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それは、つまり、そういうこと

 よく考えたら、人形の姿が男だったとしても生殖器なんていらない訳だ。更に言えば今の僕は女性的な魅力を取り払った純粋に美しい姿なのだ。……さて、とりあえず真っ先に気になった事はもう既に確認した。悲しい事実だけど仕方がない。次だ。


 手放しで褒め称える二人の成果物であろう「僕」について、色々と知らなければならない。今の僕を構成する人形としての身体はルッツが作ったものらしいが、まずおかしいでしょう。人形が動くとはどういう事なのか。


「うん、しょっと」


 まずシャツを脱ぎ捨て、自分の胴体を見下ろす。身体にある凹凸といえば肋を模した段々、それと臍ぐらいなものだった。胸・腹・腰と分割している訳でもないのに、人体のように前後左右に曲がる。下手に動いてぽっきりイったらどうしようかと思ったが、その心配はなさそうだ。肘も関節が露出しているという事もなく表面をつるりとした素材が覆っているみたいだった。動かしてみるけど関節からモーターの音がするなんて事もない。


「どうだ、まるで人のようだろう」

「僕、本当に人形なので?」

「ああ、間違いない。儂がこの腕で作り上げたんだ」


 ルッツが腕を叩いて強調する。水分を失って乾燥している肌が筋肉に張り付いている。きっと人形作りは体力勝負なのだ。これだけ精巧で人間に近い人形を作るのだから消耗は相当なものだろう。きっと子供を作った方が早い。


 とりあえず上半身を確認したので、次はロングパンツをずり下ろ――すのはやめた。下着が必要なのかと問われると疑問だけど、何も布を纏わない股間が見えたら反射的に引き上げていた。顔が熱い。血が通ってるか怪しいのに。


「おお、下半身は顔の次に頑張った部位だというのに」

「……じっちゃん、不愉快なんだけど。エミちゃん、別に穴はないから恥ずかしがることはないよ。あ、いや、それでも、恥ずかしいもの、かな」

「そうですね、その通りです」


 会話の中で自然に人の敏感な部分に触れてくるぞ、この人たち。


「――トイレはどうすればいいので?」


 入口はあるけど、しかし出口はない。アイドルはうんちをしないらしいが、偶像(アイドル)はしようと思っても出来ない。誰を象ったものかは知らないけど。


「がっはっは、そんなの決まっておる。吐き出せばいい」


 ルッツが下世話な質問を豪快に笑い飛ばしてくれるが、どういう事かまるで説明が足りていない。追加の説明を求めてリタに視線を飛ばすと受けてくれたようで、祖父の姿に苦笑しながら教えてくれる。


「エミちゃんは人形だから、そもそも生きるための食事はいらないんだよ。だから食べ物を身体に溜めておけるけど、それだけなの」

「えっ、それじゃあ僕はどうやって動いてるんですか?」

「さあ? じっちゃん知らない?」

「儂も知らん。ボディを作ったのは儂だが、魂寄せの儀をしたのはリタだろう。大方、魔力だろうが……」


 リタとルッツが顔を見合わせて肩を竦める。


「別に動く理由とか考えなくても、魔力が無くても魔法って使えちゃうからねぇ」


 魔法すごい。よく分からないけど僕は生きてる。「ご飯を食べないと生きていけない」のは当たり前の事だけど、なんでご飯を食べないといけないか改めて聞くようなものなのかな。なんか魔法の話なのに科学っぽい。


「その魂寄せの儀とか魔法っていうのも何ですか? わからない事が多すぎて頭痛いです」


 自分自身が不思議生物なのを棚に上げて聞かせていただく。痛みや温度、光に音を感じ取っていてこの身体は高機能に過ぎる。それこそ動く理由と同じで「魔法」や「魔力」で考察が停止してしまうのかもしれないけど。


「がっはっは。エミ、だから言っただろう。キミは生まれたての赤子のようなものだと。今、全てを理解しようとしなくてもいいんだ」


 またこの優しい声だ。ルッツが脱ぎ捨てたシャツを拾って、袖を通させてくれる。


「今は眠るといい。リタのベッドは汚れたり散らかってこそいるが、元はそこそこ値の張るものだから寝心地がいいはずだよ」


 ルッツのやたら手馴れた手付きでベッドに運ばれ、そのまま毛布を掛けられる。ルッツはもしかしたらリタで慣れているのかもしれない、と考えると面白くて笑ってしまう。


「じっちゃん、私も魂寄せして疲れてるんだけどなー?」

「リタはソファで寝ればいい――と言いたいが荷物置きになっとるのか」

「えへへ、じっちゃんのベッド借りるね」


 頭が疲れてる上に混乱してるからか、第二の人生を上手く歩めそうな気がした。


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