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page 7


俺は今、道具屋を出て大通りを歩いていた。


ドガロの店で防具を売れなかった俺は、ドガロから店の場所を教えて貰い、そこに向かう事にした。

どうも防具屋は草原に出る西の門の近くにあるらしい。



広場を超えて西の門に続く道は、森に続く反対側よりも人通りが多い。その大半がプレイヤー達だ。

ここで歩いているプレイヤー達は、持っている武器は様々だが着ている物はどれも同じだ。

俺が最初に着ていた村人の服とは違う布製の服を着ている。

きっとあれが戦闘系スキルを取った人達に支給された防具なのだろう。



そんな中を歩いていると鎧と籠手を装備した俺はやはり目立つのか、すれ違う度にチラチラと見られている。

背中の木槌も珍しさに拍車を掛けているのだろう。



「なんか気まずいなぁ…」


そんな視線を気にしながら進んで行くと、目的の店に到着した。

俺は逃げるように店に入って行った。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




店の中に入ると人が何人かいて、棚を見ていた。

棚には商品のである防具の見本が一つずつかれており、様々な種類がある。盾もこちらで売られているようだ。

少々興味を引かれるが、先に防具を売って仕舞おう。

そう思いカウンターにいる店の店主らしき男性に声をかけた。



「すいません、ちょっといいですか?」


「はいお客様、何か当店の商品についてのご質問でしょうか?」


「いえ、こちらで防具の買い取りをしてもらえると聞いたのですが、お願いできますか?」


「ああ、買い取りの方でしたか。ええ、大丈夫ですよ。ではまず商品を見せてもらえますか」


言われた通り、カウンターに作った物を並べていく。男性は並べられた物を鑑定しているのか、あちこち調べながら懐から取り出した手帳に何か書き込んでいる。


俺はドキドキしながらその光景を見ていた。









「すみません、大変お待たせ致しました」


とうとう鑑定が終わったようだ。



「それで持ってこられた防具数点についてですが、」



「はい」

ゴクリ、と息を飲む。



「特に問題ない様なので、こちらで全て買い取らさせてもらう事にしました」



俺はその言葉を聞いてホッとした。

品質が低いのもあったからダメかも、とか考えてあたが考えすぎだったようだ。



「わかりました、ありがとうございます。全部でいくらになりますか?」


「そうですね、毛皮鎧が2つで5400、籠手が3つで1000、首飾りが6つで1300で合計7700Z(ゼム)になります」


ウ~ン、俺じゃ高いのか安いのかわからんな。今度キーラス当たりに聞いてみるか。



「この値段ってやっぱり品質も関わってくるんですか?」


「勿論ですとも。例えば、この籠手は充分実用に耐える品ですが品質があまり高くないので少し値引きさせていただいております。逆に首飾りは品質が高めの物が多かったので少々色をつけております」



成る程な、つまりNPC達は品質が3以下だと低品質と判断するのか。覚えておこう。



「わかりました、その値段でお願いします。教えてくれてありがとうございました」


「いえいえ、こちらこそお客様のお力になれれば幸いです」



俺が店主に頭を下げると、店主は手を振りながらそう返した。

しかしこの人、腰の低い人だな。

俺の方が買い取ってもらう側なのに、どこぞの親父と違って対応も丁寧だ。



「じゃあ今日はこれで失礼します。また作った物を売りにくると思うので、よろしくお願いします」


「お待ちしております。

申し遅れましたが、店主のロームと言います。今後ともよろしく」


「俺はゼンです。じゃあまた今度」


俺は自己紹介を終えると店を出た。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



俺は店を出た後、再びドガロの店に向かっていた。


本当は防具を売ったらポーション等の必要な物を買って直接町の外に行くつもりだった。

防具を作るのに素材アイテムをほとんど使ってしまったからである。

しかし、道具屋で思わぬアクシデントがあったために買い忘れてしまったのだ。


そんな二度手間を面倒臭がりながらも、スタスタと歩いて行く。

町は俺が道具屋に向かっていた時よりも人通りが増えていた。おそらく外のプレイヤー達が一時的に戻って来ているのだろう。



でもなんか変じゃないか?

メニュー画面で時刻を確認、まだ正午過ぎだ。

スタミナの事を考慮に入れてもプレイヤー達が戻ってくるにはまだ早すぎる気がする。

よく見ると、様子も皆慌ただしくしているのがわかる。



「って人の事よりまず自分の事やらないと」


今の時間なら俺一人でも充分な量の素材が取れるはずだ。

そのためにも、なるべくはやく動かなければ!

俺は自分にそう言って早足で目的地に移動して行った。



ドガロの店に入ると先ほどと違って、店主だけではなくプレイヤー達もいた。

彼らは商品を買うためにドガロのいるカウンターに並んでいる。それを見て俺も最後尾に並んだ。

よく見てみると町の中の人達と同じように、皆どこかそわそわしている。


列に並んで待っていると、前の2人のプレイヤー達の話し声が耳に入ってきた。



「おい、さっきの狩場の話ってマジなのか?」


「ああ、確からしいぞ。今知り合いに確認取った」


「やっぱそうなのか…。でも何でだ?確か、あそこの岩場の辺りは例の"もどき"連中が占領してただろ。

アイツラがこんなに早く狩場どくとは思えねーんだけど」


「何でも、連中のど真ん中にユニークっぽいやつがポップしてまとめてやられたらしいぜ。しかも、ソイツにリンクしたまま逃げたやつがいて、他の"もどき"達に向かったもんだからかなりの人数が巻き添えにやられたらしい」


「その隙に空いた空白地帯に他プレイヤー達がなだれ込んだのか。成る程な。

でも問題のユニークはどうしたんだよ?そんなヤツいたらすぐ殺されるだけじゃないのか?」


「いや、知り合いの話だともう大丈夫らしいぞ。

何でも、テスター連中が囲ってなんとか倒したんだとか」


「テスターマジぱねぇな……。てか、そんなヤツこんな町の近くに配置すんなよ………」


「確かにな。まあ、そのお陰で"もどき"どもがまとめて吹き飛んでくれたわけだが」


「アイツラに関しちゃ同情の余地が全くないからな。これこそまさに天罰」


「同感だな。それより早く行かねーと折角空いた場所が埋まっちまうぞ」


「だな。あ~、早く列進まねーかな」




なんか色々知らない情報が出てきたな、頭がこんがらがりそうだ。

とりあえず落ち着いてから情報を整理しよう。


つまり、前2人の会話を纏めるとこうだ。

どうも"もどき"なる集団が良い狩場を独占していたがそこにユニークが出現、ソイツらを壊滅させた。

お陰で他のプレイヤー達もその良い狩場を使えるようになった。


成る程、町にプレイヤー達が戻って来てたのはユニークが出たからだったのか。

で、俺の前のプレイヤー達がそわそわしているのは、狩場が空いたからか。


ここで言われているユニークとは、フィールドにたまにしか出現しないユニークモンスターの事だ。

出現するモンスターの種類はフィールド事にバラバラだが、強さはかなり高く設定されているらしい。



しかし、今の話を聞く限り草原の状況は昨日とあまり変わっていないようだな。

しかも、"もどき"とか言われてる面倒臭そうな連中も居る事が判明した。今日は草原の方に行こうと思っていたが、変更して森にした方が良さそうだ。



「……出来れば、森は避けたかったんだけどなぁ…」


思わず、昨日の"訓練"を思い出してしまい暗くなる俺。

実際、あの訓練は適正レベルの高い敵を倒す練習にはうってつけだが、その分難しく危険度もかなり高い。

最初の町のモブであるグレイウルフ相手ですら、かなり恐い。

ヤツの一噛みでHPが五割を切ったのを感じた時は、息が止まりそうになったのは当分忘れられそうにない。


そんな恐怖の記憶を思い出していると、視界に木で出来たカウンターが入ってきた。

どうやら考え事をしている内に俺の順番が回ってきたようだ。



「いらっしゃい、ってゼンじゃねえか。なんだまたきたのか」


ドガロは客が俺だと判ると前にいた客とは違った反応を示した。



「またとはご挨拶だな、これでも一応客のつもりなんだが」


「物を売る場所もわからなかった小僧が何偉そうに言ってやがる。 で、どうだったんだ?」



俺の言葉にそう返してくるドガロ。

前の説教といい、憎まれ口を言いながらもそんな事を聞いてくるあたり、この親父も人がいいな。頑固っぽいけど。


そう思いながら、ドガロに礼を言う。


「なんとか全部買って貰えたよ。あの店の場所を教えてくれてありがとうな、助かったよ」


「気にするなよ、この町のヤツなら誰だって知ってる事だしな。たまたま俺が教えたってだけの話だ」


特に恥ずかしがる様子もなくそう言ったドガロは、そのまま来店の理由を尋ねた。


「別に礼を言うために戻って来たんじゃないだろ。用件はなんだ?」


「ああ、簡易ポーションと簡易携帯食が欲しいんだ。さっき買うつもりだったんだが、つい買い忘れてしまってな」


「アッハッハ!確かにあの時のおめぇさんはかなり慌ててたからな。いくつ欲しいんだ?」


「ポーションを4つ、携帯食は2つくれ。今から森に向かうんだけど、それくらいで足りるよな?」


自分で言いながらも、不安からついドガロにそう尋ねてしまった。

自分の事ながら情けない話である。



「ああ、夕方に戻るんなら今の時間からならそんだけありゃあ十分だろ」


「だよな、少しホッとした」


「しかし今から森に向かうとなると、今回で簡易携帯食は卒業になりそうだな」


話の中でドガロがそんな言葉を漏らした。

卒業ってどういう事だ?言葉の意味がわからん。



「それってどういう意味だよ。なんか変わる事があるのか?」


「ん?なんだ、それも知らなかったのか」


そう話すドガロにどういう事かを尋ねてみた。


ドガロが言うには、この簡易携帯食というのは元々金のない未熟な冒険者のための物なのだそうだ。

だから値段もかなり安く設定されている。


だが最近はそればかり食べて、町の料理店を利用しない奴らが増えてきたので一定以上の力量を持つ冒険者への販売を町として禁止する事にしたのだとか。


その話を聞いた俺は驚いていた。


何せそんな話は聞いた事がない。姉が調べた資料にはなかったし、秀樹からも聞いていない。

おそらく誰も知らなかったのではないだろうか。

俺の後ろに並んでいる話を聞いていたプレイヤー達の慌てようがそれを表している。

おそらく、仕様の変更があったんだろうな。



「じゃあ今多めに買っといたほうがいいのか」


「いや、そいつはやめといた方がいいだろう。

この簡易携帯食は、簡易っていうだけあって簡単に作れるが長期間の保存はできねぇんだよ。

もって2日が限界だろうな。どうする?」


「……いや、やめとくよ」


俺は追加注文をやめた。

今ドガロは"もって2日"と言ったが俺には「2日もたないだろう」と言われてるような気がした。

いつ腐るかはっきりしないし、何より腐った物を食べてしまうのが恐い。

食べたら確実に何かの状態異常になるだろう。

一人で町の外にいるときにそうなるのは勘弁したい。


商品を受け取った俺は、ドガロに挨拶してざわついている店内を出た。

そして、その足で資材集めに森に向かうのだった。





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