俺より上の高ランカー
一定の距離を保ちながら、俺は金髪JKの背後を歩く。
バレてしまわないかという不安な気持ちと、ハラハラゾクゾクとが相まって不思議な高揚感が生まれる。
「きっとストーカーって奴らはこんな気分であんな犯罪まがいな行動をしているに違いない。バレないか紙一重の緊張感がスリリングでつい癖になりそうだ」
口ではそう言ったがもちろん冗談だ。
俺がそんな最低男なわけないだろ?
『そうですね、これから先の人生そうやって何人もの女性に心の傷を負わせて興奮して生きて行くようなクズ男…それが貴方ですものね』
「冗談だよ、まるでそれが真実だとでも言わんがばかりに断言するな。第一引きこもりニートの俺は外に出る事もないのだからストーカーする事なんてあるわけないだろ!!」
『…自分で言ってて悲しくありません?』
「…………若干」
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キャアアァァァァ!!!!
大気を切り裂く全力の悲鳴が草原に響き渡った。
驚き急いでJKの方へ視線を戻すと…
俺とスマホさんが他愛ない会話をしてJKから数秒ほど目を離している間に、JKを取り巻く周りの状況は一変していた。
まるで計ったかのようなタイミングで、
JKを囲むようにして地中から次から次へと陸大蛙が出現したのだ。
現在進行形で蛙の数は増え続け、その数は目測で20体以上にまでなっている。
「何だよあの状況、ここぞとばかりに溢れ出てきたぞ!?」
『確かに凄い数ですね。おそらくここいら一帯にいた全ての蛙があそこに集まっているのでしょう。ということは」
「解説はいい!! あの数を1人で相手取るのは無理だ、助けに行くぞ」
ランキング8位の俺だからこそ倒せたものの、低ランカーの奴らが倒せる見込みはない。
一刻も早く助太刀せねばと、スマホの解説に割って入り、JKの元へと走る。
『待ってください!! あの女性を助ける必要はありません!!』
先ほど散々命が何たるかを教えてやったのに、こいつは全く理解していないらしい。
怒り、またはそれに類似するような感情で頭に血がのぼっていくのが自分でもわかった。
「お前はまたそんな事を!!」
『命が大事だというのはとても勉強になりました。だからこそ、今あの女性に近づくのは危険です。巻き込まれて…“殺されちゃいますよ”』
沸騰した俺の感情がスマホの言葉によって一瞬で冷やされた。
あの子ではなく、俺が…死ぬ?
頭の中で?が増幅して考えが複雑化する最中、スマホは次のように続けた。
『多くのモンスターは獲物の存在を魔力で察知しています。 それはつまり、対象となる獲物の魔力が強ければ強いほどモンスターは鋭敏な反応を示すという事』
「………………」
『陸大蛙もまた魔力によって獲物を探知しているモンスターです。だからこそ魔力の強いあなたに対して多くの蛙が鋭敏に反応した地中から襲ってきたのです。ですが今、ここいら一帯の蛙はあなたには目もくれずあの女性の周りに集まっています。ここまで説明すれば、その矮小な脳みそでも理解出来ますよね?』
確かに、ここまで言われればいくら俺の脳みそが矮小だといってもさすがに理解出来た。
「あの子は俺よりも強い魔力の持ち主で、さらに、蛙たちが俺に目もくれずあの子に集まっているという事は…………」
『あの女性の魔力は…リセマラランキング8位であるあなたの魔力を“遥か”に上回っているという事です』
10万人という巨大規模の内、リセマラランキング8位である俺より上に座すプレイヤーは僅かに7人。
確立で言い表すと1万人あたりに1人か2人しかいない。
そんな極小な確率である高ランカーのプレイヤーが、まさか目の前にいるだなんて…
そしてそれが、俺が異世界で出会った最初のプレイヤーだなんて…
「全く…運が悪い事この上ないな。ここはお前の言う通り、身を潜めている方が良さそうだ」
『賢明な判断です。私は見た目の特徴と戦闘のデータからあの女性が誰なのか検索します。幸い、高ランカーなので探し出すのに時間はかからないでしょう』