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余暇は寝て過ごす

 ルッツとの魔術の練習と言う名の農作業後、僕は家に戻って寝ることにした。普段よりも繊細な魔術の扱い方をしたし、何よりも規模が大きくなって魔力の消費も比例して増している気がした。肉体的には自動人形だし特に問題はないのだけれど、あまり動く気がしない。魔力はどうにも精神と関連したものらしい。


 ヴィルダーロッター邸には僕の部屋がある。僕の部屋といっても、元からある来客用の部屋を僕が使っているだけだ。一通り揃っている家具も僕が魂寄せされる前からあったものだし、僕が利用するようになってからも自分の物が増えたりしていないので自分の部屋という意識は薄い。


 アステルに来てからは、前の世界にあった娯楽がない。例えばゲーム機なんてものや携帯端末はない。当然のことながらSNSなんてものもなければ、家から出るのも控えるように言われているのでコミュニケーションにも飢えてる。一人で楽しめる漫画やテレビ番組などのサブカルチャーもないのだ。舞台劇ならあるかもしれないけれど、重ねて言うが僕は外に出れない。


 だから、やる事がなくなったらルッツやリタのやってる事を見に行くとか、家事を手伝う事ぐらいしかない。今の僕がやるべき事と言っても魔術の練習ぐらいなものだから、暇を持て余しているのが現状だ。だからいくらでも昼寝の時間を取れる。


 靴を脱いでベッドに入ると、僕はショートヘアのウィッグを外してから枕に頭を預ける。枕からはウィッグを綺麗にするための洗剤の匂いがする。代謝をしない僕の体臭とも言えるだろう。どんなに疲れて寝入っても、僕の口から涎が垂れることもない。口臭は……してるのかもしれない。僕に必要ないのに、結局食事は人間と同じようにしているから。


 気怠い。眠いという訳でもないけど、瞼が下りてくる。身体がいくら丈夫だったとしても、魂が追い付けないようでは宝の持ち腐れだ。でも、眠るのは気持ちいいしそう悪い事でもない、かな……。




 僕が寝入ってから起床するのは早かった。まだ日が沈む前に起こされたからだ。僕を起こしたのはルッツ。頬をぺちぺちと叩かれたのだ。


「エミ、お前にお客さんだ」

「……ん? だえ?」

「エンゲルス氏だ」

「……だれ」


 僕はそんな人は知らないぞ。僕が知ってるのはルッツとリタ、あと反物屋のおばちゃんとアンネぐらいだ。


「コホレアの町長だ。昨日、エンゲルス氏の令嬢を助けただろう?」

「ああ……うん」


 そういえば、アンネのファミリーネームもエンゲルスだった、ような気がする。アンネローゼ、エンゲルス。うん、そうか。という事はグスタフ氏か。グスタフ氏が来たんだな。


「客間に待たせてるから、眠いかも知れないが起きてくれ」

「うん、今行くから。待って」


 僕は言葉と裏腹に毛布を頭に引っ被る。すぐに引っ剥がされる。むごい。


「儂が身形を整えてやるから横になるな」


 ルッツが僕を抱えて椅子に座らせる。頭にウィッグを乗せられ、微調整で頭ががくんがくんと揺らされる……。でも首に力を入れるのもめんどくさい。なんとか整ったのか、ぱたぱたと僕から足音が離れていく。クローゼットの方だ。がらがらと戸を開ける音。


「おかしい。以前、洗濯してここに掛けておいたはずだが……」

「なに探してるの」

「濃紺のドレスだ。知らないか?」

「…………」


 僕は着る物に無頓着だ。着れればいいので、ルッツが人形作りの延長で作る衣装は自ら進んで選ばない。これに関してはリタの方がだいぶ弁えていて、反物屋で買ったシルクのワンピースなんかは楽なのでよく着ている。ただスカートには慣れないので、スカートの下にズボンを穿く、俗にいうハニワになっているけど。今は白いシャツにズボンというずぼらを極めたスタイルだ。快適。


「あ、リタが持って行ったんだ」

「あ? なんでリタが持って行くんだ」

「よく分かんないけど、ドレス抱き締めて興奮してた」

「……いいか、エミ。今度から私物はしっかりと管理するんだ。分かったな」

「あー、うん。次から気を付けます」


 ルッツが険のある声になった。また何かやらかしたのか、リタ。


「仕方ない、これでいいか」


 職人のごわごわした手が、赤ワインのような深い紅のドレスをクローゼットからピックアップしてきた。一人で着ようとすると無理臭い奴だ。


「ルッツが着せてくれるなら僕はどれでもいい」

「お前さんの物臭は誰に似たのやら」

「リタ」

「そんなの分かってるわい。ほら、両手挙げて脱いで。ばんざーい、ばんざーいしろ」

「――ふっ」


 子供扱いされて急に目が覚めてきた。何やらせてるんだ僕は。


 僕が協力的になれば、ルッツも手慣れたものでドレスの着付けはそう時間が掛からずに終わった。もしかして女装趣味があるのではないか、と疑いたくなるようなルッツの手際によるものだ。


「これでよし、っと」

「お手数おかけしました」


 姿見に映った自分の姿を見て、改めて思う。容姿に安堵して堕落してたらいけない、と。身形の最終チェックを終え、僕らは僕の部屋もとい客室を後にし客間に向かう。


 そこにはグスタフ氏と帯剣している護衛の方、そして僕よりも少し身体の大きいアンネがいた。


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