寂れた協会
雪降る白く寒い冬の町。
その町の中心にある、立派な教会のシンボル、大きな金色の鐘の音が町にこだまし、午後の五時と伝えていた。
その教会には祈りを捧げる為に訪れる人が出たり入ったりと絶え間なく続いている。
辺りは山や、川、丘に囲まれた比較的にのどかな町だ。
そんなとき、夕方だと言うのに一人の女性が丘に登っていた。
寒そうに体を縮めながら、首にオレンジのマフラーをして、手に息を吹き掛けながらある場所を目指していた。
丘を登りきったそこには目的としていた酷く寂れた小さな教会があった。
彼女は一礼すると中に入り冷えきった床に膝をつき、祈りを始めた。
扉を開けただけでも釘が錆びて、擦れる音がする、古くさい教会で彼女は必死に祈りを捧げた。
その後彼女は手に持っていたバケットの中にある果物を十字架の元へ置き、その隣にある少女が昨日置いていった果物に目をした。
そこには何か動物の噛み後があり。ため息を吐くとそれをバケットに入れて、一礼して戻っていく。
彼女はこれを毎日欠かさずしていた。
雨の日も風の日も、嵐の日でさえ彼女は来ないことは無かった。
そして、そんな彼女を密かに見つめている影がいた。
次の日昨日の雪降りとは打って代わり今度は物凄い雨の日だった。
それでも彼女はマフラーを着けて、傘をさしながらやってきた。
彼女は教会に入る前に濡れたスカートをハンカチで軽く拭き取り中へと入っていった。
そして、また祈りを捧げる。
そんなとき、彼女の耳に微かな音が聞こえた。
ピチョン、ピチョン。
水の滴る音だ。
「?」
音のする方を見るが誰もいない。
古い教会だ、雨漏りをしてもおかしくは無いだろう、そう考えたのか、彼女はまた祈りを始めた。
ピチョン、ピチョン。
「?」
水の音と混ざって足音も聞こえる。
彼女は周りを見回すと、入り口に人影が見えた、するとそれは中へと入ってきた。
「やぁ、僕もお祈りしても良い?」
「?」
中へ入ってきたのは茶髪の好青年だった。
「はい、どうぞ」
彼女は一礼するとにこりと微笑み、隣を譲る。
「ありがとう」
青年も膝をつき、二人で御祈りを捧げた、その後も雨は先程よりも激しく降り出しており、少し弱まるまで教会で雨宿りをすることにした。
「雨ひどいですね……これじゃ傘をさしても濡れちゃいます……」
「うーん、予報だと夕方から弱まるって言ってたけど」
二人で心配そうに空を見上げながら話していると急に彼女がクスクスと笑いだした。
「フフ、でもこんなに雨が降っていても何だか嬉しいです」
「? 何で?」
そんな彼女を不思議そうに見つめる彼に、彼女は優しく微笑みながら答えた。
「だって、この教会に祈りを捧げに来る人が私以外にいたんですもの、とっても嬉しいです、私はアローゼ、あなたは?」
その質問に彼は少し驚いた顔を見せて、返事が帰ってこない事を気にしたアローゼは首を傾ると何かに気付き、頭を下げて謝った。
「ご、ごめんなさい、馴れ馴れしかったですよね、嫌な気持ちにさせたらすみません」
「い、いや、そんなこと無いよ、僕の名前は……」
「?」
彼は握りこぶしを作り、一呼吸置くと優しい表情に戻り名乗った
「僕はアンジェロ、僕もよくここに来るんだ」
「アンジェロ……良い名前ね、天使なんて」
「そうかなぁ、でも、女の子っぽくてあまり好きじゃないな」
「嫌なの? 自分の名前に自信を持たなきゃ」
アンジェロはそういわれて照れ笑いをしながら、アローゼを見ると、アローゼが興味深そうに身を乗り出して聞いてきた。
「ねぇ、アンジェロはなんでこの教会に来たの?」
「え、……うーん」
少し悩みながらもアンジェロは教会の扉の脇を見つめる。
「ここは大切な場所なんだ」
「大切な?」
「うん、ここは子供の頃友達とよく遊んだんだよ」
「へぇ~、男の子?」
「女の子だよ」
「へぇ~、女の子かぁ……ふふん」
アローゼは何を企んだのか、アンジェロに、一歩近より顔をこれでもかと近づける。
「……さては……アンジェロはその子の事が好きなの?」
「え、えぇ!?」
いきなりの大胆な質問に驚く反面顔を赤らめて照れているようだ。
「……す、好き?……う、うん……」
アローゼは、なかなか言葉に出ない答えを待ち構えていると、アンジェロはいきなり真面目な表情に戻り、アローゼに向き直る。
「好きだよ! 」
そのたくましさに少し圧倒されるが、正気に戻り、少し笑いが出た。
「ぷ、フフフ♪ アンジェロったら真面目になっちゃって、そんなに私に真面目にならなくてもいいのに♪」
「あ、そ、そうだよね……ハハハ」
アンジェロはそういうと笑いながらアローゼの方をみる。
「アローゼは何でここに来てるの?」
だが質問をされるが、なかなか答えられずその場で悩み始めるアローゼをみて、不思議そうに答えが出るのを待っていると、パチン! と両手を合わせた。
「私はね、私の神様に会いに来ているのよ」
その言葉にアンジェロは驚いていた。
アローゼはにこりと笑った、その笑顔は雨が降っていることを忘れさせてくれるような笑顔だった。
「アローゼの神様?」
「ええ、そうよ私の神様……」
そうよと良いながら祈りの格好をして、話始める。
「私ね、小さい頃の事はよく覚えてないけど、一番印象的だった事があるの、それがね、おばあちゃんが言ってた神様のお話なんだ」
「神様の? それってエイーダ……」
「? なんでおばあちゃんの名前知ってるの?」
アンジェロはしまったと言う顔をしながら慌てて言い換えた。
「あ、い、いや、町で何回か話したことがあってさ、そ、それで?」
「そうなの?! そのエイーダおばさんがね、自分の神様を信じればきっと良いことが起きるんだって、でも、私の神様ってどこにいるのかわからないから、そんなときにねここの教会に何だか来ないとっていうか、うーん、何と言ったら良いのか、何だか私の神様はここにいるって感じがしたから、毎日礼拝に来ているのよ」
「そうなんだ、不思議だね、でもその考えも強ち合ってるかもね」
アンジェロがそう言うとアローゼはありがとうと良いながらニコニコとしていた。
「ねぇ、私明日も同じ時間に礼拝に来るんだけれどアンジェロも一緒にしようよ」
「うん、良いよ」
そんな約束をしてるといつの間にかあんなに曇っていた空の隙間から少し太陽の光が差してきていた、先程までの煩く鳴っていた雨の音もしなくなり、アローゼは傘を持って帰っていった。
アンジェロはたった一人になった教会の扉の脇をもう一度見てみる。
それを見つめて寂しそうな表情を見せながら、そこをあとにした