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官憲のお兄さん

 僕の勘が告げた通り、リタがおばちゃんに丸め込まれたせいで採寸をするハメにはなった。採寸結果の下に、リタ好みのお揃いの服が出来上がるという。リタの部屋を思い出すんだ、僕。彼女の趣味はどんなだったか―ただ汚い事だけしか頭に残ってない。 僕の記憶力が残念なのか、エミのスペックが残念なのか、それともリタの部屋が残念なのか。理由はさておき僕は着せ替え人形になるしかないようだった。


「バランスのいい身体をしてるね、お嬢ちゃん」

「まあ、そうでしょうね」


 ボディのいたる所の長さを調べられていると、おばちゃんがエミをそう評した。返事がちょっと自惚れた感じの言い方になってしまったけど仕方がない。だって作られた身体がバランス良かったとしても当然じゃないか。


「ふふっ、何か習い事でもしてるのかしら。踊りを習ってるとシャンとした姿勢になっていいのよ?」

「なるほど、そうなんですか」

「おばちゃんもね、若い頃は踊り子なんてやっててね。すごいモテたんだから。その時に今の旦那と出会――」


 永久会話吹雪(エターナルトークブリザード)の始まりだった。相手は死ぬ。相槌を打つだけの機械になるより他はない。ただ、エミの採寸をした後にリタが採寸されていたけどとても会話が弾んでいるようだった。


「では一月もすればお洋服が仕立てあがりますので店にお越しくださいね」

「出来上がりを楽しみにしてますね」

「はい、ありがとうございましたー」


 反物を扱う店でありながら、おばちゃんの趣味で服飾への加工も気分次第でやっているようだった。気に入ったお客さんが来たらその人に自分の手で作った服を着てほしい、そういう事だそうな。ちょっと光栄だな、なんて思ったりする。


 そしてリタが買っていたのはさらさらとした滑らかな手触りが特徴の薄手の布だった。シルクという奴だろうか。前世でも綿とか化学繊維っぽい何かの服ぐらいしか記憶にない。着た事はあると思うんだけど、高そうなイメージが先行して思い当るものがない。


「いやぁ、絶対にワンピースが似合うと思うんだよね。髪から服まで、全部私がコーディネートしたエミちゃんは最強に違いないよ」

「肝心なボディはルッツが作ってる、という突っ込みはアリですか?」

「料理人は農家の作ったものを活かすのがお仕事なのだよ。問題ない」


 リタと共に買い物から帰る途中、物々しい様子で武装をした人たちの姿を見掛けた。鎖帷子を着用し、腰の背面には剣を佩いている。


「うわぁ、官憲だ……」

「かんけん?」


 リタが一団を見てとても嫌そうな顔をしている。何だろうか。


「町の治安維持をしてる人たちの事ね」

「――あ、なるほど」


 官憲とは言わば警察みたいなものなのだろう。治安維持をする組織が悪いわけではないけど、僕も前世で職務質問を受けてとても面倒だった記憶があるのでリタの気持ちが分かる。一団は僕らと反対側から市場の人混みを左右に割りつつ、何処か偉そうな態度で歩いているように見えた。


 僕らも道を譲るように通りの端を歩くと、隣を抜ける際に先頭を歩く一人がこちらを向いた。精悍な顔つきの男だ。彼は僕の隣を歩くリタを見て破顔した。


「お、リタじゃないか。久しぶりだな」

「うん、久しぶり……」


 男はリタの知り合いのようで、今まで纏っていた慇懃無礼な雰囲気が何処かへ飛んだかのように気さくに話し掛けた。笑って歯を見せるのが何処か気に障る男に対して、リタの方は粗相を見られた犬のように元気を失っている。


「相変わらずだなぁ君は。ちゃんと食べてるのかい?」

「そりゃ、まあ……」

「うんうん、食事は元気の源だからな。いい事だ。――ところで隣の子は?」

「ああ、うん。新しい妹です……」

「へえ、あの爺さんも未だ現役でやってんのかい。君はすごい綺麗だね、美人さんだ」


 リタが僕を妹として紹介したというのに「爺さん」と出てくる辺り、この官憲の兄さんはルッツとリタの事をよく知っているらしい。屈んで僕と目線の高さを合わせると、微笑みながら感想を述べてきた。


「あんた、こんな自動人形を口説くつもり?」


 リタが冷ややかな目で男を見る。もしリタの言う通りならロリコンだ。この世界でいくつから成人として扱われるかは知らないけど。


「はははっ、僕の趣味はどちらかというとリタなんだけどね?」

「よく言うわよ、全く……」


 僕から目線を外してリタをからかう様子は嫌らしさを感じない。なるほど、これがイケメンか。リタもリタで呆れてはいるようだが満更ではない様子だ。


「隊長、もうその辺で切り上げてもらえませんかね?」

「妻帯者がよく言いますね……」

「上司の娘を嫁に迎えてるのに怖くないんですか、隊長」


 他の官憲の方々が男、隊長に向かって口々に文句を言う。隊長という事は彼らにとって上司ではないのか。上下関係が他人事ながら不安だ。


「はいはい、すまんね。――忙しなくて申し訳ない、今度そこの子とうちにおいで。妻も会いたがっている」

「口約束なんかじゃあね。招待状の一つでも出されれば別だけど」

「そうだな、違いない。そうさせてもらうよ。じゃあな、お二人さん」


 隊長が官憲の皆々に苦言を呈されながら去っていく。遠くから見た時には多少は厳めしさを感じたのだけれど、今の背中からはそういったものは感じ取れない。

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