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ねえ、なんで、それってどういうことなの

 ルッツに新しくウィッグを調髪してもらったのを被ると、リタは恨めしそうにこちらを見ていた。しかしこちらも髪に煩わされるつもりはない。


「もったいない。ああ、もったいないなぁ」

「リタの方こそもったいない。伸ばせば似合いそうなのに」

「だってさ、長いと面倒じゃない? 私はこれでいいの」


 僕の返しを鼻で笑いながら、リタは自分の髪を弄る。さらりと流れる髪は伸ばしたら映えるだろうに。鏡が埃を被っている時点でリタが自分自身にそこまで関心を持っていないのは分かっていたよ。言質は取った。


「僕も長いのは面倒だと思います。だからこの長さでいいですよね?」

「じっちゃん、この人形は愛玩に向かない……」


 ああ、リタの趣味の押し付けはそういう事だったのか。僕はどうやらリタに人格のある一個人として見てもらえてはいないようだ。確かに人形で着せ替えをする時に、人形の意向を聞くなんてことはないだろう。


 僕としては自分が人形になったという感覚はあまりなく、むしろ少女になった感覚の方が強かったのだけれど、リタからしたら同じ人間ではないのかもしれない。


「エミはただの自動人形(オートマタ)ではないのだ。当然だろう?」


 おっと、また知らない言葉だ。自動人形。どういう意味だろう。


「そりゃ私が魂寄せしたわけだし分かってるけど……」

「あの、自動人形って何です?」

「ん? ああ、エミちゃんみたいな人形の事だよ。エミちゃんはちょっと違うかもしれないけど、物質界の身体は自動人形と変わりないね」


 物質界は聞いた事はないけど、察するに形のある物の世界の事だろう。あまり耳にしない単語が説明になっていない説明と共に吐き出される。


「まあ簡単に言えば、勝手に動く人形ってところかな」

「ルッツ、今の説明でいいんですか?」

「いいんじゃないか。動力機関やジョイントの話を聞きたい訳じゃないのだろう?」

「あっ、はい。しなくていいです」


 工学的な話は聞いたところで理解はできなさそうだ。僕が組み立てられるのはせいぜいトランプタワーぐらいなものだった。それなら釘も工具も使わないで立てられる。


 そうだ、ついでだし他の疑問も解消しておこう。昨日と比べて頭はクリアーだし、人形であると何となく認めて分かったことがある。僕が何かを考えたところであまり意味はないという事だ。いきなり人形になってるような世の中で、僕の中で培ってきた知識は役に立たない。


「ところで昨日も言っていた魂寄せの儀ってなんです?」


 僕はこの質問を取っ掛かりにして、当たり前のように飛び交っている魔法であるとか物質界について知るつもりだった。ルッツは人形師だからリタの言うように物質界のエミを作り上げたのだろうけど、恵美喜祐の意識がここにあるのは僕の知る知識から大きく逸脱した状態だ。高校に登校する途中に落下物に潰されて死んだのだとして、死んだ後の僕はいったい何があってこんな事になっているのだろう。


「えへへ、ちょっと教えられないかなぁ。どう説明したものか……」


 僕の期待に反してリタが言いよどむ。この切り口では僕の求めてる答えは得ることが難しそうだ。だけど構わない。今の僕には聞きたいことが山ほどあるのだから。


「じゃあ、魔法ってなんですか?」

「エミちゃんは哲学的な事を聞くねぇ。魔法は――なんだろう、素敵なものだよ。うん。使い方さえ間違えなければ皆がハッピーになれるものさ」

「はぁ、なるほど……」


 自動人形の説明をしてくれた時と違って抽象的で具体性の欠けた答えが返ってきた。この答えは何にでも当てはまるような気がしてならない。


「まあ、魔術体系が出来上がってからは皆そっちにいっちゃったけどさ、あれには神秘性がなくて私は好きじゃないなぁ、なんて」

「魔術、ですか……」


 何か一つを説明される度に、一つ疑問が追加されていく。そもそも前提となる知識がどうやら今の僕には欠けているようだ。だがそれでもリタの口振りから理解した。この世界には当たり前のように魔法、魔術があるようだ。この二つには違いがあるらしいが、そこはまだ分からない。


「その魔法と魔術って違うんです?」

「人間と自動人形ぐらい違うんじゃないの」

「それ、どう違うのかもうちょっと分かりやすく……」


 リタの言葉はどうにも基礎的な部分を飛ばしている。それこそ僕の見た目は第二次性徴期を迎える前の少女のものなのだから、噛み砕いて説明してくれても良さそうなものだ。


「エミ、ちょっといいか。儂の方から一つお前さんに訊きたい事がある」

「えっ? あ、はい。いいです」


 リタを質問責めにしていると、ルッツの方から僕に訊きたい事があるという。僕としては何かを理解する糸口を掴んでいるような気がするから、ここでリズムを崩されたくない。だけどルッツの声色は初めて聞く硬い声だった。何か重大な事なのかもしれない。


「エミ、お前はこの世界の民ではないな。――いったい何者だ?」


 そんなの僕が知りたい。


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