特別に強いわけでもない
「ほれ、どうだ」
「握りにくい事もないですし、重さも問題ないですけど……長くないですか?」
リオネルが持ってきたのは僕の身長の二倍を優に超える長い棒だった。真ん中あたりに布が巻きつけてあってグリップを良くしてあり、先端は丸く整えた上で不織布で覆われている。ごっこ遊びで使うようなそこらに転がっている棒ではない。しっかりと訓練用に作られたものだ。
僕は試しに槍のように構えてみる。左半身を前に出して、左手で真ん中のあたりをしっかりと握る。そのまま穂先をあげていって、地面に叩きつけるようにして振り下ろす。棒が風を切ってひゅんという音が鳴った。
「意外に様になってるじゃねえか」
「そうなんですか?」
次に突いてみる。一点に力が集中する当たればただでは済まない技。だけど実際には振る線の攻撃の方がいいとかなんとか。自分でちょっとやってみたけど虚空を突くのは音も鳴らないし地味だった。
「腕だけで突こうとするんじゃない。全身を使うもんだ」
リオネルが僕の動きを見て指摘する。
「全身って言うのが分かりません」
腰も入れてちゃんと突いているつもりだった。リオネルは僕から棒を奪うと、軽く振り回してから構える。実演してくれるようだ。
「まず、お前さんのやってる奴がこうな」
リオネルは曲げていた腕を伸ばし、左足から踏み込むようにして棒を突く。どこが間違っているのだろうか。リオネルは突き出した棒を引き戻すと再び同じように突き出す。
「で、おれが言いたいのはこうな」
リオネルが構え直し、今度は腰を捻ってその動きを利用して槍を突き出した。僕の動きを模倣した時とは棒の突き出される速さも違うし、何より上半身を捻った分だけリーチが伸びている。リオネルが自分のやり方だから、と気合を特別込めたという訳でもなさそうだ。
「でも、隙だらけでは……」
「突きを撃つ好機に隙もへったくれもあるかよ。隙が嫌なら穂先を振ってる方がよっぽどいい」
リオネルが棒を返してきたので、リオネルの動きを見よう見まねでやってみる。そもそもゴスロリ服で大きい動きをするとフリルが舞って動きづらいのだけど、なんとか。
「肩の力を抜いて。そんなに固くならないでいい」
「……僕よりもアンネの方の指導をした方が良いのでは?」
「町遊びに抜けるだけあって、あれで運動神経がいい。問題ない」
リオネルが僕の動きを一旦止めて、身体のあちこちを触って理想とする形に矯正してくる。スカートなのに大股開きだよ。
リオネルに放ってかれてしまっているアンネは身体を解しているところだった。背筋を反るといい感じの曲線が上半身に描かれる。僕と違って将来有望だ。
「リオネルの職務態度に問題があると思います」
「後で適当に打ち合いでもすれば十分さ」
内股を叩かれて今まで以上に足を開く。肩を押されて重心を落とすように言われ従う。
「あ、そう言えばアンネが言ってましたよ。『男に勝てないんじゃやる意味がない』みたいな事を」
「女が武器を持った所で、同じ条件なら性別の差が出るもんさ。男でも相手が二人になったりしただけで、途端に勝ち目がなくなったりするし、気にしなくていいと思うけどな」
アンネがストレッチを終えて、木剣を持って素振りを始めた。この辺りは繰り返し行っていることだろう。まだアンネに付く理由もないわけだ。僕の棒の握り方にも指導が入る。
「リオネルは身体を温めたりとかしないんですか?」
「稽古をつけるぐらいは訳ない。むしろ稽古がいい準備体操みたいなもんだ」
「いつもの、終わりました」
アンネが「いつもの」とやらをこなしたようで、軽く汗ばんだ様子でリオネルに報告をした。リオネルは僕が構える棒の穂先で、仮想の敵をやってくれていた。
「じゃあアンネローゼとエミでちょっと打ち合ってみようか」
リオネルに棒を持って行かれ、その代わりに木剣を渡される。刃にあたる部分に重さがあって、木製とはいえ剣というものにわくわくを感じる。ちょっと振ってみても棒と全然違う。重い。
「そういう事なら槍の構え方よりも剣の構え方を教えてほしかったです」
「振ってればなんとかなるさ」
アンネの方はやる気満々といった様子で、既に構えに入っている。それを見習って前の世界でやった剣道の中段の構えを取るけど、こっちの世界でも似たようなものだろうか。引いた足の踵を上げるけど、ローファーを履いているのでとても動きづらい。
「よし、じゃあ始めっ!」
「たぁっ!」
リオネルの開始宣言と同時にアンネが先手必勝とばかりに上段から振り下ろしてくる。体格差もあるしこれを素直に受けるべきではない、と直感で判断。右後方へと下がりつつ、木剣で弾く。改めて距離を取ろうとすると弾いたアンネの剣が木剣に押し付けられ、鍔迫り合いの形になる。
「いいぞー、押せ押せー」
リオネルの言葉通り、アンネはぐいぐいと体重を掛けて剣を押し込んでくる。自分よりも体格のいい相手の力を受け止めざるを得なくなった時点で僕の敗北は決まっていたようで、始まってから十秒も経たずにリオネルの止めが入った。




