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お嬢様は話し相手が欲しい

「ねえ、エミはどうしてあたしがあそこにいたこと分かったの?」

「えっと……どういうことかな」


 アンネが尋ねたかっただろう事を聞いてくる。


「ほら、普通あんな所通らないでしょ」

「いや別に……誰かが走ってったから、興味で裏を覗こうとしたら、その、色々あってアンネが其処にいた、というか」


 僕の意志が介在したのは最初の除くというところだけで、後は状況に流されるがままだった。気になったから感覚のまま行動するというのは今後控えるべきだろう。人は学習する生き物なのだ。僕が生き物かどうかは怪しいけど。


「見てる人は見てるんだなぁ。正直、駄目かって諦めたもの」

「お互いに無事で良かったと思うよ」


 本当に無事で良かった。この身体に何かあったら、パーツの換装をしたりするんだろうと思うとそれ以外の言葉が浮かばない。僕が換装を認めているのはウィッグだけなのだ。まだ人間でも可能な事だけに、安心して別の物に変えられる。


「エミってあたしよりも小さいのにすごいよね。魔石もなしに魔術使えるって事はその内にアカデミーとかやっぱり行くの?」

「アカデミー?」

「……もしかしてアカデミーを知らなかったりするの?」

「学校みたいな?」

「多分そうじゃないかな? アカデミー・タースディセーズ。魔術研究の名門、ってあたしは聞いたけど」


 そうか。魔術がこれだけ生活に溶け込んだものならば、そういったものに特化した学問の聖地があってもおかしくはない。とにかく権威のある学校なのだ。多分。何処にあるかも知らないけど。


「なんか安心した」


 アンネは僕がアカデミーというのを知らない事に安堵したようで、何故か僕を見ながらはにかんだ。今は自然体だからか、とても可愛らしく見える。怯えた顔が可愛く見える人もいるようだけど僕にはそういった趣向はない。


「エミって何でも知ってるような感じがあるから、そんなエミでも知らない事があるんだって思うとおかしくって。あたしでも知ってるのに」

「知らない事ばっかりだよ。むしろ知ってる事の方が少ないぐらいだ」

「……むぅ、そういう言い方がちょっと生意気って言うか。家庭教師とか母様みたいでなんかイヤ」


 アンネがむくれながらカスタードパイを頬張る。あまり詰め込んではパイ生地が水分を吸い取ってパサパサするだろうに。案の定、すぐに紅茶で胃に流し込む。町長がどれほどのものかは分からないけど、お嬢様なのだからもう少しお淑やかに振る舞えないものなのだろうか。


「あー、でもエミが家庭教師ならあんまりイヤじゃないかも」

「年下の家庭教師って……」

「エミならいけるんじゃない? ほら、魔術を教えるとか」


 アンネが目を輝かせて喋ってくる。今の家庭教師には相当な不満があるらしい。嫌なら別の人を雇えばと思うのだけれど、なかなかそうはいかないのだろうか。


「逆に僕が魔術を教わってる身だよ」

「えーっ、じゃああたしもその人に魔術教わりたい。かっこいい? それともきれいな人?」

「……偏屈なお爺ちゃんだけどいいの?」


 いったい一瞬でどんな想像を作り上げていたのか。アンネは僕の言葉で一気に萎えたようで、溜息を吐きながら「お爺ちゃんはアマデウスだけでいい」と言ってテーブルに突っ伏してしまった。傍に控えていた執事の方が苦笑していた。家庭教師に母親、そして執事。周囲の大人に反抗するお年頃のようだ。


「あー、外に出たい」

「で、また捕まるの?」

「そしたらもう一度助けてくれる?」


 アンネがテーブルに頭を預けたまま、こちらを上目遣いで見る。


「きっとリオネルさんが」

「おっちゃんは求めてない……いらん」


 再びテーブルに突っ伏した。僕は求めてる答えをあげるようなイエスマンではないのだ。


「王子様が颯爽と助けてくれるなんて事はないよ」

「ちびっ子魔術師が助けてくれる方が有り得ないよ」


 アンネが顔を見せないままでくつくつと笑う。言われてみればそうなのかもしれない。王子様は窮地に陥ったヒロインを助ける力を持つだろうけど、まさか年端もいかぬ子供がヒロインを救うなんて滑稽だ。ましてやそれが女の子なんてなれば尚更だ。女児向けのアニメを思い出して、僕もアンネに釣られるようにからからと笑う。


「……可愛いね」


 アンネが唐突に顔を上げる。その目は真剣そのものだ。


「うん、自覚はあるよ」

「エミのそういうところ嫌い」

「それ、さっきから言ってる」


 僕とアンネは顔を見合わせてまた笑う。僕には兄しかいなかったが、妹がいたらこんな感じなんだろう。もしかしたらアンネの方も僕の事を妹のように思っているのかもしれない。お互いに生意気に感じるわけだ。


 笑って和やかな雰囲気になったところで、部屋の扉がノックされる。アンネが入るように促すと、一人の女性が入ってきた。踝丈の給仕服だ。おくゆかしい。


「エミ・キスケ様、町長の手が空きましたのでお呼びに参りました」

「はい、分かりました。――アンネ、美味しかったよ。ありがとう」

「どういたしまして。あたしも着いて行ったら駄目かな?」

「旦那様は、リタ様とエミ様のお二人とお話がしたいとの事です」


 アンネの膨れっ面を後にし、僕は女性に導かれてグスタフ氏の書斎へと向かった。


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