飛ばしてしまえばいい(今更である)。


基本的にファンタジーは設定が大事である。


何故なら"そこに無いもの"を扱うからだ。


例えて言うならば、魔法が一番分かりやすい。


魔法はこの日本という国には存在しないものだ。


だからこそ読み手にとってはワクワクするものがある。


魔法の強さに段階を付けたり、経典が無ければ発動しなかったり、詠唱が必要だったり、魔法陣を描かなきゃいけなかったりと、その表現方法は様々だ。


そして、様々だからこそちゃんと作り込まなければならないのだ。


異世界にしたってそうである。世界そのものを作らなければならないのだから、結構手がかかる。


そして、余計に難しく考える。


国の名前を、アルカディアだったりニルヴァーナだったりと横文字にしてみたり、国の形を細部まで考えたりと、試行錯誤している。


だが、本当にそれは必要だろうか。


そんな横文字の名前なんて本当に読者が読みたい事柄なんだろうか。


それとも、この名前には深い意味が__とか言いたいのだろうか。


読者としてはきっとそれはどうでもいい事だ。


それでも考え抜きたいと思う人は、それが美学なのだと思うし、それはそれで尊敬に値する。


だが、そこに気を取られ過ぎて物語が書けないのでは本末転倒だ。


世界は正方形でも良いのだし、ただの円でも何の問題もない。


世界はもっと気楽に創られても良い筈だ。


神様が七日で本物を作ったのなら、偽物なんて七秒で創ればいい。


作者はこれに気付くのに七年掛かったが、そんな事はどうでもいい。


仮に、七秒使って横文字になったのなら、堂々と横文字を使っても良い。


小説なんて好きなように書けば良いのだから。


けれど、異世界転生系の入りはどれも似通ったものばかりに見えて味気無い。


まあ、だからと言って斬新な物が書けるかと言われれば、またそれは別の話だ。


それに、斬新だからと言って人が見てくれる訳でも無いし、一般的だからと言って見てくれない訳じゃない。


そこの境界線は曖昧だ。


いや、曖昧だからこそ良いのかもしれない。


前置きからの前置きという変な構造になってしまったので、ここでこの前置きを書いた意味をここに記すとしよう。


言っておくが、この文の下りからは想像出来はしないだろう。


なんたって有り得ない位に関係の無い言葉だからだ。


そう__有り得ない。




この小説を読まないなんて有り得ない。


この小説はそういう物語だ。


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